激甚のタナトス ~世界でおまえが生きる意味について~【覚醒編】

戸影絵麻

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第3部 凶愛のエロス

#11 隔離

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「いったい、これはどういうことだ」
 集中治療室の窓から中を眺めながら、小田切がつぶやいた。
 事故の知らせを聞いて病院に駆けつけてから、もう数時間が経過している。
「本当に単なる事故なのか? それともこれも、タナトスの本能が招いたものなのか?」
 青白い海底のような病室の中。
 厳重に気密された透明なベールの向こうに、死んだように眠っている杏里が見える。
 頭に包帯を巻き、両腕には副木が当てられ、見るからに無惨なありさまだ。
 シーツの下の体は、もっと大変なことになっているのだろうと想像すると、さすがに胸が悪くなった。
「あるいは、外来種の襲撃か・・・。小田切君は、そういいたいんでしょ?」
 隣に立って同じように眠る杏里を見つめていた水谷冬美が、視線を動かすことなく、いった。
「目撃者の少年の言葉が、気になるんだ。その場に、もうひとり、少女がいた、という・・・」
「でも、外来種は雄しか存在しない。人間の女を母体に繁殖する生物だから。それは知ってるわね」
「もちろんだ。しかし、気になるな・・・。もし仮にだ、雌の外来種がいたとしたら? そのことを、単に俺たちが知らないだけだとしたら?」
「あり得るわね」
 冬美がうなずいた。
「でも、そうすると、その雌の外来種って、いったい何に当たるのかしら? ひょっとして・・・」
「そう。外来種の、上位存在だ」
 小田切が、短く断定するように、いった。
「・・・上位、存在?」
 冬美がそうひとりごちたとき、白衣の医師が、背後から声をかけてきた。
「幸い、回復は順調です。話には聞いていましたが、驚異的な生命力ですね。普通の人間なら、間違いなく即死しているところだ。脊椎粉砕、内臓破裂・・・これで生きてられるなんて、本当に、人間じゃない」
 ここは、以前、毒殺魔事件のときにも杏里が入院した、この街随一の総合病院、篠崎医院である。
 すでに"上"から病院側に直接指示が出ているので、杏里の特異体質の情報が、マスコミに漏れる心配はない。
「脳がやられなかったのが幸いだった」
 小田切はいった。
 タナトスは不死身だ。
 だが、脳をやられると死ぬ。
 杏里が脳を潰されるところを想像するだけで、背筋が寒くなる。
 無性に煙草が吸いたくなった。
「このまま回復が順調なら、明日には意識が戻ると思います。もっとも完治するには最低一週間は必要ですが」
「わかった。ありがとう」
 小田切が片手を挙げると、一礼して、若い医師は去っていった。
「由羅は何してる?」
 医師の姿が見えなくなるのを待って、小田切はたずねた。
「外来種を探すんだって張り切ってるけど、まだ見つけられないみたい」
「外見からは区別がつかないから、それは無理だろう。それより、明日からここへ呼んでくれないか。杏里から離れないようにいってくれ。この前杏里が強姦されてから、かなり時間が経っている。そろそろあのときの味が忘れられなくなって、襲ってくるはずだ。そこを由羅に叩かせる。それに…新たな脅威、メス外来種の存在も気にかかる」
「わかったわ。ただあの子、彼女に妙なわだかまりみたいなもの抱いてるみたいで、なんだか警戒して近寄りたがらないの」
「それは逆だろう。わだかまりを抱いているのは、たぶん、杏里のほうだ。ただ、もとはといえば、冬美、それは君のせいのような気もするがな」
 小田切の口調に皮肉っぽい響きが混じった。
「あなたまでそんな風に思ってるの?」
 冬美は少し気分を害したようだった。
 綺麗に整った眉が、わずかに吊りあがる。
「人間じゃないからって、あまり軽々しく扱わないことだ。あの子たちも、俺たちと同じように感情を持っている。若いだけに、俺たち以上に人間的な感情を、な」
「わかってるわよ。いわれなくても。そんなこと」
 冬美が小田切を睨むように見つめた。
「そういうあなたはどうなの? 杏里をちゃんと対等の人間として扱ってるといえる?」
「どうかな」
 小田切は肩をすくめた。
 寝癖のついた頭を掻くと、わざと軽い調子でいった。
「この話はこのくらいにしておこう。さ、帰るとするか。どっかで飯でも食っていこうぜ。俺が奢るよ」

 両手首と両足首を背中側でひとまとめに縛り上げられ、零は全裸で天井から吊るされていた。
「どうだ、いいか?」
 しわがれた声音で、老人が訊いた。
 零の股間に、太いバイブを挿入している。
 常人の男のペニスの倍はある、特大サイズのバイブである。
 それは、生き物のようにうねりながら、激しく零の子宮を攻め立てている。
「いいわ」
 零は宙ぶらりんにされたまま、無感動に答えた。
「とってもいいわよ。おじいちゃん」
「そうか。じゃ、もっと奥に」
 老人の皺に埋もれた細い目に、狂気の灯がともる。
 零は目を閉じた。
 こんなの、いいわけがない。
 血を見なくては、私は感じないのだ。
 だからといって、こんなおいぼれを痛めつけてみたところで、毛ほどの興奮も覚えないに違いない。
 パトス・・・。
 会いたい。
 どんな子なのだろう?
 少し興奮してきて、零はほっそりした裸身をよじらせた。
「おお、そんなにいいか」
 勘違いした老人が、喜びの声を上げる。
「あん・・・」
 零は喘いだ。
「もう、いきそう」
 今度は演技だった。
 こんな茶番は早めに終わらせて、明日に備えたい。
 そう思ったのだった。

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