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第2章 謝肉祭

#29 タナトス②

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 なんとか雨が降り出す前に、学校にたどり着くことができた。
 靴箱のところで上靴に履き替えていると、パタパタと足音がして、
「よどみ、おはよ」
 杏里が明るく声をかけてきた。
 きのうずっと一緒だったのに、ひどく懐かしい気がして、私はほっと和んだ。
 針の筵のようなこの学校で、杏里の存在だけがオアシスなのだ。
 こんな憂鬱な天気の時は、それが殊更身に染みる。
 杏里は相変わらず胸がはちきれんばかりの夏服に、大胆なマイクロミニのひだスカート。
 もう慣れたとはいえ、近くで見るとやっぱりどきどきする。
「この天気じゃ、屋上行けないね」
 並んで歩き始めると、残念そうに杏里が言った。
 昼休みのことを言っているのだろう。
「空いた部屋で食べればいいよ。たとえば家庭科準備室とかさ」
「そうか。そういう手があったんだ」
「心配ないって、ちゃんと杏里の分のお弁当も、作ってきたから」
 予鈴に追い立てられるように、教室に急いだ。
 もうみんなそろっているのか、扉は前も後ろも閉まっていた。
 杏里を背中に庇うようにして、後ろの扉を開けた。
 教室のあちこちに三々五々たむろして駄弁っていたクラスメートたちが、申し合わせたようにこっちを見た。
 どっとばかりに上がる笑い声。
 杏里が息を呑む気配が伝わってきた。
 黒板いっぱいに、何か書いてある。
 チョークを目いっぱい使って、まるで何かの歓迎会みたいに。
 -死ね、メス豚ー
 ー淫乱杏里ー
 -史上最低のビッチ!-
 ―エンコー女ー
 ーやらせろー
 -くされお〇んこ-
 罵詈雑言がカラフルな色合いで書き殴られている。
 そして、おびただしい写真。
 パンティを見せて階段を上る杏里。
 たわわな横乳もあらわに、着替える杏里。
 ぴっちりしたブルマに包まれた、大きなお尻。
 杏里の画像を集めていたのは、どうやら私だけではなかったらしい。
 そして、写真と暴言の渦の真ん中に、ひと際大きな文字があった。
 それは、こう読めた。
 意味不明の三文字熟語。
 -謝肉祭ー
 
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