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第2部 ヒバナ、フィーバードリーム!
#15 レオンの告白
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「無茶な奴だな」
脱衣籠から目だけのぞかせて、レオンが言った。
どこに行ったのかと思っていたが、まさか女湯の脱衣場に隠れていたとは。
さすがスケベおやじの気質を備えた神だけのことはある。
「だってそうでもしなきゃ、あの人、収まりそうもなかったし。私もトークで人を説得するの、苦手だし」
「だから力比べってか? 相変わらず野蛮な娘だ」
「なんとでもいいなさいよ。それより、何があったのよ?」
コスチュームを着ながら、ヒバナは言った。
いくら伸縮自在の生地とはいえ、ボディラインを際立たせるためにサイズを小さめにしてあるので、着るのにひと苦労なのだ。
「3年ほど前のことだ。JR那古野駅に、まだツインタワーが建つ前のことさ。新幹線側のエントランスに、ある日、突如として異界の入口が出現した。魔物探知機で察知した俺は、トロを伴ってすぐさま駆けつけたよ。案の定、空間をつき破って現れたのは、魔物だった。それもかなり大型の、サイに似た甲冑恐竜タイプの強敵だ。魔物は、実体化するなり、駅構内に向かって突進し始めた。そこに大勢の人がいたからな。俺はトロに命じて、魔物の針路を変えさせることにした。トロは見事に相手の隙をつき、日本刀でやつの片目を潰したんだが…。針路を変えた魔物の前に、運悪く観光バスが停車していたんだよ。高校の修学旅行のバスだった。頼子はそれに乗っていたんだ。観光バスと正面衝突して、魔物は死んだ。だが、乗っていた高校生たちのうち、5人が死んでしまった。あいつの妹、頼子も含めてな」
「彼は、その場面を見てたってこと?」
「そうだ。その頃、塊は妹の頼子とふたり暮らしをしていた。修学旅行の帰りってことで、駅まで迎えに来ていたらしい。俺とトロは、やつにすべてを目撃された挙句、妹殺しの犯人として、その後ストーカーみたいにつけ狙われることになったんだ。事件の後、頼子たちを救出して、ッ病院まで付き添ったんだが、それでも許してもらえなくてね。一応、その時連絡先は聞いといたんで、さっきも電話できたわけなんだが」
「だから、あんな早くに駆けつけてきたわけね」
「ああ、宅配便の仕事をする傍ら、俺を探していたからな」
「それでよく、3年間も逃げていられたね」
「いや、何回か見つかって襲われた。やっかいなのは、いつの間にかやつに使い魔みたいなのがくっついたことだ。肩に止まっていたフクロウみたいなやつ、おまえも見ただろう? あれのせいで、塊はどんどん強くなるようだった。最後のほうは、トロでさえ、逃げるのが精いっぱいなほどに」
「使い魔って、あのフクロウも神様なの?」
「さあ、わからない。ミミも知らないようだった。塊は”バット”と呼んでいるが、常世以外のワールドから来た生き物なのかもしれない」
「常世と根の国と人間界以外に、まだ世界があるんだ」
「世界というより、あぶくみたいなものじゃないかな。そういう亜空間なら、あちこちに浮かんでるから」
「ふうん」
ヒバナが着替え終えた時である。
脱衣場の外から、ひずみの声がした。
「ちょっと、ヒバナったら、いつまで着替えてるの? 待たせるなって、おっさん、かんかんだよ!」
脱衣籠から目だけのぞかせて、レオンが言った。
どこに行ったのかと思っていたが、まさか女湯の脱衣場に隠れていたとは。
さすがスケベおやじの気質を備えた神だけのことはある。
「だってそうでもしなきゃ、あの人、収まりそうもなかったし。私もトークで人を説得するの、苦手だし」
「だから力比べってか? 相変わらず野蛮な娘だ」
「なんとでもいいなさいよ。それより、何があったのよ?」
コスチュームを着ながら、ヒバナは言った。
いくら伸縮自在の生地とはいえ、ボディラインを際立たせるためにサイズを小さめにしてあるので、着るのにひと苦労なのだ。
「3年ほど前のことだ。JR那古野駅に、まだツインタワーが建つ前のことさ。新幹線側のエントランスに、ある日、突如として異界の入口が出現した。魔物探知機で察知した俺は、トロを伴ってすぐさま駆けつけたよ。案の定、空間をつき破って現れたのは、魔物だった。それもかなり大型の、サイに似た甲冑恐竜タイプの強敵だ。魔物は、実体化するなり、駅構内に向かって突進し始めた。そこに大勢の人がいたからな。俺はトロに命じて、魔物の針路を変えさせることにした。トロは見事に相手の隙をつき、日本刀でやつの片目を潰したんだが…。針路を変えた魔物の前に、運悪く観光バスが停車していたんだよ。高校の修学旅行のバスだった。頼子はそれに乗っていたんだ。観光バスと正面衝突して、魔物は死んだ。だが、乗っていた高校生たちのうち、5人が死んでしまった。あいつの妹、頼子も含めてな」
「彼は、その場面を見てたってこと?」
「そうだ。その頃、塊は妹の頼子とふたり暮らしをしていた。修学旅行の帰りってことで、駅まで迎えに来ていたらしい。俺とトロは、やつにすべてを目撃された挙句、妹殺しの犯人として、その後ストーカーみたいにつけ狙われることになったんだ。事件の後、頼子たちを救出して、ッ病院まで付き添ったんだが、それでも許してもらえなくてね。一応、その時連絡先は聞いといたんで、さっきも電話できたわけなんだが」
「だから、あんな早くに駆けつけてきたわけね」
「ああ、宅配便の仕事をする傍ら、俺を探していたからな」
「それでよく、3年間も逃げていられたね」
「いや、何回か見つかって襲われた。やっかいなのは、いつの間にかやつに使い魔みたいなのがくっついたことだ。肩に止まっていたフクロウみたいなやつ、おまえも見ただろう? あれのせいで、塊はどんどん強くなるようだった。最後のほうは、トロでさえ、逃げるのが精いっぱいなほどに」
「使い魔って、あのフクロウも神様なの?」
「さあ、わからない。ミミも知らないようだった。塊は”バット”と呼んでいるが、常世以外のワールドから来た生き物なのかもしれない」
「常世と根の国と人間界以外に、まだ世界があるんだ」
「世界というより、あぶくみたいなものじゃないかな。そういう亜空間なら、あちこちに浮かんでるから」
「ふうん」
ヒバナが着替え終えた時である。
脱衣場の外から、ひずみの声がした。
「ちょっと、ヒバナったら、いつまで着替えてるの? 待たせるなって、おっさん、かんかんだよ!」
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