35 / 58
第2部 背徳のパトス
#13 杏里とデス・ゲーム①
しおりを挟む
おもゆのような味のない朝食を食べると、すぐに退院の時間だった。
小田切が迎えに来ていた。
今にも雨が降り出しそうな、陰鬱な朝だった。
杏里の入院中に、入梅宣言が出たのかもしれなかった。
「パトスに会ったのか?」
車を出すと、小田切が訊いてきた。
「冬美から連絡があった。念のため、試験中のパトスを派遣しておいた、と」
杏里はうなずいただけで、何もいわなかった。
あの少女のことは、思い出すのも嫌だった。
「榊由羅、か」
車を走らせながら、小田切がつぶやく。
「ちょっと扱いにくいところがあるが、ハンターとしては極めて優秀だそうだ」
ちょっとどころじゃない!
と危うく叫びかけたが、ぐっと押し殺して、杏里は別の話題を口にした。
「私はそれより、あの子のことが気になるんです」
「おまえを毒殺しようとした少年か?」
杏里はうなずいた。
「彼が"昇華”したかどうか、確かめないと。それで、もしまだのようだったら、何とかして・・・」
「そうだな。外来種も気になるが、そっちもおまえの大事な任務だからな」
「私、お昼から学校に行こうと思います」
「体はもういいのか?」
「はい」
「相変らず、タフなやつだ」
小田切が薄く笑う。
きょうの小田切はサングラスをかけている。
一見かなりのイケメンに見えるが、いかんせん寝癖だけは直っていない。
「少年については調べておいた。篠崎拓哉。おまえの推察通り、あの病院の医院長の孫だ。病院のすぐ裏に建っている豪邸に住んでるよ」
やっぱり。
杏里は決心した。
学校で捕まえられなかったら、直接家へ行ってみよう。
いったん家に帰ると、制服に着替えた。
杏里のスカートは、赤と黒のチェックの超ミニである。
明らかに校則違反の短さだが、これは"タナトス仕様”だから学校にも黙認されている。
それもそのはず、小田切に聞かされて知ったのだが、タナトスの存在は教育委員会公認なのだった。
前の若葉台中学で、杏里があれほど壮絶ないじめに遭っても、教師が全く止めに入らなかったのは、ひとつにはそれが理由だったのだ。
そもそも、学校からいじめを根絶するために、その地域の教育委員会がタナトスの出動を要請するらしいのである。
いつから始まったのか知らないが、あきれるほど非人道的なシステムだった。
もちろん、タナトスは人間ではないため、人権がない。
だから、非人道的という概念自体、当てはまらないわけではあるのだが・・・。
白いブラウスの下に、わざと透けるように派手なピンクのブラジャーをつける。
ただでさえ大きい乳を下から押し上げ、更に胸の谷間を強調する、大人仕様のハーフカップ・ブラである。
超ミニのスカートの下には、ブラジャーに合わせてやはりピンクの生地の薄いパンティを穿いた。
見せパンや短パンでガードすることは、タナトスには許されない。
全身からフェロモンを発散して、ハエ取り紙よろしく他人のストレスや欲望を吸引しなければならないのだ。
昼から登校すると、学校はちょうど昼休みだった。
さっそく杏里の周りに生徒たちが集まってきた。
「わあ、杏里、会いたかったよー」
満面の笑顔で高橋楓がいった。
「ほら、約束のノート。楓が文系、僕が理系の教科をまとめておいたから」
山口翔太が大学ノートを二冊、差し出した。
杏里はうれしくなった。
このクラスは、ほんと、みんなやさしい。
ストレスのかけらもない、いい人ばかりだ。
杏里のタナトス仕様の制服も、たいして気にならないらしい。
やっと自分が普通の中学生に戻れた気がした。
が、今はそれを楽しんでもいられないのだった。
杏里は職員室に用事があるからと口実を作って、再び教室を出た。
昼休みはあと20分ほどある。
その間に、あの少年を捜さなければならない。
見たことのある顔だから、おそらく同じ二年生だろう、と見当をつけていた。
ならば、この棟にいるに違いない。
二年生は九クラスある。
杏里は一組だから、最後の九組まで調べるには、一階と二階の二つのフロアを見て歩かねばならなかった。
一階の教室を捜し終えて、二階に登ろうとしたときだった。
「おい、パンツ見えてるぞ」
すぐ下から声がした。
あわてて尻を押さえ、振り返ると由羅がいた。
「スマホ貸せよ。約束だろ」
杏里は由羅をにらみつけた。
驚いたことに、制服を着てはいるものの、由羅の醸し出す雰囲気は夕べのままだった。
蝙蝠のような髪型と、目の周りの縁取りがそのままなのである。
しかも、杏里並みにスカートを短くしているので、相変らずハロウィンの小悪魔そのものに見える。
「いやだといったら?」
相手を睨み据えながら、杏里は意地悪くいった。
「あんだと?」
由羅が飛んだ。
ひとっ飛びで杏里の前に立つ。
胸倉をつかまれた。
「人が下手に出りゃ、いい気になりやがって」
突き飛ばされた、
「いたあい!」
階段の下まで落ちて、尻もちをついた。
自然、むっちりした両足が開いて、生白い内腿の間からピンクのパンティが丸見えになる。
「杏里、ケータイ、渡しなよ」
ふいに、肩越しに声をかけられた。
頸だけひねって振り向くと、ヒュプノス、栗栖重人が立っていた。
「パトスと、連絡取れるようにしておいたほうがいいよ」
「どうしてあんたが。そんなこと」
食ってかかろうとする杏里に、真剣な表情で重人がいった。
「ボク、前の学校で、見たんだよ。外来種が、人を殺すとこ」
「え?」
杏里は目を見開いた。
外来種が、人を殺す?
が、重人の次の台詞は更に衝撃的だった。
黒縁眼鏡の奥で哀しそうな目をすると、少年は、今にも泣き出しそうな声でいったのだ。
「それだけじゃない。ボクが以前組んでたタナトスはね、その外来種に殺されちゃったんだよ」
小田切が迎えに来ていた。
今にも雨が降り出しそうな、陰鬱な朝だった。
杏里の入院中に、入梅宣言が出たのかもしれなかった。
「パトスに会ったのか?」
車を出すと、小田切が訊いてきた。
「冬美から連絡があった。念のため、試験中のパトスを派遣しておいた、と」
杏里はうなずいただけで、何もいわなかった。
あの少女のことは、思い出すのも嫌だった。
「榊由羅、か」
車を走らせながら、小田切がつぶやく。
「ちょっと扱いにくいところがあるが、ハンターとしては極めて優秀だそうだ」
ちょっとどころじゃない!
と危うく叫びかけたが、ぐっと押し殺して、杏里は別の話題を口にした。
「私はそれより、あの子のことが気になるんです」
「おまえを毒殺しようとした少年か?」
杏里はうなずいた。
「彼が"昇華”したかどうか、確かめないと。それで、もしまだのようだったら、何とかして・・・」
「そうだな。外来種も気になるが、そっちもおまえの大事な任務だからな」
「私、お昼から学校に行こうと思います」
「体はもういいのか?」
「はい」
「相変らず、タフなやつだ」
小田切が薄く笑う。
きょうの小田切はサングラスをかけている。
一見かなりのイケメンに見えるが、いかんせん寝癖だけは直っていない。
「少年については調べておいた。篠崎拓哉。おまえの推察通り、あの病院の医院長の孫だ。病院のすぐ裏に建っている豪邸に住んでるよ」
やっぱり。
杏里は決心した。
学校で捕まえられなかったら、直接家へ行ってみよう。
いったん家に帰ると、制服に着替えた。
杏里のスカートは、赤と黒のチェックの超ミニである。
明らかに校則違反の短さだが、これは"タナトス仕様”だから学校にも黙認されている。
それもそのはず、小田切に聞かされて知ったのだが、タナトスの存在は教育委員会公認なのだった。
前の若葉台中学で、杏里があれほど壮絶ないじめに遭っても、教師が全く止めに入らなかったのは、ひとつにはそれが理由だったのだ。
そもそも、学校からいじめを根絶するために、その地域の教育委員会がタナトスの出動を要請するらしいのである。
いつから始まったのか知らないが、あきれるほど非人道的なシステムだった。
もちろん、タナトスは人間ではないため、人権がない。
だから、非人道的という概念自体、当てはまらないわけではあるのだが・・・。
白いブラウスの下に、わざと透けるように派手なピンクのブラジャーをつける。
ただでさえ大きい乳を下から押し上げ、更に胸の谷間を強調する、大人仕様のハーフカップ・ブラである。
超ミニのスカートの下には、ブラジャーに合わせてやはりピンクの生地の薄いパンティを穿いた。
見せパンや短パンでガードすることは、タナトスには許されない。
全身からフェロモンを発散して、ハエ取り紙よろしく他人のストレスや欲望を吸引しなければならないのだ。
昼から登校すると、学校はちょうど昼休みだった。
さっそく杏里の周りに生徒たちが集まってきた。
「わあ、杏里、会いたかったよー」
満面の笑顔で高橋楓がいった。
「ほら、約束のノート。楓が文系、僕が理系の教科をまとめておいたから」
山口翔太が大学ノートを二冊、差し出した。
杏里はうれしくなった。
このクラスは、ほんと、みんなやさしい。
ストレスのかけらもない、いい人ばかりだ。
杏里のタナトス仕様の制服も、たいして気にならないらしい。
やっと自分が普通の中学生に戻れた気がした。
が、今はそれを楽しんでもいられないのだった。
杏里は職員室に用事があるからと口実を作って、再び教室を出た。
昼休みはあと20分ほどある。
その間に、あの少年を捜さなければならない。
見たことのある顔だから、おそらく同じ二年生だろう、と見当をつけていた。
ならば、この棟にいるに違いない。
二年生は九クラスある。
杏里は一組だから、最後の九組まで調べるには、一階と二階の二つのフロアを見て歩かねばならなかった。
一階の教室を捜し終えて、二階に登ろうとしたときだった。
「おい、パンツ見えてるぞ」
すぐ下から声がした。
あわてて尻を押さえ、振り返ると由羅がいた。
「スマホ貸せよ。約束だろ」
杏里は由羅をにらみつけた。
驚いたことに、制服を着てはいるものの、由羅の醸し出す雰囲気は夕べのままだった。
蝙蝠のような髪型と、目の周りの縁取りがそのままなのである。
しかも、杏里並みにスカートを短くしているので、相変らずハロウィンの小悪魔そのものに見える。
「いやだといったら?」
相手を睨み据えながら、杏里は意地悪くいった。
「あんだと?」
由羅が飛んだ。
ひとっ飛びで杏里の前に立つ。
胸倉をつかまれた。
「人が下手に出りゃ、いい気になりやがって」
突き飛ばされた、
「いたあい!」
階段の下まで落ちて、尻もちをついた。
自然、むっちりした両足が開いて、生白い内腿の間からピンクのパンティが丸見えになる。
「杏里、ケータイ、渡しなよ」
ふいに、肩越しに声をかけられた。
頸だけひねって振り向くと、ヒュプノス、栗栖重人が立っていた。
「パトスと、連絡取れるようにしておいたほうがいいよ」
「どうしてあんたが。そんなこと」
食ってかかろうとする杏里に、真剣な表情で重人がいった。
「ボク、前の学校で、見たんだよ。外来種が、人を殺すとこ」
「え?」
杏里は目を見開いた。
外来種が、人を殺す?
が、重人の次の台詞は更に衝撃的だった。
黒縁眼鏡の奥で哀しそうな目をすると、少年は、今にも泣き出しそうな声でいったのだ。
「それだけじゃない。ボクが以前組んでたタナトスはね、その外来種に殺されちゃったんだよ」
1
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる