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第4章 百合と外道と疾走するウロボロス
#5 杏里、ほめられる
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「なるほど、いい着眼点ですね」
杏里の発言を受けて、中署の刑事が丁寧な言葉遣いで同意を示した。
「ちょっと待ってください。マップに切り替えてみます」
スクリーンに那古野市街の地図が映し出され、そこに4つの赤い点が浮かび上がった。
おそらくそれが死体の発見場所なのだろう。
「ひとりを除き、被害者たちはみな自宅で殺されています。ただ、そのひとりも殺害されたのはおそらく自宅の風呂場だと思われます。この赤い点がその殺害現場、つまり4人の自宅なのですが…確かに4か所とも、すぐ近くに地下鉄の駅がありますね」
第1の被害者、神崎美穂が、中区の上前津駅。
第2の被害者、小山里美が、北区の大曽根駅。
第3の被害者佐々木涼子が、昭和区の八事駅。
第4の被害者、森田美幸が、南区の新瑞橋駅。
どれも、市営地下鉄の環状線の駅である。
「とすると、犯人は、妊婦を殺しながら、地下鉄で時計回りに移動したということかね」
幹部席から、幹部のひとりがたずねた。
「その線が濃厚ですね。地下鉄での移動時間は、どの区間もほんの5~10分にすぎませんが、犯行時間などを考慮すると、2時間間隔というのは、まず妥当な線かと思われます」
中署の刑事が演台の上のマウスを操作すると、マップに地下鉄の路線図が被さった。
各駅ごとの所要時間が記入された、交通局のHPや地下鉄ホームでよく見かける略図である。
それをぼんやり眺めていた時だった。
杏里の脳裡で、ふいに何かが蠢いた。
あれ?
この形…。
どこかで見たことが…ある。
が、睡眠不足のせいか、いくら考えても思い出せなかった。
地下鉄の路線図としてではなく、他の何かで確かに見た気がするんだけど…。
「ところで、被害者の殺害状況について、詳しく教えてほしいのだが」
ふと我に返ると、先ほどの幹部が質問を続けていた。
「4人とも、その、腹を裂かれ、胎児を摘出された挙句、代わりに”あれ”を詰め込まれていたというのは、本当なのかね? 本当だとしたら、あまりにも酷い気がするのだが…」
「その件に関しましては、科捜研から報告があります」
促されて立ち上がったのは、ヤチカである。
「これが死体の傷口の状況です」
ヤチカの言葉とともに、スクリーンいっぱいに4枚の血みどろの画像が浮かび上がった。
あまりの凄惨さに、会場がどよめいた。
それは、百戦錬磨の刑事たちの度肝を抜くほど、強烈な地獄絵だった。
「う。俺、もうだめ」
隣で高山が青い顔をして口を押えた。
ひどい。
ひどすぎる。
杏里もできるなら、目を背けたかった。
この中のひとり、佐々木涼子の死体は、杏里も昨夜この目で確かめている。
あの時も想像を絶する残虐さに言葉を失ったものだったが、ほかの3人も全く同じだったのだ。
改めて4枚並んだ写真を見せつけられると、吐気を通り越して怒りがわいてきた。
許せない。
赤ちゃんの誕生を心待ちにしていた4人の若いママたち。
なのに、こんな無残な姿にされてしまって…。
「被害者は4人とも、鋭い刃物で帝王切開され、両方の乳房を切り取られています。そして、取り出された胎児の代わりに、子宮にはその乳房が詰め込まれていました。写真では見にくいかもしれませんが、この白い塊が押しこまれた乳房です」
画像を指で指し示しながら、ヤチカが淡々とした口調で説明する。
何事にもぶれない、筋金入りのプロといった感じだった。
「それはどういう意味なんだね? 小説によくある、ダイイングメッセージというやつなのかね」
「さあ」
ヤチカが肩をすくめてみせた。
「そこまでは何とも。私は犯人じゃありませんから」
「まったく、狂ってるとしか、言いようがない」
「でも、驚くのはまだ早いんです」
ヤチカが質問してきた幹部のほうを見た。
「被害者の子宮に詰め込まれていた乳房なんですが、これは自分のものではなく、それぞれ別の被害者から切除されたものでした。つまり、こういうことになります。
第4の被害者、森田美幸の子宮には、第3の被害者、佐々木涼子の乳房が、
第3の被害者、佐々木涼子の子宮には、第2の被害者、小山里美の乳房が、
第1の被害者、神崎美穂の子宮には、第4の被害者、森田美幸の乳房が、それぞれ詰め込まれていたというわけです。第1の被害者神崎美穂だけ、死亡推定時刻よりかなり後に公園内で発見されたのは、第4の犠牲者である森田美幸の乳房を、美穂の死体に入れるためだったと考えていいと思います。つまり、例えて言えば、これは乳房のリレーだったということです」
「乳房の、リレー?」
「何だ、それは?」
「あり得んだろう」
「犯人の奴、いったい何考えてやがる」
会議室に怒号の渦が湧き起こった。
「まだ早いですよ」
会場じゅうを見渡して、ヤチカが言った。
「驚くことは、まだあるんです」
杏里の発言を受けて、中署の刑事が丁寧な言葉遣いで同意を示した。
「ちょっと待ってください。マップに切り替えてみます」
スクリーンに那古野市街の地図が映し出され、そこに4つの赤い点が浮かび上がった。
おそらくそれが死体の発見場所なのだろう。
「ひとりを除き、被害者たちはみな自宅で殺されています。ただ、そのひとりも殺害されたのはおそらく自宅の風呂場だと思われます。この赤い点がその殺害現場、つまり4人の自宅なのですが…確かに4か所とも、すぐ近くに地下鉄の駅がありますね」
第1の被害者、神崎美穂が、中区の上前津駅。
第2の被害者、小山里美が、北区の大曽根駅。
第3の被害者佐々木涼子が、昭和区の八事駅。
第4の被害者、森田美幸が、南区の新瑞橋駅。
どれも、市営地下鉄の環状線の駅である。
「とすると、犯人は、妊婦を殺しながら、地下鉄で時計回りに移動したということかね」
幹部席から、幹部のひとりがたずねた。
「その線が濃厚ですね。地下鉄での移動時間は、どの区間もほんの5~10分にすぎませんが、犯行時間などを考慮すると、2時間間隔というのは、まず妥当な線かと思われます」
中署の刑事が演台の上のマウスを操作すると、マップに地下鉄の路線図が被さった。
各駅ごとの所要時間が記入された、交通局のHPや地下鉄ホームでよく見かける略図である。
それをぼんやり眺めていた時だった。
杏里の脳裡で、ふいに何かが蠢いた。
あれ?
この形…。
どこかで見たことが…ある。
が、睡眠不足のせいか、いくら考えても思い出せなかった。
地下鉄の路線図としてではなく、他の何かで確かに見た気がするんだけど…。
「ところで、被害者の殺害状況について、詳しく教えてほしいのだが」
ふと我に返ると、先ほどの幹部が質問を続けていた。
「4人とも、その、腹を裂かれ、胎児を摘出された挙句、代わりに”あれ”を詰め込まれていたというのは、本当なのかね? 本当だとしたら、あまりにも酷い気がするのだが…」
「その件に関しましては、科捜研から報告があります」
促されて立ち上がったのは、ヤチカである。
「これが死体の傷口の状況です」
ヤチカの言葉とともに、スクリーンいっぱいに4枚の血みどろの画像が浮かび上がった。
あまりの凄惨さに、会場がどよめいた。
それは、百戦錬磨の刑事たちの度肝を抜くほど、強烈な地獄絵だった。
「う。俺、もうだめ」
隣で高山が青い顔をして口を押えた。
ひどい。
ひどすぎる。
杏里もできるなら、目を背けたかった。
この中のひとり、佐々木涼子の死体は、杏里も昨夜この目で確かめている。
あの時も想像を絶する残虐さに言葉を失ったものだったが、ほかの3人も全く同じだったのだ。
改めて4枚並んだ写真を見せつけられると、吐気を通り越して怒りがわいてきた。
許せない。
赤ちゃんの誕生を心待ちにしていた4人の若いママたち。
なのに、こんな無残な姿にされてしまって…。
「被害者は4人とも、鋭い刃物で帝王切開され、両方の乳房を切り取られています。そして、取り出された胎児の代わりに、子宮にはその乳房が詰め込まれていました。写真では見にくいかもしれませんが、この白い塊が押しこまれた乳房です」
画像を指で指し示しながら、ヤチカが淡々とした口調で説明する。
何事にもぶれない、筋金入りのプロといった感じだった。
「それはどういう意味なんだね? 小説によくある、ダイイングメッセージというやつなのかね」
「さあ」
ヤチカが肩をすくめてみせた。
「そこまでは何とも。私は犯人じゃありませんから」
「まったく、狂ってるとしか、言いようがない」
「でも、驚くのはまだ早いんです」
ヤチカが質問してきた幹部のほうを見た。
「被害者の子宮に詰め込まれていた乳房なんですが、これは自分のものではなく、それぞれ別の被害者から切除されたものでした。つまり、こういうことになります。
第4の被害者、森田美幸の子宮には、第3の被害者、佐々木涼子の乳房が、
第3の被害者、佐々木涼子の子宮には、第2の被害者、小山里美の乳房が、
第1の被害者、神崎美穂の子宮には、第4の被害者、森田美幸の乳房が、それぞれ詰め込まれていたというわけです。第1の被害者神崎美穂だけ、死亡推定時刻よりかなり後に公園内で発見されたのは、第4の犠牲者である森田美幸の乳房を、美穂の死体に入れるためだったと考えていいと思います。つまり、例えて言えば、これは乳房のリレーだったということです」
「乳房の、リレー?」
「何だ、それは?」
「あり得んだろう」
「犯人の奴、いったい何考えてやがる」
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