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第453話 冥府の王④
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ふと見ると、むき出しの二の腕に鳥肌が立っていた。
得体の知れぬ不安に、僕はぞくっと身を震わせた。
こうしてはいられない。
うかうかしていると、また剛から電話がかかって来るに違いない。
用事なんてないけれど、ここは外出するに越したことはなさそうだ。
JR駅前の映画館で、何か適当な映画でも見て時間を潰すのも悪くない。
財布を手に取って、ジーンズのポケットにつっこんだ。
机の上のスマホに手を伸ばしたところで、待ち受け画面が香澄の画像に変わっていることに気づいて、愕然となる。
去年のクリスマス。
久しぶりに会った時に、無理を言って撮らせてもらった写真である。
少し垂れ眼気味の愛くるしい顔。
なんだか泣き笑いのような表情でこちらを見つめている。
画面を消してスマホをもう一方の尻ポケットに突っ込んだ。
忍び足で降りたつもりだったが、階段の下で祖母に見つかった。
「いつきか。どこへ行く?」
洗い物の手を休めて、祖母が訊く。
祖母と言っても、この高橋カネは死んだ僕の本当の祖母の妹である。
正確には養母というべきなのかもしれないが、面倒なので僕はただ「ばあちゃん」と呼んでいる。
「ちょっと映画でも見てこようかと思って」
「そうか」
園はふだんから寡黙だ。
だからこの時も、そうひと言つぶやいただけだった。
玄関から飛び出すと、マウンテンバイクにまたがった。
駅まで自転車で行き、そこからは地下鉄だ。
よく晴れた暑い日だった。
ぎらつく陽光で、世界全体がハレーションを起こしているようだ。
ペダルをこぎ出すと、ようやく涼しくなってきた。
5分ほど走り、有料駐輪場に愛車を止める。
人気のないがらんとしたホームへの階段を、2弾飛ばしで駆け降りる。
ICカードで改札を抜けると、ちょうどホームに列車が入ってきたところだった。
JRの駅へと向かう路線だけに、かなりの混み具合だ。
扉が閉まり、電車が走り出した時だった。
ひと呼吸遅れて、ホームにすらりとした人影が現れた。
髪の長い、長身の若い女である。
大きなサングラス。
身体の線を浮きたたせた黒の上下。
驚くほど足が長い。
「由利亜…」
その横顔をひと目見て、僕は小さくうめいた。
大門の次は、由利亜なのか。
これはいったい…。
只事ではない。
それははっきりしている。
でも、と思う。
もう、僕には関係ないのだ。
ましてや香澄には…。
地下鉄がトンネルに吸い込まれる瞬間、由利亜がこっちを見た。
目が合った。
突き刺さる由利亜の視線から、僕はとっさに顔を背けた。
-逃げるの?
幻聴に違いない。
だが、僕にははっきりとその声が聞こえた気がした。
得体の知れぬ不安に、僕はぞくっと身を震わせた。
こうしてはいられない。
うかうかしていると、また剛から電話がかかって来るに違いない。
用事なんてないけれど、ここは外出するに越したことはなさそうだ。
JR駅前の映画館で、何か適当な映画でも見て時間を潰すのも悪くない。
財布を手に取って、ジーンズのポケットにつっこんだ。
机の上のスマホに手を伸ばしたところで、待ち受け画面が香澄の画像に変わっていることに気づいて、愕然となる。
去年のクリスマス。
久しぶりに会った時に、無理を言って撮らせてもらった写真である。
少し垂れ眼気味の愛くるしい顔。
なんだか泣き笑いのような表情でこちらを見つめている。
画面を消してスマホをもう一方の尻ポケットに突っ込んだ。
忍び足で降りたつもりだったが、階段の下で祖母に見つかった。
「いつきか。どこへ行く?」
洗い物の手を休めて、祖母が訊く。
祖母と言っても、この高橋カネは死んだ僕の本当の祖母の妹である。
正確には養母というべきなのかもしれないが、面倒なので僕はただ「ばあちゃん」と呼んでいる。
「ちょっと映画でも見てこようかと思って」
「そうか」
園はふだんから寡黙だ。
だからこの時も、そうひと言つぶやいただけだった。
玄関から飛び出すと、マウンテンバイクにまたがった。
駅まで自転車で行き、そこからは地下鉄だ。
よく晴れた暑い日だった。
ぎらつく陽光で、世界全体がハレーションを起こしているようだ。
ペダルをこぎ出すと、ようやく涼しくなってきた。
5分ほど走り、有料駐輪場に愛車を止める。
人気のないがらんとしたホームへの階段を、2弾飛ばしで駆け降りる。
ICカードで改札を抜けると、ちょうどホームに列車が入ってきたところだった。
JRの駅へと向かう路線だけに、かなりの混み具合だ。
扉が閉まり、電車が走り出した時だった。
ひと呼吸遅れて、ホームにすらりとした人影が現れた。
髪の長い、長身の若い女である。
大きなサングラス。
身体の線を浮きたたせた黒の上下。
驚くほど足が長い。
「由利亜…」
その横顔をひと目見て、僕は小さくうめいた。
大門の次は、由利亜なのか。
これはいったい…。
只事ではない。
それははっきりしている。
でも、と思う。
もう、僕には関係ないのだ。
ましてや香澄には…。
地下鉄がトンネルに吸い込まれる瞬間、由利亜がこっちを見た。
目が合った。
突き刺さる由利亜の視線から、僕はとっさに顔を背けた。
-逃げるの?
幻聴に違いない。
だが、僕にははっきりとその声が聞こえた気がした。
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