黒い羊 ~ロスト・イノセント~

戸影絵麻

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プロローグB-①

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 まるで、中世の拷問器具だな・・・。

 液晶画面に映る異様な人型のモノを見て、矢崎吾郎はわずかに眉をひそめた。

 確か、鉄の処女といったか…。

 あれにそっくりだ。

 パソコンのモニター画面の乗ったデスクの片隅には、3人の人物が映った写真が写真立てに入れて飾ってある。

 3年前に結婚した、妻遥香と2歳の息子、祐一の写真である。

 この薄暗い部屋で一日中データと格闘する矢崎にとって、唯一の心のオアシスだ。

「明らかに体温が上昇しています」

 傍らで別のPCの画面を食い入るように見つめている、風見美晴が言った。

 美晴は矢崎の10歳下の24歳。

 新人として入所してから、矢崎の補佐としてずっとこのプロジェクトを追い続けている。

「また何かに感応してるんでしょうか」

 外部からの刺激は一切遮断してあるはずなのに、時々この実験体は奇妙な生体反応を示すことがある。

 だが、本人の単なる”勘違い”なのか、これまでは、それもすぐに収束するのが常だった。

「別の黒い羊か…。しかし、こんな生き物が、本当に他にこの世にいるのかな」

「可能性は高いと思います。ゲノム解析の結果、黒い羊は黒い羊を捕食して進化するー。そんな予測が出ています。”彼女”が空腹期に入っているとしても、別段何の不思議もありません」

「まあ、点滴以外、何年もの間、何も食べさせていないからな。しかし、好物が同類の肉だけだなんて・・・そんな人生、いくらなんでも寂しすぎるとは思わないか?」

「それだけ同類に対する愛が深いのかもしれません。愛する相手の肉体を食するのは究極の愛の行為だと、何かで読んだ記憶があります」

 化粧っ気のない眼鏡女子である美晴が言うと、妙に説得力があるから不思議だ、と矢崎は苦笑する。

 仕事はできるし、根も真面目。

 不愛想に見えてやさしい所もあるし、顔立ちも悪くない。

 研究もいいが、この娘にもそろそろ、恋人ができてもよさそうなものだ…。

 矢崎がそんなことをのんびり考えた、その時だった。

「M3号の生体活動が活発化。どうやらなんらかの外的刺激を受けて、意識が目覚めた模様です」

「なんだって」

 PC画面では、波状グラフの波が急激に起伏を繰り返している。

 ついさっきまでプラトー状態だったのに、これはいったいどういうことだ?

「拘束具ですべての電磁波は遮断してあるはずだ。外的刺激などありえない」

「別の黒い羊・・・」

 モニターを凝視しながら、見晴がぽつりとつぶやいた。

「ひょっとして、日本のどこかで、もう一体の黒い羊が目覚めようとしているのかもしれません・・・」
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