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#356話 施餓鬼会㉑
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警察の調査が終わるのを待って、牛舎の後片付けを手伝った。
ひと通り落ちついたのをめどに、牛たちのケアから戻ってきた菜緒に声をかけた。
「よかったらちょっと付き合ってもらえないかな?」
「いいですけど、何ですか?」
意外にあっさり承諾されたので少々面食らっていると、
「どうせ大学は夏休み中ですから。生態系の調査は自由研究みたいなものなので」
と補足された。
「まあ、夏休みといっても、農学部の連中はあちこちで自主活動してるわけですけどね」
遠ざかる農業試験場を振り返り振り返り、自転車の荷台に跨った菜緒が言う。
「それで、行く先は?」
「興安寺。あそこに見える小山の上のお寺なんだけど」
「興安寺なら知ってます。住職さんに、カブトムシの幼虫を譲ってもらったこともありますから」
「昆虫も守備範囲なんだ」
「いえ、カブトムシは趣味で」
相変わらず、変わった娘である。
それだからこそ、私の思い付きにちょうどいい。
竹林の入口に自転車を止め、参道を徒歩で上がった。
住職はちょうど境内を竹ぼうきで掃き掃除しているところだった。
明日の施餓鬼会に備えてか、ずいぶんきれいになっている。
「きょうはどうしたんですか? あれ、菜緒ちゃんも一緒じゃないの」
参道を上がってきた私たちを目にとめると、ほうきの手を休めて破顔した。
「明日の施餓鬼会ですが、どんな段取りなんですか?」
ハンカチで流れる汗を拭き拭き尋ねると、
「施餓鬼会といっても、たいして派手なイベントがあるわけではありませんよ。参拝客の皆さんを本堂にお集めして、昔から伝わる儀式を行うだけです。時間は夕方の五時から約一時間ぐらいでしょうか。その後、少し講話などをいたしまして、七時には終了になります」
「意外に早く終わるんですね。ならちょうどいい。夜が空いてるってのもラッキーだ」
「何がラッキーなんですか?」
横から菜緒が口を出す。
「施餓鬼会の後、罠を仕掛けて、本物の餓鬼を捕まえるんだよ」
「はあ?」
住職の目が点になった。
「本物の餓鬼? どういうことです?」
「最近、この村の周囲で、正体不明の獣による被害が続出しています。今朝も試験場の牛がやられたし、寝たきりのうちの親父も危うく殺されかけた。これ以上、やつらを放置しておくわけにはいかないと思うんです」
「うわさは聞いていますが、あれは、熊か野犬のしわざなのでは?」
「いえ、そうではないのです」
私は大きくかぶりを振り、住職の目を見て、きっぱりと言い切った。
「はっきりこの目で見たので。あれは獣などではありません。間違いなく、餓鬼ですよ」
ひと通り落ちついたのをめどに、牛たちのケアから戻ってきた菜緒に声をかけた。
「よかったらちょっと付き合ってもらえないかな?」
「いいですけど、何ですか?」
意外にあっさり承諾されたので少々面食らっていると、
「どうせ大学は夏休み中ですから。生態系の調査は自由研究みたいなものなので」
と補足された。
「まあ、夏休みといっても、農学部の連中はあちこちで自主活動してるわけですけどね」
遠ざかる農業試験場を振り返り振り返り、自転車の荷台に跨った菜緒が言う。
「それで、行く先は?」
「興安寺。あそこに見える小山の上のお寺なんだけど」
「興安寺なら知ってます。住職さんに、カブトムシの幼虫を譲ってもらったこともありますから」
「昆虫も守備範囲なんだ」
「いえ、カブトムシは趣味で」
相変わらず、変わった娘である。
それだからこそ、私の思い付きにちょうどいい。
竹林の入口に自転車を止め、参道を徒歩で上がった。
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明日の施餓鬼会に備えてか、ずいぶんきれいになっている。
「きょうはどうしたんですか? あれ、菜緒ちゃんも一緒じゃないの」
参道を上がってきた私たちを目にとめると、ほうきの手を休めて破顔した。
「明日の施餓鬼会ですが、どんな段取りなんですか?」
ハンカチで流れる汗を拭き拭き尋ねると、
「施餓鬼会といっても、たいして派手なイベントがあるわけではありませんよ。参拝客の皆さんを本堂にお集めして、昔から伝わる儀式を行うだけです。時間は夕方の五時から約一時間ぐらいでしょうか。その後、少し講話などをいたしまして、七時には終了になります」
「意外に早く終わるんですね。ならちょうどいい。夜が空いてるってのもラッキーだ」
「何がラッキーなんですか?」
横から菜緒が口を出す。
「施餓鬼会の後、罠を仕掛けて、本物の餓鬼を捕まえるんだよ」
「はあ?」
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