キチママ

戸影絵麻

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#4 薬部屋

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 薬部屋とは、団地の集会室の地下にある、薄暗い倉庫のことだ。
 急な階段を下りた先は短い通路になっていて、そのつきあたりに両開きの古い木の扉がはまっている。
 いつでも住人が出入りできるように、扉には鍵がかかっていない。
 不用心といえばそうだけど、こんな所、はっきり言って泥棒どころかネズミやゴキブリだって近づかない。
 とにかく陰気で臭いのだ。
 中に入ると、天井近くに開いた明かり採りの小窓から差し込む光に、棚にずらりと並んだ壺の列が浮かび上がった。
 ひと抱えほどもある同じような壺が、壁に設置された棚をびっしりと埋め尽くしているのだ。
 壺にはシールが貼ってあり、そこに黒マジックで所有者の名前が書かれている。
 全世帯のものがそろっているので、他人の壺と間違わないようにするためである。
 C棟の列を探し当て、ママの名前を探していると、そこだけぽっかり空いたスペースに突き当たった。
 瞬間、背筋を冷たい汗が這い下りた。
 ここは確か、小夜子の…。
 不吉な想像をふり払い、壺探しを再開する。
 毎月来ているので、その気になれば見つけるのは簡単だった。
「あった」
 つぶやいて、
 ママの名前の壺を抱え、足元の床に下ろした。
 壺の口にはコルクの蓋がはまっていて、それを取るのは、正直、小学生の僕には難事業である。
 試行錯誤の末、ようやく蓋を抜き取ると、お馴染みのあの匂いがつんと鼻を突いた。
 腐った魚に薬品を混ぜたような、なんともいえない嫌な匂い…。
 準備のために、半ズボンと下着を下ろした。
 幸い、股間の”あれ”はすっかり元の大きさに戻り、目のない深海生物のように腿と腿の間に縮こまっている。
 傷は右の尻っぺたにあった。
 手で触ってみると、いつもより抉られ方が深かったのか、1週間経っているのに、まだへこんだままだった。
 息を止め、壺の口に指を突っ込み、どろどろした液体をかき回す。
 腐った血みたいな色をしたゼリー状の塊を指ですくって、患部に近づけた。
 傷の上でゼリーを潰し、スライム状の粘液を尻っぺたのへこみの中に塗り込んでいく。
 その間、誰かに見られているようで、怖くてならなかった。
 この倉庫の中にある壺すべてにこれと同じ液体が入っているかと思うと、胸がむかむかしてきて、今にも吐きそうだった。
 それでも僕は我慢して、最期まで作業をやり遂げた。
 これもママのため。
 そう思うと、胸の奥底に不思議と勇気が湧いてきたからだ。
 
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