532 / 605
第508話 冥府の王(59)
しおりを挟む
「まあまあ、かわいいお友達だこと」
翌日の授業後。
由利亜に案内されて剛の家を訪れると、品のいい老婆が僕らを見て顔をほころばせた。
「さ、おあがり。スイカが冷えているから、今切ってきてあげるからね」
剛の家は、このあたりでは珍しい、2階建ての小奇麗な洋風住宅だった。
なんでも、父親は市内で運送会社を経営していて、葉は亡き後は、祖母が剛の世話をしてくれているらしい。
剛の家は村と村の境の丘の上に位置していて、僕らの学校から徒歩で30分近くかかった。
だから、着いた頃には僕らはもう汗だくで、スイカの差し入れは何よりのご褒美であるといってよかった。
「俺さ、ひとつわかったことがあるんだ」
大きなテレビの前に胡坐をかくと、DVDをセットして、剛が言った。
「武器の使い方だけど、あれ、練習して腕を磨くより、イメージが大事なんだって。頭の中で理想の動き方をイメージして、できるだけその通りに身体を動かしてみるんだ。そうすると、自然にそう武器のほうが身体を動かしてくれるようになる。これ、意外と簡単。ほんとだぜ」
「つまり、模範演技を記憶すればいいって、そういうこと?」
ばあさんが皿に盛って出してくれたスイカに手を伸ばしながら、由里亜が訊く。
「そう、そのとおり。で、俺が手本にしたのは、これ」
剛が僕らの前に差し出したのは、DVD のパッケージだった。
有名なファンタジー三部作。
ハリウッド製で、日本でも大ヒットした名作である。
「この映画なら、俺たちの持ってる武器はみんな出てくるから、それをしっかり目に焼きつけておくんだ。ただ、3本全部見ると9時間以上かかるから、合戦シーンだけチョイスしようと思う」
「もし剛の言うことが本当なら、ずいぶん助かるね」
由利亜が僕と香澄を見て言った。
「正直、子ども同士の訓練なんて、たかがしれてるもの」
「この琥珀にはね、古代の人々の聖なる願いが結晶してるの。だから、要はそれを引き出せばいいんだよ」
幸せそうにスイカをかじりながら、香澄が答えた。
こうして見ると、きのうの一件が嘘みたいに、歳相応の女の子に見える。
「香澄ちゃん、なんだか、雰囲気変わったね」
由利亜がじっと香澄を見た。
「ちょっと大人っぽくなったっていうか…」
「まあね」
僕を盗み見て、悪戯っぽく笑う香澄。
「あれから、色々あったから」
ドキリとした。
せっかく久しぶりに学校へ行き、級友たちの笑顔に触れて日常を取り戻したと思ったのに…。
香澄といると、またあのどろどろとした闇がよみがえってくるようで、正直僕は怖かった。
「1時間くらい映画を見たら、裏の畑でさっそく試してみようぜ。あさっては終業式だ。いよいよ決戦だからな」
剛が言って、テレビのスイッチをオンにした。
そして、壮麗な音楽とともに、あの映画が始まった。
翌日の授業後。
由利亜に案内されて剛の家を訪れると、品のいい老婆が僕らを見て顔をほころばせた。
「さ、おあがり。スイカが冷えているから、今切ってきてあげるからね」
剛の家は、このあたりでは珍しい、2階建ての小奇麗な洋風住宅だった。
なんでも、父親は市内で運送会社を経営していて、葉は亡き後は、祖母が剛の世話をしてくれているらしい。
剛の家は村と村の境の丘の上に位置していて、僕らの学校から徒歩で30分近くかかった。
だから、着いた頃には僕らはもう汗だくで、スイカの差し入れは何よりのご褒美であるといってよかった。
「俺さ、ひとつわかったことがあるんだ」
大きなテレビの前に胡坐をかくと、DVDをセットして、剛が言った。
「武器の使い方だけど、あれ、練習して腕を磨くより、イメージが大事なんだって。頭の中で理想の動き方をイメージして、できるだけその通りに身体を動かしてみるんだ。そうすると、自然にそう武器のほうが身体を動かしてくれるようになる。これ、意外と簡単。ほんとだぜ」
「つまり、模範演技を記憶すればいいって、そういうこと?」
ばあさんが皿に盛って出してくれたスイカに手を伸ばしながら、由里亜が訊く。
「そう、そのとおり。で、俺が手本にしたのは、これ」
剛が僕らの前に差し出したのは、DVD のパッケージだった。
有名なファンタジー三部作。
ハリウッド製で、日本でも大ヒットした名作である。
「この映画なら、俺たちの持ってる武器はみんな出てくるから、それをしっかり目に焼きつけておくんだ。ただ、3本全部見ると9時間以上かかるから、合戦シーンだけチョイスしようと思う」
「もし剛の言うことが本当なら、ずいぶん助かるね」
由利亜が僕と香澄を見て言った。
「正直、子ども同士の訓練なんて、たかがしれてるもの」
「この琥珀にはね、古代の人々の聖なる願いが結晶してるの。だから、要はそれを引き出せばいいんだよ」
幸せそうにスイカをかじりながら、香澄が答えた。
こうして見ると、きのうの一件が嘘みたいに、歳相応の女の子に見える。
「香澄ちゃん、なんだか、雰囲気変わったね」
由利亜がじっと香澄を見た。
「ちょっと大人っぽくなったっていうか…」
「まあね」
僕を盗み見て、悪戯っぽく笑う香澄。
「あれから、色々あったから」
ドキリとした。
せっかく久しぶりに学校へ行き、級友たちの笑顔に触れて日常を取り戻したと思ったのに…。
香澄といると、またあのどろどろとした闇がよみがえってくるようで、正直僕は怖かった。
「1時間くらい映画を見たら、裏の畑でさっそく試してみようぜ。あさっては終業式だ。いよいよ決戦だからな」
剛が言って、テレビのスイッチをオンにした。
そして、壮麗な音楽とともに、あの映画が始まった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
10秒で読めるちょっと怖い話。
絢郷水沙
ホラー
ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる