異世界病棟　～淫夢迷宮～

戸影絵麻

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ループする悪夢③

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　四人収容できる病室には、普通は左右に二か所ずつ仕切りのカーテンがあり、ベッドを隠している。
　が、近藤義雄以外患者のいないこの部屋では、左奥の一画以外、カーテンは開いており、ベッドもない。
　その光景に、ふとめまいを覚えた。
　この景色、前にも･･･。
　でも、あの時は、近藤さんの向かい側のベッドにも、誰かいたような気がする･･･。
　既視感といえるほどのものではなかった。
　一般の病室はどこも同じつくりで、それこそこれと同じ景色は毎日何度も見ているからだ。
「近藤さん、起きてますか？」
　外から声をかけると、蓮月はベージュ色のカーテンを引いた。
　叱責の声を予測して、肩に力が入った。
　雷のようなあの声。
　が、何も起こらない。
　代わりに耳に届いてきたのは、苦しそうなしわぶきの音だった。
「大丈夫ですか？」
　蓮月はあわててベッドに駆け寄った。
　ベッドの上には掛布団が山のように盛り上がっている。
　盛り上がった布団の下から、点滴や心電図計、酸素濃度測定器、カテーテルの管が蛸の足のように伸びている。
　顏を隠した布団をめくろうとした時だった。
「見るな」
　布団の下の暗がりでふたつの眼が開き、可聴域ぎりぎりの重低音で義雄が言った。
「え？」
　動きを止めた蓮月の手首を、蒲団の下から伸びた手がつかむ。
　自分の手首をつかんできたその手をひと目見て、蓮月は言葉の接ぎ穂を失った。
　な、なに、これ？
　近藤さんったら、どうしちゃったの？
　布団から露出しているのは、義雄の左の二の腕あたりである。
　これまで何度も蓮月が見てきたのは、松の枝のように痩せさらばえた70代後半の老人の腕だった。
　だが、今、蓮月の手首をつかんでいるのは、鱗のような瘡蓋に覆われた奇妙に太く逞しい腕だ。
「おまえのせいだ」
　歯軋りするような口調で、蒲団の中から義雄が言った。
「おまえは俺を殺そうとした。だから･･･」
「違います！」
　手首を掴まれたまま、蓮月は悲痛な声を上げた。
「確かにあれは私のミスでした。本当に申し訳ありません。でも、殺そうとしただなんて･･･」
「いや、だめだ」
　布団の中の眼が、憎々し気に蓮月を睨んだ。
「俺はおまえを恨む。一生、許さない」

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