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#22 恵比寿神社の謎①
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京の町に神社は山ほどある。
それこそ掃いて捨てるほどだ。
「なんで仕留屋が神社巡りなんか」
「俺が知るかよ。元締めの意向なんだから、しゃあないだろ。ぶつくさ言ってる暇があるなら、さっさと歩け」
翌日。
朝早くから、夜叉姫は犬丸と洛中を歩き回っていた。
ふたりとも、目立たぬよう町人と町娘に身をやつしている。
神社らしきものに行き当たるたび、神主に絵馬を見せて出どころを訊くのだが、成果はなかなか上がらない。
「もうやめじゃ。足が棒になってきた。だいたい、こんな古い絵馬から何がわかる? 確か、恵比寿とやらは福の神。うちらにこれほど縁の薄いものはなかろうが」
十社を超える神社でけんもほろろの扱いを受けると、さすがの夜叉姫も音を上げた。
時刻はすでに昼時を過ぎ、いちばん暑い盛りに突入している。
京は盆地であるため、残暑が厳しい。
9月半ばとはいえ、気温は真夏と大差ない。
「同感だな。ちと休憩するか」
ふたりが座り込んでいるのは、十何社目の名も知らぬ神社の石段である。
地理的には金閣のある東山に近い。
夜叉とて、恵比寿の絵はともかく、”天下布武”の文字が気にならぬわけではない。
もしこの絵馬が本当に信長のものだとしたら…。
十数年前、本能寺で自害する前、信長自らがどこかの神社で天下統一を祈ったということになる。
が、それとあの伴天連がどう結びつくのか。
はたまた秀次や聚楽第との関係は何なのか。
そこまでくると、世俗に疎い化生の身では想像もつかないのである。
ふたり無言で汗を拭っていると、石段の上のほうからかすかな音が近づいてきた。
顔を上げると、箒を持った巫女姿の少女が、目を丸くしてふたりを見つめている。
白い着物に赤い袴が、華奢な身体によく似合っている。
「どうしたんですか? こんなところで」
京訛りのない、はきはきした口調である。
「ちょっと探し物をしててね」
相手が可憐な娘だとわかると、犬丸がとたんに元気を取り戻し、すっくと立ち上がった。
「あんた、ここの人? ならちょうどいい。おい、姫、例のものをご覧に入れろ」
なにがご覧に入れろだ。助平ったらしくにやにやしやがって!
だいたいこんな小娘に、どこのものともわからぬ古びた絵馬の区別なんか、つくわけないだろう?
むすっとした表情で、夜叉姫は懐から袱紗に包んだ絵馬を取り出し、無言で巫女に手渡した。
「これ、どこの神社の絵馬か、知らないか?」
犬丸がたずねると、意外なことにすぐに返事が返ってきた。
「恵比寿さまですね。恵比寿を祀るといえば、近江でしょうか。有名なのは、西宮の恵比寿神社」
「近江だと?」
犬丸が、意味ありげな眼で夜叉姫を見た。
近江といえば、安土城。
信長の拠点だった土地である。
「それはどこにある?」
「確か摂津に近い側だったと思います。私自身は、行ったことないですけど」
摂津?
夜叉姫はげんなりした。
夜叉姫自身も、巫女の少女と同じく、近江にも摂津にも行ったことがない。
ただ、ここからかなり遠いことだけはなんとなくわかった。
「ありがとう。恩に着るよ」
巫女に礼を述べると、犬丸がまたぞろ石段に座り込んだ夜叉姫を無理やり立たせた。
「そうと決まれば、すぐに出発だ。なに、休まず走れば明日の夜明けまでには着くだろう」
それこそ掃いて捨てるほどだ。
「なんで仕留屋が神社巡りなんか」
「俺が知るかよ。元締めの意向なんだから、しゃあないだろ。ぶつくさ言ってる暇があるなら、さっさと歩け」
翌日。
朝早くから、夜叉姫は犬丸と洛中を歩き回っていた。
ふたりとも、目立たぬよう町人と町娘に身をやつしている。
神社らしきものに行き当たるたび、神主に絵馬を見せて出どころを訊くのだが、成果はなかなか上がらない。
「もうやめじゃ。足が棒になってきた。だいたい、こんな古い絵馬から何がわかる? 確か、恵比寿とやらは福の神。うちらにこれほど縁の薄いものはなかろうが」
十社を超える神社でけんもほろろの扱いを受けると、さすがの夜叉姫も音を上げた。
時刻はすでに昼時を過ぎ、いちばん暑い盛りに突入している。
京は盆地であるため、残暑が厳しい。
9月半ばとはいえ、気温は真夏と大差ない。
「同感だな。ちと休憩するか」
ふたりが座り込んでいるのは、十何社目の名も知らぬ神社の石段である。
地理的には金閣のある東山に近い。
夜叉とて、恵比寿の絵はともかく、”天下布武”の文字が気にならぬわけではない。
もしこの絵馬が本当に信長のものだとしたら…。
十数年前、本能寺で自害する前、信長自らがどこかの神社で天下統一を祈ったということになる。
が、それとあの伴天連がどう結びつくのか。
はたまた秀次や聚楽第との関係は何なのか。
そこまでくると、世俗に疎い化生の身では想像もつかないのである。
ふたり無言で汗を拭っていると、石段の上のほうからかすかな音が近づいてきた。
顔を上げると、箒を持った巫女姿の少女が、目を丸くしてふたりを見つめている。
白い着物に赤い袴が、華奢な身体によく似合っている。
「どうしたんですか? こんなところで」
京訛りのない、はきはきした口調である。
「ちょっと探し物をしててね」
相手が可憐な娘だとわかると、犬丸がとたんに元気を取り戻し、すっくと立ち上がった。
「あんた、ここの人? ならちょうどいい。おい、姫、例のものをご覧に入れろ」
なにがご覧に入れろだ。助平ったらしくにやにやしやがって!
だいたいこんな小娘に、どこのものともわからぬ古びた絵馬の区別なんか、つくわけないだろう?
むすっとした表情で、夜叉姫は懐から袱紗に包んだ絵馬を取り出し、無言で巫女に手渡した。
「これ、どこの神社の絵馬か、知らないか?」
犬丸がたずねると、意外なことにすぐに返事が返ってきた。
「恵比寿さまですね。恵比寿を祀るといえば、近江でしょうか。有名なのは、西宮の恵比寿神社」
「近江だと?」
犬丸が、意味ありげな眼で夜叉姫を見た。
近江といえば、安土城。
信長の拠点だった土地である。
「それはどこにある?」
「確か摂津に近い側だったと思います。私自身は、行ったことないですけど」
摂津?
夜叉姫はげんなりした。
夜叉姫自身も、巫女の少女と同じく、近江にも摂津にも行ったことがない。
ただ、ここからかなり遠いことだけはなんとなくわかった。
「ありがとう。恩に着るよ」
巫女に礼を述べると、犬丸がまたぞろ石段に座り込んだ夜叉姫を無理やり立たせた。
「そうと決まれば、すぐに出発だ。なに、休まず走れば明日の夜明けまでには着くだろう」
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