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都会ほどじゃないにしても、うちのコンビニにもいろいろな客が来る。
その中にはクレーマーおばさんもいれば、万引き少年もいる。
でも、その時入ってきた客は、そういう連中と比べても、飛び抜けて怪しかった。
怪しいというより、はっきり変といってもいいかもしれない。
見たところ、工事現場でよく見かける作業服を着た中年のおじさんである。
が、なんだか服全体が赤茶色に汚れていて。汚かった。
更に顔の皮膚がまだらに赤剥けていて、じゅるじゅる黄色い膿を吹き出しているのだ。
片足をひきずるような歩き方も、妙だ。
しかも、なぜか低い声でうーうー唸っている。
男の姿が陳列棚の向こうに見えなくなると、私は天井の防犯ミラーに目をやった。
男は、奥にある生鮮食品コーナーの前に立ち止まっているようだ。
田舎のコンビニの強みは、なんといってもこの生鮮食品である。
周りの農家から、新鮮な肉や野菜、果物を安価で仕入れられるのだ。
その目玉商品の前に立ち止まったと見るや、いきなり男が精肉コーナーに顔を突っ込んだ。
「え?」
驚愕のあまり、目が点になるのがわかった。
生肉を、食べてる…?
なんと大胆な。
長いコンビニ人生で、初めて出くわす光景だった。
ふらっと入ってきた客が、いきなりガラスケースに頭を突っ込んだかと思うと、むしゃむしゃ商品の肉を食べ始めたのである!
ああ! 産地直送の飛騨牛が!
「ちょっと由羅」
私は椅子に腰かけて漫画を読み始めた由羅の足を蹴飛ばした。
「いて。あんだよ」
「あれ、やめさせてきて」
「はあ?」
由羅が防犯ミラーに目をやった。
「なんだあ?」
呆れたように口を開ける。
「おかしいでしょ。明らかにあれ、犯罪だよね」
「万引きというより、ただ食いだな」
「飛騨牛だよ」
「生で食ってる」
「大損害じゃん」
「おし。条件がある」
由羅が意味深なまなざしをこっちに向けてきた。
「何よ。条件って」
「夏休みの数学の宿題、代わりにやってくれたら止めてやる」
「ってあんた、高校生でしょ? なんで高校生が、中学生に宿題頼むわけ?」
「うちの高校は偏差値ゼロだからさ、まだ中3の内容やってんだよ。おまえ、現役なんだから楽勝だろ?」
「何それ。まあ、いいけど」
仕方ない。
飛騨牛には代えられない。
「交渉成立だな」
由羅が店のユニフォームを脱ぎ捨てた。
タンクトップから出た二の腕に、ぐいと力こぶをつくってみせる。
「へへ、腕が鳴るぜ」
身長は変わらないのに、由羅は私の倍、たくましいのだ。
にっと笑った。
「大丈夫? これ、持ってく?」
防犯用に置いてある父親のゴルフクラブを差し出すと、
「いらないよ。まあ、見てなって」
カウンターの跳ね戸から滑り出て、ダダッと通路を駆け出した。
「待って。私も行く」
不安になって、ゴルフクラブ片手に私も後を追う。
目の前が開けると、突進する由羅の肩越しに、振り返った男の顔が見えた。
腐った卵白のような眼。
爛れて崩れた頬の肉。
その間からのぞく白いものは、ひょっとして、骨?
これって。
呆然と立ちすくみ、私は思った。
あの犬、そっくりじゃない!
その中にはクレーマーおばさんもいれば、万引き少年もいる。
でも、その時入ってきた客は、そういう連中と比べても、飛び抜けて怪しかった。
怪しいというより、はっきり変といってもいいかもしれない。
見たところ、工事現場でよく見かける作業服を着た中年のおじさんである。
が、なんだか服全体が赤茶色に汚れていて。汚かった。
更に顔の皮膚がまだらに赤剥けていて、じゅるじゅる黄色い膿を吹き出しているのだ。
片足をひきずるような歩き方も、妙だ。
しかも、なぜか低い声でうーうー唸っている。
男の姿が陳列棚の向こうに見えなくなると、私は天井の防犯ミラーに目をやった。
男は、奥にある生鮮食品コーナーの前に立ち止まっているようだ。
田舎のコンビニの強みは、なんといってもこの生鮮食品である。
周りの農家から、新鮮な肉や野菜、果物を安価で仕入れられるのだ。
その目玉商品の前に立ち止まったと見るや、いきなり男が精肉コーナーに顔を突っ込んだ。
「え?」
驚愕のあまり、目が点になるのがわかった。
生肉を、食べてる…?
なんと大胆な。
長いコンビニ人生で、初めて出くわす光景だった。
ふらっと入ってきた客が、いきなりガラスケースに頭を突っ込んだかと思うと、むしゃむしゃ商品の肉を食べ始めたのである!
ああ! 産地直送の飛騨牛が!
「ちょっと由羅」
私は椅子に腰かけて漫画を読み始めた由羅の足を蹴飛ばした。
「いて。あんだよ」
「あれ、やめさせてきて」
「はあ?」
由羅が防犯ミラーに目をやった。
「なんだあ?」
呆れたように口を開ける。
「おかしいでしょ。明らかにあれ、犯罪だよね」
「万引きというより、ただ食いだな」
「飛騨牛だよ」
「生で食ってる」
「大損害じゃん」
「おし。条件がある」
由羅が意味深なまなざしをこっちに向けてきた。
「何よ。条件って」
「夏休みの数学の宿題、代わりにやってくれたら止めてやる」
「ってあんた、高校生でしょ? なんで高校生が、中学生に宿題頼むわけ?」
「うちの高校は偏差値ゼロだからさ、まだ中3の内容やってんだよ。おまえ、現役なんだから楽勝だろ?」
「何それ。まあ、いいけど」
仕方ない。
飛騨牛には代えられない。
「交渉成立だな」
由羅が店のユニフォームを脱ぎ捨てた。
タンクトップから出た二の腕に、ぐいと力こぶをつくってみせる。
「へへ、腕が鳴るぜ」
身長は変わらないのに、由羅は私の倍、たくましいのだ。
にっと笑った。
「大丈夫? これ、持ってく?」
防犯用に置いてある父親のゴルフクラブを差し出すと、
「いらないよ。まあ、見てなって」
カウンターの跳ね戸から滑り出て、ダダッと通路を駆け出した。
「待って。私も行く」
不安になって、ゴルフクラブ片手に私も後を追う。
目の前が開けると、突進する由羅の肩越しに、振り返った男の顔が見えた。
腐った卵白のような眼。
爛れて崩れた頬の肉。
その間からのぞく白いものは、ひょっとして、骨?
これって。
呆然と立ちすくみ、私は思った。
あの犬、そっくりじゃない!
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