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第6部 淫蕩のナルシス

#69 殺人プレイ

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 ヤチカが突く。
 零がうめく。
 髪を振り乱し、細い首をのけぞらせて、喘ぐ。
 一度経験したことのある杏里は知っている。
 外来種の性器は凶器に等しい。
 勃起すると子宮壁を突き破り、体腔を貫いて、喉から飛び出るほど長く、鋭くなる。
 おそらく零の体内では、今頃ヤチカのペニスが撃ち込まれた銛のように成長し続けているのだろう。
 よく見ると、乱れたスカートの裾から覗く太腿に、滝のように血がしたたっていた。
「どうだい? 同類のペニスの味は?」
 勝ち誇ったヤチカのひと突きに、零のしなやかな身体が泳ぐようにつんのめる。
 鉄棒で身体を支えようとして、失敗した。
 由羅同様、筋肉と骨の密度が桁違いに高いのか、スレンダーな身体からは想像もつかないほど零は重いようだ、
 零が片手をかけただけで鉄棒が傾き、支柱ごと轟音とともにひっくり返った。
 長い鉄の棒が支柱からはずれ、ごろごろと床を転がっていき、倒れた本棚にぶつかって止まった。
 支えを失った零は、四つん這いになって尻を高く上げた姿勢で、ヤチカの責めを受け続けている。
 まくれ上がったスカートからむき出しになったその白い尻に足をかけ、ヤチカがペニスを抜きにかかった。
「うぐっ」
 苦痛に零がうめく、
 逆棘で体内に固定されたペニスを引き抜かれるのは、地獄の苦しみに違いなかった。
 棘の突き刺さった内臓までもが、ペニスと一緒に引き出されかねないのである。
 身体が裏返しになるような劇烈な苦痛が零を襲っているだろうことは、想像に難くない。
 案の定、引き抜かれて姿を現した棘だらけのヤチカのペニスには、鮮血とおびただしい肉片がこびりついていた。
 床に頭から突っ込んだ零が、のろのろと身を起こす。
 股を広げ、尻もちをついた姿勢で、ヤチカを見上げた。
 Mの字に開脚しているせいで、テントのように張ったスカートの下から、下着をつけていない陰部が覗いている。
 が、そこは細部の様子もわからぬほど血にまみれ、真っ赤に染まっていた。
「さあ、お次は口でしてもらおうか」
 勃起したままのペニスをささげ持ち、ヤチカが迫っていく。
 どうやらヤチカは零を殺すことに決めたようだった。
 メス外来種との性交で、あわよくば子孫を増やす。
 それがヤチカの当初の希望だったはずだが、目に余る零の残虐性に触れ、気が変わったのかもしれなかった。
 あのペニスを口に突っ込んだら、零の喉は破れ、錨のような亀頭が頭蓋を貫通するに違いない。
 杏里と同じ身体構造を持つ零の弱点は、やはり脳である。
 以前、断頭台で由羅に斬首された時は、頭だけは無事だったから、蘇生することができたのだ。
 だが、あの異形のペニスで脳を破壊されてしまえば、そうはいかないはずだった。
 ヤチカが零の髪をつかんだ。
「口を開けな」
 顔をあお向かせて、低く押し殺した声でいった。
 が。
 ヤチカは相手を少々みくびりすぎていたようだ。
 だしぬけに零が動いた。
 悲鳴を上げたのは、ヤチカのほうだった。
「馬鹿にするな」
 ヤチカのペニスを握りしめて、零が立ち上がった。
「誰に向かって、物を言っている」
 零が右手首をひねる。
 ヤチカの長いペニスが、その細い手首に蛇みたいに巻きついている。
「無礼者は、死ぬがいい」
 零の右腕が一旋した。
 肉の引きちぎれる嫌な音。
 ヤチカが股間を押さえて吹っ飛んだ。
 背中を壁に叩きつけ、ずるずると床に座り込む。
「こんなもの!」
 零が引きちぎったヤチカのペニスを床に叩きつけた。
 さも汚らわしげに、スニーカーの靴底で踏みにじる。
 押さえた手の間から鮮血を噴き出し、うずくまるヤチカ。
 そこに零が大股に近づいていく。
 いけない!
 杏里は飛び起きた。
 胸から腹にかけての傷口は、やっと表皮が結合しかけた状態だ。
 脂肪層や毛細血管などはぐちゃぐちゃのままだが、この際そうもいってはいられない。
 怒り狂った零は、おそらく蟻をひねりつぶすようにヤチカを殺すだろう。
 それだけは、なんとしてでも避けたかった。
 由羅がどうなったのかも気になるが、とりあえず今は、目の前のヤチカを救うのが先決だ。
「待って」
 胸を押さえてよろめき出ると、零の背中に向かって呼びかけた。
「まだ終わってないでしょ? 私をいつまで放置しておくつもり? 私の心臓を、たっぷり可愛がってくれるんじゃなかったの?」
 その声に、上体を回すようにして、ゆっくりと零が振り向いた。
「ずいぶんとまた、威勢がいいじゃない」
 ふふっと鼻で笑い、赤い熾火のような目で杏里を見つめてくる。
「じゃ、そこに座って。お人形さんみたいに、こっちに足を投げ出して」
「こう…?」
 裸の尻を床につけ、言われた通りの格好をする。
 その足首を両手でつかみと、零が杏里の身体を、いとも簡単に逆さまに吊り上げた。
 零は小柄な杏里より、かなり背が高い。
 杏里に逆立ちの姿勢を取らせると、手を脛のあたりに持ち替え、じわじわと足を左右に開きにかかる。
「こ、今度は、何?」
 恐怖に駆られ、思わず杏里はそうたずねた。
 零の唇が、三日月形に吊り上がる。
「心臓もいいけど、どうせなら、悪さができないように、体を真っ二つに引き裂いてあげる」
 面白そうに言った。
 それが、零の答えだった。
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