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第2章 謝肉祭

#11 痴漢凌辱バス②

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 納屋に鍵をかけ、檻に戻した太郎に餌をやっていると、9時を過ぎてしまった。
 急いで母のために昼食と夕食を作り置き、メモを書き残してバス停に向かう。
 土曜日の午前中だけあって、バスは比較的混んでいた。
 なんとか空席を見つけて、体を割り込ませた。
 バスの中には濃厚な化粧の匂いと、生理の臭いが充満していた。
 匂いの発生源は、後部座席周辺に陣取るギャル風の女子高生たちだった。
 座っている者、立っている者合わせて10人以上いる。
 全員申し合わせたように、茶髪の頭に短いスカート。
 マジでー。
 やべー。
 ガチでー。
 とか。
 うるさいことこの上ない。
 そのほかの乗客は、買い物目的の主婦やら老婆やらが目立つ。
 乗客の9割が女性で、男性は老人が数名乗っているだけである。
 そろそろだ。
 そう思って窓から外をのぞくと、次のバス停に杏里が立っていた。
 黒のタンクトップに真っ白なフレアスカート。
 丈はもちろん、座ったら最後、下着が見えてしまうこと請け合いの超ミニである。
 遠目にも、きょうの杏里はいつもに増して輝いて見えた。
 すごくかわいい。
 そして、たまらなくエロチックだ。
 杏里が私に気づいて手を振った。
 私も肩のあたりに手を上げて、小さく振り返した。
 うれしかった。
 きのうあんなことがあったのに、杏里はちゃんと来てくれたのだ。
 アナウンスが流れ、バスが減速し始めた。
 その時だった。
 後部座席を占拠している女子高生たちが、騒ぎ始めた。
「なに、あいつ?」
「ちょっと、むちゃエロくね?」
「もろ、パンツ見えてるんじゃね?」
「乳でかーい。って、ホルスタインかよ」
「けどさ、すっげーカワイイじゃん。ガチうちの好みだって。いっちょ、しめてやろうか」
「ここで? それヤバくね?」
「んなことないって、マジおもしろそー」
「うち、ストレスたまってんだよね、この際可愛ければ女でもオッケー」
「おまえ、いつからレズになったんだよ」
「レズじゃねーって。今はバイセクシャルっつーんだって」
 私は身を縮こまらせた。
 耳をふさぎたかった。
 杏里のことだ。
 あいつら、杏里を襲うつもりなのだ。
 とてつもなく嫌な予感がした。
 できればバスに通り越してほしかった。
 が、当然、そうはならなかった。
 バスが止まり、空気が抜けるような音とともに、前のドアが開いた。
 入り口に光が射し、ふわりと杏里が乗ってきた。
 乗客たちの目が、一斉に杏里のほうに集中する。
 びりびりと空気が帯電したようだった。
 けだものじみた臭いがきつくなった。
「よどみ、おはよ」
 私を見つけて杏里が微笑んだ時、その背後で、無情にもドアが閉まった。


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