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第2章 謝肉祭

#16 誘引する肢体②

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 フードコートもなかなかの混み具合だった。
 先に席を確保することにして、私たちは満員の席の間を歩き回った。
 ここでも同じ現象が起こった。
 杏里が近づき、通り過ぎるたび、客たちの首が動く。
 家族連れにしてからが、そうだった。
 さすがに幼児たちはそうではないが、父親だけでなく、母親までもが杏里の顔や胸、そして尻や太腿に熱い視線を投げかけてくるのである。
 何周も歩き回っていると、やっと窓際のふたりがけのテーブルが空いた。
「疲れたね」
 テーブルに両肘をつき、チューリップの形に広げた両手のひらで顎を支えて杏里が言った。
 私はしげしげとその愛くるしい顔を見つめ、思った。
 この子ったら、いったいどんな精神構造をしているのだろう。
 とてもついさっき集団レイプを受けた少女とは思えない、この平静さは何?
 これまで私が見てきた犠牲者たちは、そうではなかった。
 母に蹂躙された直後の彼らは、皆狂ったように泣き叫ぶか、あるいは回復不能の放心状態に陥ってしまったものである。
 手ごわいな。
 私の中のけだものがささやいた。
 この女、ふつうのやり方じゃ、音を上げさせることすら難しい。
 手加減するな。
 やるなら徹底的に。
 母の腕をしのぐぐらいに。
 精神が崩壊するまで、徹底的に蹂躙、そして凌辱するのだ。
 でないと間違いなく、返り討ちに遭うだろう。
 バスの中のあのJKたちみたいに、あっけなく…。
 しかし、と思う。
 それまでは、杏里をできるだけこの手で守らなければならない。
 他人に犯される杏里を見るのは、確かにぞくぞくする経験ではある。
 けど、私は残り物は嫌いだ。
 獲物はなるべく新鮮であってほしい。
 使い古されて変色した花弁ではなく、色鮮やかなピンクの花弁がほしいのだ。
 驟雨のように降り注ぐフロア中の視線。
 それが私を苛立たせた。
 こうなったら…。
 私は決意した。
 マスクに手をかけ、一気に引きはがす。
 とたんに、杏里に集中していた視線が一瞬にして凍りつくのがわかった。
 そそくさと顔をそむける周囲の客たち。
 -わあ、お化け!
 子どもが悲鳴を上げる。
「よどみって…優しいね」
 そんな私を見て、杏里が言った。
 杏里のほうこそ、ひどく優しい目をしている。
「私、ますます好きになっちゃうかも」
 私は杏里の顔から視線を逸らした。
 違うの。
 心の中でかぶりを振った。
 違うんだよ、杏里。
 私は…。
 そんな人じゃ、ない。

 

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