夜通しアンアン

戸影絵麻

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第6章 アンアン魔界行

#38 アンアン、ミドルバベルへ①

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「マジかよ」
 アンアンがのけぞった。
 ロケットおっぱいが天を指し、乳首の上にちょこんと乗った紅葉の葉が今にも落っこちそうにきわどく震えた。
「マジ卍もいいとこですよ! ウンチの怪物なんて玉も初めてですよ! どうしますか? アンアン?」
 細い手足をバタバタさせて、楽器ケースを背負った玉が甲高い声でわめいた。
 玉がパニックに陥るのも無理はない。
 ウンチでできたスライムは、池田屋の玄関からあふれ出し、今や電信柱ほどの高さにまで膨れ上がっている。
 いったいどこまで成長を続けるつもりなのか。
 このままでは、町中がウンチに飲み込まれてしまうに違いない。
「物理攻撃は効かないぞ。なんせ相手はウンチ、もとい、スライムだからな」
 まぶしすぎるボディから目を逸らして、僕はアンアンにそうアドバイスした。
 アンアンは空も飛べるが、どちらかというと近接格闘を得意とするファイターである。
 アンアンパンチもディメンション・クラッシュも、どちらも物理系の攻撃なのだ。
「やっぱり、パーティには魔導士がひとりは必要だよなあ。回復魔法と攻撃魔法の両方を使える魔導士がさあ」
「ゲームじゃないんだから、そんなに都合よくいくかよ」
「でもここ魔界なんだろ? 魔法使いのひとりやふたり、いてもいいんじゃね?」
「いるのは妖怪と悪魔と鬼だろ。カテゴリが違うと思うぞ。メルヘンチックなファンタジーと一緒にするな」
「かもなあ。この世界、ファンタジーというよりは、やっぱホラーかなあ」
 一ノ瀬ともめていると、
「ひとつだけ、手がある」
 だしぬけに、アンアンが言った。
 なんだか自信たっぷりの様子である。
「え? マジ? アンアン、魔法使えるの?」
 色めき立つ一ノ瀬。
「いや、あたしじゃない。こいつだ」
 アンアンが両手で前に突き出したのは、マネキン人形のごとくフリーズしたままの阿修羅である。
「阿修羅は三面六臂、3つの顔を持っている。たとえばこれだ」
 両の手のひらで阿修羅の頬をはさむと、何を思ったか、いきなりその首をアンアンがぎりぎりと回転させた。
「お、おい、何のマネだ?」
 僕は目を剥いた。
 アンアンのやつ、阿修羅の首をねじ切るつもりなのか。
「まあ、見てろって」
 360度回転すると、阿修羅の顔が変わっていた。
 あの、イケメン男に変貌を遂げているのである。
「あれ? 元気じゃないか? ん? ここって魔界か? なら、どうしておまえがここに?」
「黙ってろ」
 最後まで言わせず、アンアンがまた怪力で阿修羅の首をねじりにかかる。
 なんと。
 阿修羅の人格は、こんな原始的な方法で変わるのか。
 もう1回転した時だった。
 怒髪天を突くという形容がぴったりの、怒りで真っ赤に染まった顔が現れた。
 この鬼のような形相は…阿修羅の第三人格。
 僕らが初めてお目にかかる、究極の破壊神の貌だ。
「だあれだあ! こんな時間にわしを呼び出しよったのはあ!」
 髪を逆立てて阿修羅が叫んだ。
 逆立った髪が、たちまち炎となって燃え上がる。
「しかも、なんじゃあ、この匂いはあ? 臭いにもほどがあるぞ!」
「呼んだのはあたしだ。久しぶりだな。阿修羅3号。さっそくだが、頼みがある」
「なんだあ? おまえはアンアンじゃないかあ。魔界の王女がわしに何の用だあ?」
 どうもこの3番目の人格は健忘症なのか、今までのことをすっかり忘れてしまっているようだ。
「怒りついでに、その憤怒の炎であいつを燃やしてほしい。ただし、周りの建物に延焼しないようにな。魔界最強の破壊神、阿修羅王ならそんなの楽勝だろ?」
 めらめら燃える美少女を挑発するように、にやりと笑ってアンアンが言った。




 
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