超短くても怖い話【ホラーショートショート集】

戸影絵麻

文字の大きさ
379 / 625

#355話 施餓鬼会⑳

しおりを挟む
 牛舎の中はバケツごと赤いペンキをぶちまけたように血まみれだった。
 中でも凄絶なのは、半ば解体された二頭の乳牛の死骸である。
 どちらも胸から腹にかけて大きな穴が開き、そこから鳥籠みたいな形を胸骨の一部が見えている。
「かわいそうに」
 菜緒が死骸に向かって両手を合わせ、祈るようなしぐさをした。
「これは…」
 私はうめいた。
 ゆうべの出来事が脳裏をかすめた。
 父を襲ったあの黒い影。
 家の周りを跳梁していたあいつらがやったのだろうか。
 ー最近、多いんですよねー
 刑事たちの会話が耳の奥によみがえった。
 ー正体不明の獣に襲われたっていう通報がー
「他の牛たちはとりあえず裏の空き地に避難させてます。菜緒ちゃんはあの子たちのケアをしてあげてくれない?」
 背の高い若者が菜緒に言う。
「いいですけど」
 菜緒はというと入口の手前でしゃがみこみ、熱心に何かを見つめている。
「あれ見てください。足跡が残ってます」
 牛舎の中の地面は打ちっ放しのコンクリートなのだが、よく見るとなるほど血で濡れた足跡がいくつか見える。
「警察呼んだからまだ中を細かくは見てないんだけど、言われてみればそうだね」
「あれ、形からして、絶対、猿や熊のものじゃないですよね」
「う、うん…。でも、それ言っちゃう?」
「ここはひとつ、はっきりさせておかないと。あれ、間違いなく、裸足の人間の足跡ですよね」
「つまりは、この牛たちを襲ったのは、ケモノじゃなくて、人だってこと?」
 我慢できなくなって、私は横からふたりの会話に口をはさんだ。
 真夜中に冷蔵庫の中身を食い散らかしていた勇樹の狂態を思い出す。
 そうだ。やはり…。
 翌日、母が冷蔵庫をガムテープでぐるぐる巻きにして、勝手に開けられなくした。
 そのせいで、飢えた勇樹は、その夜、家中で最も無抵抗な寝たきりの父を襲ったのだ。
 腹が減って、食べるために…。
「感染症にかかってるけど、自覚がなくって、医者にかかったり、保健所に届け出たりしていない人たち、この周辺にまだけっこう居るんじゃないかと思います」
 立ち上がると、私と青年を交互に眺めながら、菜緒が言った。
「感染症? 最近ニュースになってるやつ? それがどうしたの?」
「かかると文字通り人が変わっちゃうんだと思います。あの病気。人が変わるというか、別のモノになる…」
「餓鬼」
 菜緒の言葉を受け、私はつぶやいた。
「あれは、人間を餓鬼に変えてしまう病いなんだ」
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

10秒で読めるちょっと怖い話。

絢郷水沙
ホラー
 ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

ナースコール

wawabubu
大衆娯楽
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

処理中です...