夢世界ウォーキング

戸影絵麻

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⑦後日談

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「て感じだったんだけどね」

 城壁から足をブラブラさせて、私は言った。

 眼下に広がる瓦礫世界。

 でも、この城跡の上には、けっこう豊かな緑が生い茂っている。

「ふうん」

 私の隣で同じように足をブラブラさせながら、空の青さに目を細め、T君がうなずいた。

「で結局、教室には行きつけなかった、と」

「たぶん」

 今度は私がうなずく番だ。

「実はその辺から後、記憶があいまいなんだ」

「奇跡的に、代行が立ったとか?」

「だよね。遅刻してでも行ってみたら、すでに誰かが授業してたりして」

「それはあるね。ていうか、あるいは、初めから全部、夢だったって可能性も、あったりしてね」

「夢?」

「うん」

「なるほどね」

 わたしはまたうなずいた。

 そう言われてみれば、その通りかも。

 記憶はところどころ飛んでるし、私というキャラクターの背景や設定も、全然はっきりしていないのだ。

 そもそも、この世界だってー。

 遠くにあのキノコ雲に似た建造物が見える。

 見方によっては、カツオノエボシにもよく似ている。

 鉢が開いて、触手みたいな電線が何本も垂れ下がってるとこなんて、まさにそうだ。

 あれは何なのか。

 なんでこの世界は、一面ガラクタだらけなのか。

「遅れるよ」

 T君が腰を上げた。

「バスが出る」

 その言葉で、私はようやく、今が研修旅行中のトイレ休憩だったことを思い出した。
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