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第6部 淫蕩のナルシス

#43 辱め

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 いつの頃からだろう。
 ベストのボタンをはずし終え、きついブラジャーに絞めつけられた胸を空気に曝した時、杏里はふと思った。
 他人に見られることに、興奮を覚えるようになったのは…。
 実際、今がそうだった。
 見知らぬ老婆に命じられ、その目の前で素肌を晒しながら、杏里は疼くような高ぶりを覚えていた。
 ヤチカのせいだろうか。
 彼女の手によって、タナトスの潜在能力がMAXまで引き出されてしまったのかもしれない。
「おうおう、立派な乳だこと。これは絶対、中学生のものじゃないねえ」
 ブラジャーに押し上げられた杏里の両の乳房を見て、老婆が感心したように言った。
 杏里が身に着けているブラジャーは、かろうじて下乳を支える役割を果たしているだけで、乳輪が半分見えてしまっていた。
 それが、見られていることを意識したせいなのだろう。
 乳首がひとりでに硬く勃起し、今やブラの縁に弾かれてピンと外に飛び出してしまっている。
「呆れたねえ。おまえさん、もう感じてるのかい?」
 ただでさえ大きい老婆の眼が、驚きで真ん丸になった。
「見られるだけでそんなに乳首硬くするだなんて…こんな感度のいい子は初めてだよ」
「ま、まだ…脱ぐの…?」
 ブラとミニスカートだけの姿になって、杏里はたずねた。
 息が荒くなっているように感じるのは、気のせいだろうか。
「ああ。もっと見たいねえ。タナトスのあそこがどうなっているのか、老い先短い私に見せてくれないかねえ」
 クックと喉の奥で鳩の鳴き声のような笑い声を立てながら、老婆が答える。
「あ、はい…」
 身をよじらせながらスカートを脱ぐと、杏里は極小のビキニパンティの前を、両手で隠した。
 早くも股間が濡れ始めている。
 そのことが恥ずかしかったのだ。
「こ、これで、どうですか?」
 蚊の鳴くような声で、杏里は訊いた。
 羞恥心が頭の中で渦巻き、嗜虐的な快感に変わり始めている。
 鏡台の鏡に己の裸身を映して自慰に耽る時のように、目蓋の裏にピンク色の靄がかかっていた。
「いいよ、それで。下着は私が取ってあげるから」
 老婆が舌なめずりをするように言った。
「え…?」
 杏里は目を見開いて、老婆を見返した。
「見せたいんだろう? もっと」
 老婆は、まるで杏里の心の中を見抜いているかのようだ。
「おまえさんは、そういう子なんだよ。ヤチカとの交わり、とっくりと見せてもらったけど、杏里、おまえさんほどのナルシストは他にいないね。おまえさんは、その自慢の身体を他人に見られ、弄り回されるのがたまらなく好きなんだ。隠してもだめだよ。ほら、そこ、もう濡れてるんだろ? 匂いでわかるよ。お汁とフェロモンの匂いがぷんぷんするもの。こんなところでお漏らしするなんて、せっかくのセクシーなショーツが台無しじゃないか。でも、気持ちはわかる。14歳でその身体…。すごいとしかいいようがないね。こんな細い胴してるのに、なんだい、そのエロい腰つきは。ちょっと後ろを向いてごらん。そうそう、そんな感じ。ほほう、可愛いお尻だ。大きくもなく、小さくもなく、綺麗なハート形をしているよ。おっぱいもそうだけど、全然垂れていないし、むしろツンと上を向いている。まさに理想の体型だよねえ。タナトスか。なるほどねえ、この身体を見れば、男も女も関係なく、みんな欲情しちゃうわねえ。おまえさんをねじふせて、滅茶苦茶にしてやりたいって、誰もが考えるはずだよねえ。あ、そうそう、ヤチカ、ちょっとこっちに来て、私を手伝っておくれ」」
 突然老婆に呼ばれ、不審顏のヤチカが傍にやってくる。
「この子の手首を持って、両手を上に持ち上げるんだ。腋の下までよく見えるようにね」
 何でもないことのように、さらりと老婆が言った。
「そ、そんな…」
 尻込みするヤチカ。
「別に虐待しようっていうんじゃない。この子がそれを望んでるんだ。なんなら、証拠を見せようか。ほら」
 その言葉と同時に、老婆の長い爪が、ブラの縁から突き出た杏里の右の乳首を強く弾いた。
「あんっ!」
 鋭い快感が脳天まで突き抜けた気がして、杏里は震え、瞬間的に大きく腰を後ろに引いた。
「どうだい? ヤチカ。おまえも、悶え狂うこの子を、もっとじっくり見たいだろう?」
 獲物を前にした蛇のように、舌なめずりする老婆。
 杏里は全身が恥辱で熱く燃えるのを感じていた。
 私って、何なのだろう…?
 行く先々でなぶりものにされ、おもちゃにされる私って…。
 答えはわかっていた。
 ラブドール。
 やっぱり私、あの子たちの、仲間なんだ…。
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