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第5章 百合はまだ世界を知らない
#22 杏里と教団⑤
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グノーシス主義…?
何だろう?
学校の教科書には出てこなかった気がする。
杏里は首をかしげた。
あるいはあの変人の零なら知っているのだろうか?
どちらにせよ、この世が悪い神によって造られたもので、本当の神は蛇のほう、というのは、キリスト教の教えとはむしろ真逆の考え方だろう。
「まあ、とはいえ、これも元はといえば、摩耶からの受け売りでして。興味がおありなら、詳しいことは彼女に訊いてください。この手の話題は摩耶のほうが強いですから」
坊主頭を手のひらで撫でながら、秀英が苦笑した。
「奥様は、確か前の教祖の娘さんで、今は大学病院の外科医をなさってるんですよね? その摩耶さんが、グノーシス主義とやらを信じておられると?」
「いや、摩耶が信じているのは、グノーシス主義そのものではなくて、あくまで先代の父の教えでしょう。彼女にとって、父親は絶対的な存在でしたから。あ、それに、摩耶は大学病院の専属ではありません。大学病院の近所に自分の個人医院を持っていて、多くはそこに詰めています。解剖医の手が足りない時などには、古巣の大学病院に呼ばれるようですけどね」
「なるほど。それで、その病院の名は?」
「そのままですよ。陣内総合外科医院。外科一般を扱っています」
「失礼ですが、奥様の専門は何ですか? 外科と一口に言っても、いろいろあると思うのですが」
「一番の専門は、臓器移植でしょうかね。あの大学病院は、心臓移植をはじめとする数々の臓器移植の認定を国から受けています。あそこの専属だった頃は、摩耶はその方面でけっこう有名だったはずですよ。神の手を持つ美人女医って」
「聞いたか。臓器移植だとよ」
教団本部を出るなり、韮崎が不機嫌極まりない口調で言った。
「これでつながりましたね」
うなずく杏里。
「やっぱり、この件、臓器売買が絡んでいそうです」
「だな。あのへらへらした教祖はシロだとしても、奥方のほうは真っ黒だ。一年前に独立して、個人病院を建てたってのもなんとなく気になる。そこが臓器売買の本拠地になってるって可能性もあるだろう?」
「もう三上さんたちも戻ってくる頃ですよね。いったん署に集まって、情報を共有してみませんか?」
「ばーか。新米のおまえがそれを言うな。そいつは俺の台詞だろうが」
「あ、失礼しました」
苦笑いして、杏里は韮崎に買ってもらった熱々の缶コーヒーをごくりと飲んだ。
でも、と思う。
摩耶が臓器売買組織の中心人物だとして、いったい彼女はどうやって被害者の内臓を持ち出したのだろう?
もしそれが可能なら、この事件、外道の仕業と考えなくてもいいことになる。
零とヤチカが指摘したように、被害者の内臓を喰った何ものかの存在を想定しなくてよくなるのだ。
零には悪いけど、できればそっちのほうがいい。
杏里は切にそう願った。
事件の裏に非日常の世界を垣間見るのは、もううんざりという気分だったのだ。
何だろう?
学校の教科書には出てこなかった気がする。
杏里は首をかしげた。
あるいはあの変人の零なら知っているのだろうか?
どちらにせよ、この世が悪い神によって造られたもので、本当の神は蛇のほう、というのは、キリスト教の教えとはむしろ真逆の考え方だろう。
「まあ、とはいえ、これも元はといえば、摩耶からの受け売りでして。興味がおありなら、詳しいことは彼女に訊いてください。この手の話題は摩耶のほうが強いですから」
坊主頭を手のひらで撫でながら、秀英が苦笑した。
「奥様は、確か前の教祖の娘さんで、今は大学病院の外科医をなさってるんですよね? その摩耶さんが、グノーシス主義とやらを信じておられると?」
「いや、摩耶が信じているのは、グノーシス主義そのものではなくて、あくまで先代の父の教えでしょう。彼女にとって、父親は絶対的な存在でしたから。あ、それに、摩耶は大学病院の専属ではありません。大学病院の近所に自分の個人医院を持っていて、多くはそこに詰めています。解剖医の手が足りない時などには、古巣の大学病院に呼ばれるようですけどね」
「なるほど。それで、その病院の名は?」
「そのままですよ。陣内総合外科医院。外科一般を扱っています」
「失礼ですが、奥様の専門は何ですか? 外科と一口に言っても、いろいろあると思うのですが」
「一番の専門は、臓器移植でしょうかね。あの大学病院は、心臓移植をはじめとする数々の臓器移植の認定を国から受けています。あそこの専属だった頃は、摩耶はその方面でけっこう有名だったはずですよ。神の手を持つ美人女医って」
「聞いたか。臓器移植だとよ」
教団本部を出るなり、韮崎が不機嫌極まりない口調で言った。
「これでつながりましたね」
うなずく杏里。
「やっぱり、この件、臓器売買が絡んでいそうです」
「だな。あのへらへらした教祖はシロだとしても、奥方のほうは真っ黒だ。一年前に独立して、個人病院を建てたってのもなんとなく気になる。そこが臓器売買の本拠地になってるって可能性もあるだろう?」
「もう三上さんたちも戻ってくる頃ですよね。いったん署に集まって、情報を共有してみませんか?」
「ばーか。新米のおまえがそれを言うな。そいつは俺の台詞だろうが」
「あ、失礼しました」
苦笑いして、杏里は韮崎に買ってもらった熱々の缶コーヒーをごくりと飲んだ。
でも、と思う。
摩耶が臓器売買組織の中心人物だとして、いったい彼女はどうやって被害者の内臓を持ち出したのだろう?
もしそれが可能なら、この事件、外道の仕業と考えなくてもいいことになる。
零とヤチカが指摘したように、被害者の内臓を喰った何ものかの存在を想定しなくてよくなるのだ。
零には悪いけど、できればそっちのほうがいい。
杏里は切にそう願った。
事件の裏に非日常の世界を垣間見るのは、もううんざりという気分だったのだ。
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