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骸骨男の要求①
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颯太が松の枝みたいな腕を伸ばしてくる。
さらけだされた木乃伊のような裸体からは、一種異様な匂いが立ち上っている。
蛇に睨まれた蛙よろしく金縛りに遭った乙都は、ふと、泰良女医の言葉を思い出した。
セクハラには注意しろ。
発見時にな、彼、何やってたと思う?
ジジイだからって油断するな。男の性欲には、年齢なんて関係ないんだよ。
「なんだ? 嫌なのかよ?」
血走った眼で乙都を睨みつけ、颯太がなじる。
「おまえもやっぱり、外見で人間を差別するんだな」
「そ、そんなことは…」
乙都は弱々しく否定する。
「やっぱり、僕のこと、死ねばいいと思ってるんだろ? 気持ち悪いから。だからそばに来れないんだ」
「違います」
乙都は迷いを振り切るようにして、ベッドに近づいた。
「わたしはただ、由井さんに、少しでも早くよくなっていただきたいだけです。なので、お願いですから、お薬、飲んでいただけませんか?」
「嫌だね」
颯太の鉤爪みたいな五本の指が、乙都の手首を握った。
手を引っ込める暇もなかった。
乙都は、乳白色のおのれの肌に食い込む女郎蜘蛛の肢みたいな指を、信じられないものを見るように凝視した。
「おまえが言うことを聞くまで、その気になれないんだ」
「言うことって…」
乙都の瞳に怯えの色が走った。
ふいに、蓮月のせりふが耳によみがえった。
蓮月は、さっき、颯太を襲ったコンドーサンに言ったのだ。
そんなことしたら、もう二度と、乳首吸わせてあげないよ!
あれは、ひょっとして、私の聞き間違いなんかじゃなくって…。
レンゲちゃんも、今の私のような状況に陥って、それで仕方なく・・・?
想像するのも苦痛だった。
これまで誰にも触れられたことのない肌を、まさか、この・・・?
「言うことを聞くのか、聞かないのか、はっきりしろよ」
挑発するように、颯太が言った。
骸骨そっくりの顔が、意地の悪い興奮で生き生きと輝いて見える。
つい先ほど心臓発作を起こしかけたばかりだというのに、現金なものだ。
そんなに、私みたいな小娘をからかうことが、楽しいのだろうか。
悔しくないと言ったら、嘘になる。
けれど、颯太がここまで意固地になってしまったのは、おそらく私の態度に原因があるのだろう…。
そう思うと、乙都は強く出ることができない。
自分の言動のせいで患者が苦しむのは、やはり看護師としての本分にもとると言わざるを得ないのだ。
「看護師にも、できることとできないことがあります。特に私はまだ、見習いなので…。もし、私が、聞かないと言ったら、どうするのですか?」
苦渋に満ちた口調で、乙都はやっとそれだけを口にした。
正直、蓮月ほど潔く捨て身になれる気はしない。
「薬を飲まない。一切ね。食事を摂るつもりもない。そして僕は、それこそ明日にでも、致命的な発作を起こして死んでいく」
乙都の表情の変化を逃すまいとするかのように、ギョロついた眼で執拗に見つめながら、颯太が言う。
右手で握った乙都の手首の内側を、いつのまにか左手の人差し指で触っている。
ゆっくりと動脈をなぞりながら、肘の内側まで指を伸ばしてきた。
ぞわりと背筋のうぶ毛が逆立つのがわかる。
しかし、乙都は、催眠術にかけられたように、動けない。
「馬鹿なこと、言わないで…」
目尻に急に涙が滲んできて、乙都は顔を背けた。
「私は…最初に何をすればいいんですか?」
思わず、力のない声が口から洩れてしまう。
「そうだな」
颯太の顔がパッと明るくなった。
背けた乙都の顔を下からのぞき込むと、舌なめずりするように言った。
「まずはその邪魔なマスクを取って、素顔を見せてもらおうか」
さらけだされた木乃伊のような裸体からは、一種異様な匂いが立ち上っている。
蛇に睨まれた蛙よろしく金縛りに遭った乙都は、ふと、泰良女医の言葉を思い出した。
セクハラには注意しろ。
発見時にな、彼、何やってたと思う?
ジジイだからって油断するな。男の性欲には、年齢なんて関係ないんだよ。
「なんだ? 嫌なのかよ?」
血走った眼で乙都を睨みつけ、颯太がなじる。
「おまえもやっぱり、外見で人間を差別するんだな」
「そ、そんなことは…」
乙都は弱々しく否定する。
「やっぱり、僕のこと、死ねばいいと思ってるんだろ? 気持ち悪いから。だからそばに来れないんだ」
「違います」
乙都は迷いを振り切るようにして、ベッドに近づいた。
「わたしはただ、由井さんに、少しでも早くよくなっていただきたいだけです。なので、お願いですから、お薬、飲んでいただけませんか?」
「嫌だね」
颯太の鉤爪みたいな五本の指が、乙都の手首を握った。
手を引っ込める暇もなかった。
乙都は、乳白色のおのれの肌に食い込む女郎蜘蛛の肢みたいな指を、信じられないものを見るように凝視した。
「おまえが言うことを聞くまで、その気になれないんだ」
「言うことって…」
乙都の瞳に怯えの色が走った。
ふいに、蓮月のせりふが耳によみがえった。
蓮月は、さっき、颯太を襲ったコンドーサンに言ったのだ。
そんなことしたら、もう二度と、乳首吸わせてあげないよ!
あれは、ひょっとして、私の聞き間違いなんかじゃなくって…。
レンゲちゃんも、今の私のような状況に陥って、それで仕方なく・・・?
想像するのも苦痛だった。
これまで誰にも触れられたことのない肌を、まさか、この・・・?
「言うことを聞くのか、聞かないのか、はっきりしろよ」
挑発するように、颯太が言った。
骸骨そっくりの顔が、意地の悪い興奮で生き生きと輝いて見える。
つい先ほど心臓発作を起こしかけたばかりだというのに、現金なものだ。
そんなに、私みたいな小娘をからかうことが、楽しいのだろうか。
悔しくないと言ったら、嘘になる。
けれど、颯太がここまで意固地になってしまったのは、おそらく私の態度に原因があるのだろう…。
そう思うと、乙都は強く出ることができない。
自分の言動のせいで患者が苦しむのは、やはり看護師としての本分にもとると言わざるを得ないのだ。
「看護師にも、できることとできないことがあります。特に私はまだ、見習いなので…。もし、私が、聞かないと言ったら、どうするのですか?」
苦渋に満ちた口調で、乙都はやっとそれだけを口にした。
正直、蓮月ほど潔く捨て身になれる気はしない。
「薬を飲まない。一切ね。食事を摂るつもりもない。そして僕は、それこそ明日にでも、致命的な発作を起こして死んでいく」
乙都の表情の変化を逃すまいとするかのように、ギョロついた眼で執拗に見つめながら、颯太が言う。
右手で握った乙都の手首の内側を、いつのまにか左手の人差し指で触っている。
ゆっくりと動脈をなぞりながら、肘の内側まで指を伸ばしてきた。
ぞわりと背筋のうぶ毛が逆立つのがわかる。
しかし、乙都は、催眠術にかけられたように、動けない。
「馬鹿なこと、言わないで…」
目尻に急に涙が滲んできて、乙都は顔を背けた。
「私は…最初に何をすればいいんですか?」
思わず、力のない声が口から洩れてしまう。
「そうだな」
颯太の顔がパッと明るくなった。
背けた乙都の顔を下からのぞき込むと、舌なめずりするように言った。
「まずはその邪魔なマスクを取って、素顔を見せてもらおうか」
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