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第6部 淫蕩のナルシス
#48 鬼畜の所業
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画面の中の由羅は、真っ青な顔をしていた。
無理もない、と思う。
さっきあれほど出血していたのだ。
しかし、零は何を考えているのだろうか。
重傷を負った人間を性具で凌辱したところで、感じるわけないではないか。
と、杏里の心の中を読んだように、老婆が言った。
「快感というものはね、精神に左右されるところが大きいんだけれど、あくまでも物理的現象だ。快楽中枢を刺激されれば、嫌でも感じてしまうものなのさ。たとえ怪我をしていてもね。由羅もおそらくそうだろう。ちょっと音量を上げてみようか」
老婆の操作に合わせて、切れ切れに声が聞こえてくるようになった。
-やめろー
最初はいつもの強気な由羅の声だった。
それが、乳房と股間の三点を同時にバイブで責められているうちに、微妙に変わり始めた。
-や、やめてー
年相応の少女の声。
そこに、ハアハアという喘ぎが挟まるようになり、
-いや…ー
次第に甘い響きを帯び始めていく。
由羅…?
信じられなかった。
あの由羅が、エクスタシーを感じている?
こんな時だというのに、杏里は嫉妬に目も眩む思いだった。
私の愛撫には、ほとんど反応しない由羅が、どうして…?
「由羅はマゾヒストなんだろう?」
またしても杏里の内心を読んだかのように、老婆が言った。
「これは、ひょっとして、彼女の一番好きなシチュエーションじゃないのかい?」
杏里はいつかホテルで見た光景を思い出した。
トレーナーの冬美に拘束され、鞭で打たれて愉悦に喘ぐ由羅。
由羅はふだん、あれほど勝ち気で男勝りのくせに、ことセックスになると受け身が好きなのだ。
絶妙の指遣いと舌遣いを持ち、た易く杏里を陥落させてしまうテクニシャンであるにもかかわらず、自分が悦びを感じるのは一方的に責められている時だけなのである。
それはひどく煽情的な光景だった。
由羅は小柄だが、均整の取れた体つきをしている。
杏里に比べると筋肉が発達しているので、その身体は一流アスリートの裸体のような美しさを感じさせるのだ。
その由羅の肢体が悶え、くねっている。
真っ青だった顏に赤みが差し、半ば開いた口からは舌まで覗かせていた。
杏里は、身体の芯でぬるりとしたものが滲むのを感じ、反射的に腿をとじた。
私ったら、何感じてるの…?
このままでは、だめ。
「もう、やめてください!」
画面で由羅が腰を振り始め、自ら椅子型バイブに恥丘をこすりつけ始めるのを見て、耐え切れず杏里は叫んだ。
「由羅が生きてるなら、それでいいんです! 消してください! 私、こんなの見たくない!」
「杏里ちゃん…」
小刻みに震える杏里の肩を、ヤチカがそっと抱きしめてきた。
「好きなんだね? まだ、彼女のこと」
その口調に嫉妬の響きがこもっているような気がしたのは、杏里の気のせいだろうか。
「わかったよ」
老婆がうなずき、電源をOFFにした。
杏里はふうっと大きくため息をついた。
目の前の死んだ画面に、己の泣き腫らした顔が映っている。
「ゆら…ごめんね。私、こんなとこで油売ってる場合じゃなかったよね…。でも、待ってて。すぐ助けに行くから」
「よし。その意気だ」
老婆が笑った。
「では、そろそろ作戦を立てるとするかねえ。おまえさんのお友達を救出する作戦をさ」
無理もない、と思う。
さっきあれほど出血していたのだ。
しかし、零は何を考えているのだろうか。
重傷を負った人間を性具で凌辱したところで、感じるわけないではないか。
と、杏里の心の中を読んだように、老婆が言った。
「快感というものはね、精神に左右されるところが大きいんだけれど、あくまでも物理的現象だ。快楽中枢を刺激されれば、嫌でも感じてしまうものなのさ。たとえ怪我をしていてもね。由羅もおそらくそうだろう。ちょっと音量を上げてみようか」
老婆の操作に合わせて、切れ切れに声が聞こえてくるようになった。
-やめろー
最初はいつもの強気な由羅の声だった。
それが、乳房と股間の三点を同時にバイブで責められているうちに、微妙に変わり始めた。
-や、やめてー
年相応の少女の声。
そこに、ハアハアという喘ぎが挟まるようになり、
-いや…ー
次第に甘い響きを帯び始めていく。
由羅…?
信じられなかった。
あの由羅が、エクスタシーを感じている?
こんな時だというのに、杏里は嫉妬に目も眩む思いだった。
私の愛撫には、ほとんど反応しない由羅が、どうして…?
「由羅はマゾヒストなんだろう?」
またしても杏里の内心を読んだかのように、老婆が言った。
「これは、ひょっとして、彼女の一番好きなシチュエーションじゃないのかい?」
杏里はいつかホテルで見た光景を思い出した。
トレーナーの冬美に拘束され、鞭で打たれて愉悦に喘ぐ由羅。
由羅はふだん、あれほど勝ち気で男勝りのくせに、ことセックスになると受け身が好きなのだ。
絶妙の指遣いと舌遣いを持ち、た易く杏里を陥落させてしまうテクニシャンであるにもかかわらず、自分が悦びを感じるのは一方的に責められている時だけなのである。
それはひどく煽情的な光景だった。
由羅は小柄だが、均整の取れた体つきをしている。
杏里に比べると筋肉が発達しているので、その身体は一流アスリートの裸体のような美しさを感じさせるのだ。
その由羅の肢体が悶え、くねっている。
真っ青だった顏に赤みが差し、半ば開いた口からは舌まで覗かせていた。
杏里は、身体の芯でぬるりとしたものが滲むのを感じ、反射的に腿をとじた。
私ったら、何感じてるの…?
このままでは、だめ。
「もう、やめてください!」
画面で由羅が腰を振り始め、自ら椅子型バイブに恥丘をこすりつけ始めるのを見て、耐え切れず杏里は叫んだ。
「由羅が生きてるなら、それでいいんです! 消してください! 私、こんなの見たくない!」
「杏里ちゃん…」
小刻みに震える杏里の肩を、ヤチカがそっと抱きしめてきた。
「好きなんだね? まだ、彼女のこと」
その口調に嫉妬の響きがこもっているような気がしたのは、杏里の気のせいだろうか。
「わかったよ」
老婆がうなずき、電源をOFFにした。
杏里はふうっと大きくため息をついた。
目の前の死んだ画面に、己の泣き腫らした顔が映っている。
「ゆら…ごめんね。私、こんなとこで油売ってる場合じゃなかったよね…。でも、待ってて。すぐ助けに行くから」
「よし。その意気だ」
老婆が笑った。
「では、そろそろ作戦を立てるとするかねえ。おまえさんのお友達を救出する作戦をさ」
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