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第6部 淫蕩のナルシス
#49 作戦会議
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「どこなんです…? ふたりがいるのは」
ヤチカの問いに、老婆が答えた。
「堤英吾のお屋敷だね。この町の南、海沿いの丘の上にある。さすが地元の名士だけあって、けっこうな豪邸だよ」
「堤英吾と言えば、元参議院議員の、あの堤ですか?」
「ああ。市議から国会議員に乗り換えて、当選3回。目立つ男ではなかったけど、それなりに政界とのパイプは太かったようだ」
杏里にとって、ふたりのやりとりはひどく非現実的なものだった。
元国会議員?
杏里たち中学生にとり、政治家というのは、いわば最も縁遠い存在である。
でも、どうしてそんな人の家に、零がいるのだろう?
「あの零という少女が、堤の家に住みついたのは、昨年遅れぐらいだったと思う。見慣れぬ娘がカメラに映るようになったから、初めは孫でも引き取って一緒に暮らし始めたのかと思ったんだが、どうも様子がおかしくてね」
「と、いいますと?」
「ところ構わず、セックスするんだよ。70過ぎた老人と、10代の娘がね。堤の屋敷は古いから、家じゅうにうちの人形が飾ってある。そのカメラに、エロサイト顔負けのなかなかすごい映像が何度も映ってね、ははあ、これは、愛人を囲い込んだんだなと思ってたところなのさ」
「零が…政治家の、愛人?」
杏里は目を瞬かせた。
にわかには信じられないが、なるほど、隠れ蓑としては強力な後ろ盾である。
あの時。
断頭台で首を斬られた零の死体が消えたのも、ひょっとしたらその政治家の仕業かもしれない。
しかし、その政治家、零が外来種だということを知っているのだろうか?
自分がどれほど危険な存在をかくまっているのか、わかっているのだろうか。
「堤はずっと前に妻をなくし、独り暮らしを続けている。零は、己の身体を餌に、孤独な独居老人を釣ったというわけだろうね」
「でも、堤英吾って、70歳過ぎてるんですよね? そんなお年寄りに、性欲なんて…」
ヤチカの何気ないひと言に、老婆が太い眉を吊り上げた。
「老人を馬鹿にするでないよ。70代なんてまだ現役さ。私はもうすぐ80になるが、これでも時々欲情することがある。現にさっきはこの杏里の身体で燃えたよ。杏里相手なら、毎晩でもOKって感じだね」
「やだ、おばあさんったら…」
杏里は顔を赤らめ、スカートの裾をまた強く引っ張った。
老婆の言葉に、下着を穿いていないことを、強く意識させられたからだった。
「そうでしたね…。失礼しました」
杏里のほうをちらりと横目で見て、苦笑するヤチカ。
「とにかく、由羅はそこに監禁されてるってことですよね」
急いで話題を変えるべく、せき込むように杏里はたずねた。
「私、行ってみます。正面切って訪問してもどうせ追い返されるでしょうから、なんとかそのお屋敷に忍び込んでみます」
「まあ、堤としても、愛人の存在は秘密にしたいだろうからね。おいそれとは、中に入れてはくれないだろう。だけど、杏里、おまえさんひとりじゃ無理だよ。引退したとはいえ、堤は元国会議員。この街の重鎮でもある。だから屋敷にはボディガードもいるし、番犬もいる。どうみても運動に縁のなさそうなおまえさんに、何ができるというんだい? しかも、零はあの通りの狂人ときているじゃないか」
「でも…」
杏里は唇を噛んだ。
老婆に指摘されるまでもなく、杏里はおよそスポーツには向いていない。
胸が大きすぎて走るのも遅いし、機敏さのかけらもないからだ。
「大丈夫です、私も手伝いますから」
励ますように杏里の肩をそっと抱いて、ヤチカが言った。
「零は私がなんとかします。同じ外来種同士、私に考えが」
「ヤチカさん…」
杏里は涙の滲む目で、ヤチカを見上げた。
心強い言葉ではあった。
だが、杏里としては複雑な思いだった。
ヤチカはおそらく”男”として、零と対峙しようとしているのだ。
とても無事に済むとは思えない。
「問題は、どうやって侵入するかですよね。堤邸の警護体制、詳しく教えていただけませんか」
ヤチカが言った。
「かまわないけど、もう少し味方がほしいところだねえ。いくらなんでも、女ふたりというのはねえ…。おお、そうだ。犬がいるなら、正一を連れていくがいい」
と、老婆が顔を輝かせた。
「正一、さん?」
杏里は、さきほど”耽美の間”で出会った不思議な青年を思い出した。
あの人と、犬?
いったい、どういう関係があるというのだろう?
ヤチカの問いに、老婆が答えた。
「堤英吾のお屋敷だね。この町の南、海沿いの丘の上にある。さすが地元の名士だけあって、けっこうな豪邸だよ」
「堤英吾と言えば、元参議院議員の、あの堤ですか?」
「ああ。市議から国会議員に乗り換えて、当選3回。目立つ男ではなかったけど、それなりに政界とのパイプは太かったようだ」
杏里にとって、ふたりのやりとりはひどく非現実的なものだった。
元国会議員?
杏里たち中学生にとり、政治家というのは、いわば最も縁遠い存在である。
でも、どうしてそんな人の家に、零がいるのだろう?
「あの零という少女が、堤の家に住みついたのは、昨年遅れぐらいだったと思う。見慣れぬ娘がカメラに映るようになったから、初めは孫でも引き取って一緒に暮らし始めたのかと思ったんだが、どうも様子がおかしくてね」
「と、いいますと?」
「ところ構わず、セックスするんだよ。70過ぎた老人と、10代の娘がね。堤の屋敷は古いから、家じゅうにうちの人形が飾ってある。そのカメラに、エロサイト顔負けのなかなかすごい映像が何度も映ってね、ははあ、これは、愛人を囲い込んだんだなと思ってたところなのさ」
「零が…政治家の、愛人?」
杏里は目を瞬かせた。
にわかには信じられないが、なるほど、隠れ蓑としては強力な後ろ盾である。
あの時。
断頭台で首を斬られた零の死体が消えたのも、ひょっとしたらその政治家の仕業かもしれない。
しかし、その政治家、零が外来種だということを知っているのだろうか?
自分がどれほど危険な存在をかくまっているのか、わかっているのだろうか。
「堤はずっと前に妻をなくし、独り暮らしを続けている。零は、己の身体を餌に、孤独な独居老人を釣ったというわけだろうね」
「でも、堤英吾って、70歳過ぎてるんですよね? そんなお年寄りに、性欲なんて…」
ヤチカの何気ないひと言に、老婆が太い眉を吊り上げた。
「老人を馬鹿にするでないよ。70代なんてまだ現役さ。私はもうすぐ80になるが、これでも時々欲情することがある。現にさっきはこの杏里の身体で燃えたよ。杏里相手なら、毎晩でもOKって感じだね」
「やだ、おばあさんったら…」
杏里は顔を赤らめ、スカートの裾をまた強く引っ張った。
老婆の言葉に、下着を穿いていないことを、強く意識させられたからだった。
「そうでしたね…。失礼しました」
杏里のほうをちらりと横目で見て、苦笑するヤチカ。
「とにかく、由羅はそこに監禁されてるってことですよね」
急いで話題を変えるべく、せき込むように杏里はたずねた。
「私、行ってみます。正面切って訪問してもどうせ追い返されるでしょうから、なんとかそのお屋敷に忍び込んでみます」
「まあ、堤としても、愛人の存在は秘密にしたいだろうからね。おいそれとは、中に入れてはくれないだろう。だけど、杏里、おまえさんひとりじゃ無理だよ。引退したとはいえ、堤は元国会議員。この街の重鎮でもある。だから屋敷にはボディガードもいるし、番犬もいる。どうみても運動に縁のなさそうなおまえさんに、何ができるというんだい? しかも、零はあの通りの狂人ときているじゃないか」
「でも…」
杏里は唇を噛んだ。
老婆に指摘されるまでもなく、杏里はおよそスポーツには向いていない。
胸が大きすぎて走るのも遅いし、機敏さのかけらもないからだ。
「大丈夫です、私も手伝いますから」
励ますように杏里の肩をそっと抱いて、ヤチカが言った。
「零は私がなんとかします。同じ外来種同士、私に考えが」
「ヤチカさん…」
杏里は涙の滲む目で、ヤチカを見上げた。
心強い言葉ではあった。
だが、杏里としては複雑な思いだった。
ヤチカはおそらく”男”として、零と対峙しようとしているのだ。
とても無事に済むとは思えない。
「問題は、どうやって侵入するかですよね。堤邸の警護体制、詳しく教えていただけませんか」
ヤチカが言った。
「かまわないけど、もう少し味方がほしいところだねえ。いくらなんでも、女ふたりというのはねえ…。おお、そうだ。犬がいるなら、正一を連れていくがいい」
と、老婆が顔を輝かせた。
「正一、さん?」
杏里は、さきほど”耽美の間”で出会った不思議な青年を思い出した。
あの人と、犬?
いったい、どういう関係があるというのだろう?
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