夢世界ウォーキング

戸影絵麻

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⑤九龍

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 突き当りだと思っていた通路は、鉤の手に右に曲がっていたのだ。

 その角を曲がると、子どもたちがいた。

 年の頃は、小学校の三、四年生といったところだろうか。

 丈の短いワンピースを着た、目の大きな女の子と、その奥に男子がふたり。

 みんな裸足で、服は埃っぽく、顔も汚れている。

「こっちこっち」

 手招きしておいて、女の子が走り出す。

 女の子に追われる格好で、男の子ふたりも駆け出した。

「ま、待ってよ」

 板張りの通路は曲がりくねり、たちまち方角がわからなくなった。

 いつか何かで見た、香港にあったという九龍城。

 まさにそんな雰囲気の奇怪極まりない迷路である。

 突然行きどまりになったかと思うと、子どもたちは突き当りの板壁をよじ登り、その上の段差のある通路に出た。

 そこは空の見える地上で、通路に向かって両側から家々が傾いている谷間のような空間だった。

 洗濯物がはためき、ガラクタの転がる通路を子供たちを追って、ただひたすら私は走った。

 そしてようやく通路を抜け、開けた場所に出ると、瓦礫で埋め尽くされたお盆のような地形の向こうにー。

 思いもかけぬほど大きく、目印にしてきたあの巨大構造物が見えた。

 でも、まだ遠い。

 あそこまで行くには、この瓦礫と産廃で埋め尽くされた盆地を抜けなければならないのだ。

 つい、腕時計を見てしまった。

 ああ、うそ! やっぱり!

 絶望で目の前が暗くなる。

 時間は午後三時を過ぎていた。

 授業開始から、もう三十分以上も過ぎてるじゃん・・・。
 
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