夜通しアンアン

戸影絵麻

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第6章 アンアン魔界行

#52 風雲、阿修羅城④

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「ゲートクリスタルなら、そこだよ」
 トカゲ顔のおばさんが指さしたのは、店の奥の木戸だった。
 どう見ても、トイレのドアである。
 いや、トイレなんてしゃれたものじゃない。
 便所と呼んだほうがふさわしい、あまりのみすぼらしさだった。
 それも今は珍しい、ポットン式の汲み取り便所だ。
「そんなところに、転移装置が?」
 半信半疑で訊くと、
「ああ。ちょいとせまいから、穴に落ちないように気をつけな」
 投げやりな口調で、おばさんが言った。
 阿修羅が戸を開け、後に続いて4人が中に入った。
「うっは、ここ、まじトイレじゃんか!」
 一ノ瀬が情けない声を出す。
 無理もない。
 僕らの足元に口を開けているのは、まぎれもなく和式トイレの便器なのだ。
「くさいな。トイレと間違えてウンチしやがったやつがいる」
 アンアンがさも嫌そうに顔をしかめた。
「だってどう見てもトイレだろ?」
 思わずそう突っこんだ時である。
 きらきら光るものが、ブラックホールもかくやと思われるほど深い便器の穴の底から、ゆっくりと立ち上がってきた。
 高さ2メートルもあるだろうか。
 つららを逆さまに立てたような、ダイヤモンド同様の輝きを持つ、巨大な結晶である。
「こ、これが、ゲートクリスタルですかあ?」
 玉が息を呑む。
 ついでに言っておくと、玉の楽器ケースがかさばるせいで、部屋の中は余計窮屈になっている。
「きれいですけど、ちょっと茶色いものがあちこちに付着してますねえ」
「いいから、綺麗なところを選んで手のひらを当てて」
 阿修羅が言った。
「ワン、ツー、スリーで同時に触るのよ。でないと取り残されちゃうから」
「取り残されると、どうなるんで?」
 不安そうに一ノ瀬が訊く。
「エネルギーが再充電されて次に飛べるようになるまで半日かかるから、要はここに置いてきぼりにされるってわけ」
「げ、それはいやだな」
 一ノ瀬が恐ろしそうに首をすくめた。
 僕も同感だった。 
 なんせ、外のジャングル地帯は、どうやら恐竜でいっぱいみたいなのだ。
 こんなところにひとり残されたら、いずれ彼らの餌になってしまうに決まっている。
「では、行きます。スリー、ツー」
 阿修羅のカウントダウンが始まった。
「わわっ! 置いてかないでくれ!」
 一ノ瀬がクリスタルに抱きついた。
「ワン、ゼロ!」
 あわてて手を伸ばす。
 指先が触れたとたん、クリスタルが激しく振動した。



 

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