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#27 真犯人

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 驚愕のあまり、心臓が一瞬鼓動を止めてしまったようだった。
 その不気味な真空のような静寂の中に、冷え切った瑠璃の声が響いた。
「間違いない?」
「ああ」
 興奮に震える声で、健斗が答えた。
「全身から真っ黒なオーラが炎みたいに噴き上がってる。やばいよ、あいつ。ガチでヤバ過ぎる」
「え~? 真帆には全然そんなふうには見えないけど。あの人、どう見ても、ただの主婦じゃね?」
 健斗の尋常でない反応に、真帆も心なしか震えているようだ。
 瀟洒な住宅が並ぶ道。
 右手に見慣れた一軒家が見える。
 今その白い門扉を清楚な白いワンピースに水色のカーディガンを着た、中肉中背の女性が開けようとしている。
 私たちの視界に映っている人間は、その女性ひとりだった。
 だから、健斗の言う黒いオーラの主は、必然的に彼女しかいないことにある。
「知り合いですか?」
 私の異常にいち早く気づいたのか、瑠璃がささやくように訊いてきた。
「え、ええ」
 唇を震わせながら、やっとのことで私はうなずいた。
「でも、そんな…あり得ない」
「人は見かけによらないよ。あのオーラは、間違いなく、犯行現場の水に残ってたのと同じ。犯人はあいつさ」
 健斗は譲らない。
「ここで警察呼んでもいいんだけど、悪意のオーラの主が安西さんの知り合いってことになると、話は別だね」
 家に入っていく”彼女”の後ろ姿を目で追いながら、瑠璃が言う。
「その前に、証拠をつかんでおいたほうがいいかも」
「証拠って?」
「自分に心当たりがあります。健斗君と真帆ちゃんは、車の中で待ってて。安西さん、一緒に行きましょう」
「い、一緒にって、どこへ?」
「あの女の家っすよ。もし彼女が犯人なら、家の中にきっと証拠が」
「でも、私には信じられない。彼女は、青山さんは、とってもいい人で…」
 私は泣いていたのかもしれない。
 頬を伝う涙を、瑠璃が伸ばした指で拭き取った。
「気持ちはわかります。けど、ここで災いの根を断っておかないと、後できっと取り返しのつかないことになりますよ」
 


 
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