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第6部 淫蕩のナルシス
#52 顔合わせ
「へーえ、君がサイキックの重人君か」
黒ぶち眼鏡で坊ちゃん刈りの重人を珍しそうに眺めながら、ヤチカが言った。
杏里と重人は屋敷の1階の客間で、テーブルをはさんでヤチカと向かい合っていた。
ヤチカの背後には、護衛のように作務衣姿の正一が立っている。
「そういうあんたが、残虐画の天才、七尾ヤチカ画伯だね。絵の趣味は悪いけど、本人が美人で驚いたよ」
子供みたいな童顔のくせに、大人のヤチカ相手に重人は如才なくそんなことを言った。
「私の絵、知ってるの?」
「うん。さっき杏里の記憶のぞいた時、見えたから。あ、これ、今個展やってるやつじゃんって、すぐピンときたよ。そういえば、本屋に貼ってあったポスターの絵も、杏里にそっくりだって、思い出した」
「へーえ、君、本当に他人の意識が読めるんだ」
「うん。直接対象に触らないとだめだけどね」
重人の隣で、杏里はついさっき、重人がさりげなく手を握ってきたことを思い出した。
あれがそうだったのだ、と思う。
ということは、触れられなければ心を読まれないで済む、というわけだ。
「それより、うちの杏里をかわいがってくれてありがとう。あなたのおかげで、杏里のタナトス度が、更に倍増したって気がするよ」
「タナトス度、って?」
「スケベさの度合いっていうか、まあ、単にエロさが増したってことだけど」
「ちょっと」
杏里は重人の脇腹をつねった。
「あんた、初対面のヤチカさんの前で、何言い出すのよ」
「面白い子ね」
くすっとヤチカが笑う。
「でも、杏里ちゃんの意識を読んだのなら、当然私の正体も知ってるわよね」
「世にも珍しい、両性具有の外来種。でも、そのせいで外来種本来の超常的な身体能力や、人間離れした狂暴性とは無縁。僕がかつて遭遇した外来種は、タナトスの女の子を殺して脳を食べるほどひどいやつだったけど、あなたはどうもそうではないらしい」
「なにそれ? タナトスを殺すって、どういうこと? 杏里ちゃんたちタナトスは、不死身なんでしょう?」
信じられないといったふうに、目を見張るヤチカ。
「タナトスにも弱点はある。脳だよ。杏里も脳をやられれば死ぬ。まあ、彼女の場合は、あんまり頭使って生きてないから、ひょっとしたら平気かもしれないけど」
「平気じゃないわよ。人を馬鹿みたいに言わないでよ」
杏里は重人を肘で小突いた。
もう、この子ったら、放っておくと、何を言い出すかわからない。
「え? だって杏里は由羅とは別の意味で肉体派だろう? 頭なんか使ったことないじゃないか」
「うるさいわね。そんなことよりさ、明日の段取り、早く決めようよ。あんたのおしゃべり聞いてると、朝になっちゃうよ」
「そうだね」
ヤチカがうなずいた。
「堤英吾のお屋敷については、さっきネットで場所から周りの様子まで、一応調べておいたわ。いろいろ準備があるから、決行はあすの夕方にしようと思うの」
「準備って? 僕は警備員をひとり眠らせればいいだけなんだろ? 準備なんていらないけど」
「準備は、杏里ちゃんと私に必要なの。まず、私は”男”にならなきゃいけない。それにはかなり、性的に興奮する必要がある。それができるのは杏里ちゃんだけ。あ、もしかしたら、正一にも手伝ってもらうかも。だから悪いけど、あすの午前中いっぱいは、私、杏里ちゃんを抱かせてもらうわ。そのあと、ショッピングセンターで杏里ちゃんのおめかし用の服と下着を買いそろえる。この前はアイドル路線で決めてみたけど、今度は思い切りビッチで行こうと思うの」
ヤチカはなんだか楽しそうだ。
「抱くだのビッチだの、穏やかじゃないね。ま、杏里は今のままで十分ビッチな女だと思うけど」
呆れたように重人が言った。
外見通り、重人は性的なことにまるで関心がない。
杏里に性欲を覚えない、数少ない異性のうちのひとりなのだ。
「でも、問題は中に潜入した後じゃないかな。零に見つかったらどうするか。それを考えておかなきゃね」
「零の目的がこの私なら、私が彼女の注意を引きつける。その間に、3人で由羅を助けて」
思い切って、杏里は言った。
由羅は囮だ。
老婆にそう告げられてから、ずっと考えていたことだった。
「ううん、杏里ちゃんひとりでは行かせない。私とふたりで、例の動きを封じましょ」
そうだった。
ヤチカは零との性交を望んでいるのだ。
メスの同類である零を、孕ませるつもりなのである。
「そうと決まったら、もう寝ていいかな」
重人があくびをした。
「僕は午後10時には寝ることにしてるんでね」
「ほんと、重人って、おこちゃまなんだから」
憮然とする杏里に、その重人が言った。
「杏里が不健康すぎるんだよ。君の頭に中は90%、セックスでいっぱいだもんな」
「…」
杏里は絶句した。
そして無言で立ち上がると、やおら重人の肩に手をかけ、その顔に自分の胸をぎゅっと押しつけた。
「おまえなんか、私のおっぱいで、窒息してしまえ!」
黒ぶち眼鏡で坊ちゃん刈りの重人を珍しそうに眺めながら、ヤチカが言った。
杏里と重人は屋敷の1階の客間で、テーブルをはさんでヤチカと向かい合っていた。
ヤチカの背後には、護衛のように作務衣姿の正一が立っている。
「そういうあんたが、残虐画の天才、七尾ヤチカ画伯だね。絵の趣味は悪いけど、本人が美人で驚いたよ」
子供みたいな童顔のくせに、大人のヤチカ相手に重人は如才なくそんなことを言った。
「私の絵、知ってるの?」
「うん。さっき杏里の記憶のぞいた時、見えたから。あ、これ、今個展やってるやつじゃんって、すぐピンときたよ。そういえば、本屋に貼ってあったポスターの絵も、杏里にそっくりだって、思い出した」
「へーえ、君、本当に他人の意識が読めるんだ」
「うん。直接対象に触らないとだめだけどね」
重人の隣で、杏里はついさっき、重人がさりげなく手を握ってきたことを思い出した。
あれがそうだったのだ、と思う。
ということは、触れられなければ心を読まれないで済む、というわけだ。
「それより、うちの杏里をかわいがってくれてありがとう。あなたのおかげで、杏里のタナトス度が、更に倍増したって気がするよ」
「タナトス度、って?」
「スケベさの度合いっていうか、まあ、単にエロさが増したってことだけど」
「ちょっと」
杏里は重人の脇腹をつねった。
「あんた、初対面のヤチカさんの前で、何言い出すのよ」
「面白い子ね」
くすっとヤチカが笑う。
「でも、杏里ちゃんの意識を読んだのなら、当然私の正体も知ってるわよね」
「世にも珍しい、両性具有の外来種。でも、そのせいで外来種本来の超常的な身体能力や、人間離れした狂暴性とは無縁。僕がかつて遭遇した外来種は、タナトスの女の子を殺して脳を食べるほどひどいやつだったけど、あなたはどうもそうではないらしい」
「なにそれ? タナトスを殺すって、どういうこと? 杏里ちゃんたちタナトスは、不死身なんでしょう?」
信じられないといったふうに、目を見張るヤチカ。
「タナトスにも弱点はある。脳だよ。杏里も脳をやられれば死ぬ。まあ、彼女の場合は、あんまり頭使って生きてないから、ひょっとしたら平気かもしれないけど」
「平気じゃないわよ。人を馬鹿みたいに言わないでよ」
杏里は重人を肘で小突いた。
もう、この子ったら、放っておくと、何を言い出すかわからない。
「え? だって杏里は由羅とは別の意味で肉体派だろう? 頭なんか使ったことないじゃないか」
「うるさいわね。そんなことよりさ、明日の段取り、早く決めようよ。あんたのおしゃべり聞いてると、朝になっちゃうよ」
「そうだね」
ヤチカがうなずいた。
「堤英吾のお屋敷については、さっきネットで場所から周りの様子まで、一応調べておいたわ。いろいろ準備があるから、決行はあすの夕方にしようと思うの」
「準備って? 僕は警備員をひとり眠らせればいいだけなんだろ? 準備なんていらないけど」
「準備は、杏里ちゃんと私に必要なの。まず、私は”男”にならなきゃいけない。それにはかなり、性的に興奮する必要がある。それができるのは杏里ちゃんだけ。あ、もしかしたら、正一にも手伝ってもらうかも。だから悪いけど、あすの午前中いっぱいは、私、杏里ちゃんを抱かせてもらうわ。そのあと、ショッピングセンターで杏里ちゃんのおめかし用の服と下着を買いそろえる。この前はアイドル路線で決めてみたけど、今度は思い切りビッチで行こうと思うの」
ヤチカはなんだか楽しそうだ。
「抱くだのビッチだの、穏やかじゃないね。ま、杏里は今のままで十分ビッチな女だと思うけど」
呆れたように重人が言った。
外見通り、重人は性的なことにまるで関心がない。
杏里に性欲を覚えない、数少ない異性のうちのひとりなのだ。
「でも、問題は中に潜入した後じゃないかな。零に見つかったらどうするか。それを考えておかなきゃね」
「零の目的がこの私なら、私が彼女の注意を引きつける。その間に、3人で由羅を助けて」
思い切って、杏里は言った。
由羅は囮だ。
老婆にそう告げられてから、ずっと考えていたことだった。
「ううん、杏里ちゃんひとりでは行かせない。私とふたりで、例の動きを封じましょ」
そうだった。
ヤチカは零との性交を望んでいるのだ。
メスの同類である零を、孕ませるつもりなのである。
「そうと決まったら、もう寝ていいかな」
重人があくびをした。
「僕は午後10時には寝ることにしてるんでね」
「ほんと、重人って、おこちゃまなんだから」
憮然とする杏里に、その重人が言った。
「杏里が不健康すぎるんだよ。君の頭に中は90%、セックスでいっぱいだもんな」
「…」
杏里は絶句した。
そして無言で立ち上がると、やおら重人の肩に手をかけ、その顔に自分の胸をぎゅっと押しつけた。
「おまえなんか、私のおっぱいで、窒息してしまえ!」
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