42 / 157
第2章 百合と髑髏の狂騒曲
#11 杏里、ナシ割に専念する
しおりを挟む
2時間弱で捜査会議が終わると、照和署の面々は第2の事件のあった川奈公園に向かった。
山田と三上の運転する覆面パトカーに便乗して、本部の駐車場を出発する。
「笹原、おまえは署で電話番しててもいいんだぞ」
韮崎のの嫌味を聞き流し、杏里は胸の中にたまっていた疑問を口にした。
「問題は、どうやって首を持ち運んだか、だと思うんです」
「ああ、それは僕も考えた」
運転席の三上が、前方に注意を払ったまま、言った。
「第1と第2の事件は、夕方発生している。人気の少ない場所ではあるけれど、どちらの公園にも、子どもを遊ばせている母親や、散策している老人たちがいた。つまりまったく人目がなかったというわけじゃない。公園の周りは人通りの多い往来だから、一歩外に出れば尚更だろう。そんなところを、生首を持って歩いていたら、誰かの目についてもおかしくはない」
「子供とはいえ、頭ってのは意外に重くてかさばるからな、ましてや昨日起きた第3の事件は、あのデパートの高島屋の中だ。しかも被害者は15歳の少女と来ている。頭もさぞ大きかったに違いない」
「犯人は、大きめのリュックか、スポーツバッグを持ってたはずです。それが目印になるんじゃないでしょうか」
「そうだな。もう一度、そのあたりを強調して訊きこんでみるか。笹原、おまえもたまにはまともなこと言うようになったじゃねえか。時差ボケが治ったってか?」
現場につくと、韮崎と杏里がナシ割、三上たち4人が識鑑を担当することになった。
ナシ割とは、現場の遺留品の調査。
識鑑は、いわゆる聞き込みのことである。
「1週間前に一度聞きこんでるが、きょうはもう少し範囲を広げてみろ。決め手はバッグかリュックサックだ。大きければ紙袋でもいい。とにかく、事件当日、人間の頭が入りそうな袋を持った奴がうろついていなかったか、しっかり訊きこんで来い」
韮崎の指示を受け、ふた組に分かれて4人が散っていった。
現場はここ川奈公園に3つあるトイレのうち、もっとも目立たない場所にあった。
子ども広場からもグラウンドからも一番遠く、しかも周囲を木立に囲まれている。
いつ性犯罪が起きてもおかしくない立地条件である。
「ヤチカたちが漁っていった後だから、どうせチリひとつ、残っちゃいないだろうがな」
韮崎は煙草をくわえ、すでに半ばあきらめ顔だ。
だが、杏里はどうしても現場を見ておきたかった。
解決のヒントがあるとすれば、それは殺害現場だ、と強く思う。
「ちょっと見てきます」
そう言い置いて、四角いコンクリート製の小屋に近づいた。
女子用と男子用に入口が分かれている。
立入禁止テープをくぐって、女子用に足を踏み入れた。
中を覗くと、思いのほか綺麗だった。
公園のはずれにあっても、掃除は行き届いているらしい。
しばらく内部を歩き回ってみたが、韮崎の言葉通り、個室の中も外も床は磨かれたようにつるつるしていて、髪の毛1本落ちていなかった。
「何かあるはずなんだけどなあ」
洗面台の鏡に向かってひとりごちた時である。
視界の隅に何かが入ってきた。
これ…。
杏里は壁に貼られた一枚の紙に目をやった。
もしかして…。
閃いた。
脱兎のごとく、駆け出した。
トイレから飛び出すと、ベンチに座って煙草をくゆらせている韮崎に向かって、杏里は叫んだ。
「ニラさん! あとふたつの現場にも、連れてってください! ちょっと、気になることがあるんです!」
山田と三上の運転する覆面パトカーに便乗して、本部の駐車場を出発する。
「笹原、おまえは署で電話番しててもいいんだぞ」
韮崎のの嫌味を聞き流し、杏里は胸の中にたまっていた疑問を口にした。
「問題は、どうやって首を持ち運んだか、だと思うんです」
「ああ、それは僕も考えた」
運転席の三上が、前方に注意を払ったまま、言った。
「第1と第2の事件は、夕方発生している。人気の少ない場所ではあるけれど、どちらの公園にも、子どもを遊ばせている母親や、散策している老人たちがいた。つまりまったく人目がなかったというわけじゃない。公園の周りは人通りの多い往来だから、一歩外に出れば尚更だろう。そんなところを、生首を持って歩いていたら、誰かの目についてもおかしくはない」
「子供とはいえ、頭ってのは意外に重くてかさばるからな、ましてや昨日起きた第3の事件は、あのデパートの高島屋の中だ。しかも被害者は15歳の少女と来ている。頭もさぞ大きかったに違いない」
「犯人は、大きめのリュックか、スポーツバッグを持ってたはずです。それが目印になるんじゃないでしょうか」
「そうだな。もう一度、そのあたりを強調して訊きこんでみるか。笹原、おまえもたまにはまともなこと言うようになったじゃねえか。時差ボケが治ったってか?」
現場につくと、韮崎と杏里がナシ割、三上たち4人が識鑑を担当することになった。
ナシ割とは、現場の遺留品の調査。
識鑑は、いわゆる聞き込みのことである。
「1週間前に一度聞きこんでるが、きょうはもう少し範囲を広げてみろ。決め手はバッグかリュックサックだ。大きければ紙袋でもいい。とにかく、事件当日、人間の頭が入りそうな袋を持った奴がうろついていなかったか、しっかり訊きこんで来い」
韮崎の指示を受け、ふた組に分かれて4人が散っていった。
現場はここ川奈公園に3つあるトイレのうち、もっとも目立たない場所にあった。
子ども広場からもグラウンドからも一番遠く、しかも周囲を木立に囲まれている。
いつ性犯罪が起きてもおかしくない立地条件である。
「ヤチカたちが漁っていった後だから、どうせチリひとつ、残っちゃいないだろうがな」
韮崎は煙草をくわえ、すでに半ばあきらめ顔だ。
だが、杏里はどうしても現場を見ておきたかった。
解決のヒントがあるとすれば、それは殺害現場だ、と強く思う。
「ちょっと見てきます」
そう言い置いて、四角いコンクリート製の小屋に近づいた。
女子用と男子用に入口が分かれている。
立入禁止テープをくぐって、女子用に足を踏み入れた。
中を覗くと、思いのほか綺麗だった。
公園のはずれにあっても、掃除は行き届いているらしい。
しばらく内部を歩き回ってみたが、韮崎の言葉通り、個室の中も外も床は磨かれたようにつるつるしていて、髪の毛1本落ちていなかった。
「何かあるはずなんだけどなあ」
洗面台の鏡に向かってひとりごちた時である。
視界の隅に何かが入ってきた。
これ…。
杏里は壁に貼られた一枚の紙に目をやった。
もしかして…。
閃いた。
脱兎のごとく、駆け出した。
トイレから飛び出すと、ベンチに座って煙草をくゆらせている韮崎に向かって、杏里は叫んだ。
「ニラさん! あとふたつの現場にも、連れてってください! ちょっと、気になることがあるんです!」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる