サイコパスハンター零

戸影絵麻

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第6章 となりはだあれ?

#23 魔獣狩り⑪

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 杏里が帰宅を許されたのは、夜も遅くなってからのことだった。

 それでも帰宅できるだけまだましなほうで、韮崎を初めとして、三上や山田たち男性陣は当然のように署に泊まり込みである。

 明日は朝から県警本部で合同捜査会議ということもあり、捜査一課としてはできるだけ手がかりを集めておきたかったのだ。

 が、杏里が会議資料をまとめ終える頃になっても、捜査はほとんど進展していなかった。
 
 わかったのは、被害者の身元ぐらい。

 現場に残されていた敬老パス。

 それが有力な手掛かりとなり、被害者は佐野信三、65歳、同じ区内に住むひとり暮らしの老人と判明した。

 もうひとつわかったのは、重要参考人、白拍子亜魅の通学経路である。

 区内のワンルームマンションに住む亜魅は、星が丘にある桜蘭女子高校に通うために、毎朝大猫観音駅から地下鉄舞鶴線に乗り、元山駅で東山線に乗り換えて、星が丘駅で降りる。

 このルートは、尾上悠馬、安田邦彦、佐野信三の3人の殺害現場をすべて含んでいる。

「あやしいっちゃ、怪しいっすよね。でも、殺害方法がわからない」

 コンビニでみんなの分の夜食用カップ麺を購入してきた野崎はそうぼやいたものだったが、それは捜査員全員の思いでもあった。

 血痕とスマホだけ残して消えてしまった尾上悠馬。

 地下鉄車内で下半身を食いちぎられて死んでいた安田邦彦。

 衆人監視の車内で、シュレッダーにかけられたように細切れにされた佐野信三…。

 そんな殺し方ができる凶器など、この世に存在するはずがない。

 ましてや亜魅は丸腰ときているのだ。

 そういう観点から事件を俯瞰すると、そもそも彼女を疑うこと自体が、愚かしい行為に思えてしまうのである。

 
 くたくたになって帰宅すると、1階の居間に零の姿はなかった。

 零とは亜魅の事情徴収が終わるとすぐに別れているから、当然家にいるはずだった。

 月齢の低いこの時期に、零が長時間外出するとは思えないからだ。

 2階に上がると、零の部屋ではなく、なぜか杏里の部屋のドアが少し開いていた。

「零なの?」
 
 中を覗き込むと、零がクローゼットの前に胡坐をかいて座り込んでいた。

 木の葉模様の戦闘服を脱ぎ、ブラとパンティだけのあられもない格好をしている。

 その分、部屋の中はエアコンから吹き出る暖気で汗ばむほど温かい。

「なにしてるの?」

 後ろに回り込むと、零がクローゼットの中の一着を指さした。

「明日のコスチュームはこれで決まりだな。これなら盗撮魔を杏里のほうに引きつけることができるから」
 


 
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