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第7部 蹂躙のヤヌス
#14 始業式の風景
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廊下の端の出入り口から一旦外に出、屋根付きの短い渡り廊下を渡ると、そこが体育館だった。
屋根が蒲鉾型をした、壁がベージュ色の建物である。
両開きの扉は開いたままだった。
靴箱で靴を脱ぎ、靴下だけになると、杏里は美里に続いて一歩中に足を踏み入れた。
吹き抜けの広い空間に整然と並んだ生徒たちの列。
その数は、ざっと見渡しただけでも300人は超えていそうだ。
ステージの下には、20人ほどの教師たちが、こちらもお行儀よく横並びに並んでいる。
「ここが、2-E。転校生は、最前列よ」
生徒の列に大股に近づいていきながら、美里が言った。
その声に、生徒たちが一斉に振り返る。
視線の先は、美里だった。
学年に関係なく、全員が美里を注視しているようなのだ。
杏里は、またぞろ先ほど覚えた違和感が頭をもたげるのを感じていた。
どうして誰も、私を見てくれないの?
張り切って、ここまでセクシーに装ってきたのに。
苦い思いがこみ上げてくる。
歩くだけで下着が見えるように、股下ギリギリの丈に加工したマイクロミニ。
スカートの下にはスパッツなどではなく、極小サイズの白のパンティを穿いている。
ブラも、白いブラウスから透けて見えるように、わざと濃いピンクのものを選んできた。
形もかろうじて乳首を隠すだけのハーフカップである。
パンティもブラも、わざわざもっくんのアダルトショップまで行って購入してきた、自慢の一品である。
ブラウスは、第2ボタンまではずしてあるので、その間から盛り上がった胸の谷間が丸見えだ。
その効果はすでにバスの中では実証済みなのに、ここでは誰ひとりとして杏里のほうを見ようとしないのだ。
杏里は足元が揺らぐような感覚に襲われていた。
タナトスがこれではいけない。
性的魅力で周囲を魅了できなければ、それはすでにタナトスではない…。
負けている。
その思いが強かった。
全校生徒と教師たちの関心を一手に引き受けているのは、セクシーな衣装に身を包んだ杏里ではなく、露出度のきわめて少ない地味なスーツ姿の美里のほうなのである。
その証拠に、生徒たちの間を美里が歩くと、四方から手が伸びてきた。
美里の身体に触ろうとして、周囲の生徒たちが手を伸ばしているのだった。
尻や腰、胸をしきりに触られながらも、美里は平然と歩を進めていく。
しかも、美里に触れようとする生徒は男子とは限らない。
頬を紅潮させ、熱に浮かされたような顔で、女生徒たちすらもがめいめい手を伸ばして、しきりに美里の尻を撫でさする。
恐るべき影響力だった。
杏里のフェロモンがかき消されてしまうような、濃厚な何かを美里は全身から発散しているようなのだ。
杏里は完全に気分を害していた。
誰も私には触ろうとしない。
こんなことが、今まであっただろうか?
どの学校でも、どんな乗り物の中でも、いつも私が周りの関心を独占していたものなのに…。
「ここよ」
最前列まで行くと、美里が振り向いた。
ぎこちなく礼を返して、杏里は背の低い男子生徒の前に並んだ。
尻を振りながら、美里が教師たちの列の中に入っていく。
露出こそ極端に少ないものの、豊満な肉体にスーツとスカートがぴったりフィットしていて、起伏の豊かなラインを逆に強調している。
「全員そろったかな」
ステージの上にいた教頭が、美里にたずねた。
「あとひとり、3年の男子が外に居ましたが、無視してかまわないかと思います」
事務的な口調で美里が答えた。
男子というのは、靴箱のところで性器を美里に蹂躙され、床におびただしい精液をぶちまけたあのイケメン少年のことだろう。
「本日は、校長先生が会議で出張のため…」
マイクに向かい、ぼそぼそと教頭が話し始めた。
まだ始まったばかりなのに顔じゅうに汗の粒を光らせ、しきりにハンカチで禿げ上がった額を拭っている。
長くなりそうだ。
うんざりしてこっそりため息をついた時、杏里は強い視線を感じて反射的に顔を上げた。
美里がじっとこちらを見つめていた。
その眼鏡の奥の表情のない目を、杏里はキッと睨み返した。
そして、思った。
私、負けないから。
あんたみたいなおばさんに、この私が負けるはず、ないんだから。
屋根が蒲鉾型をした、壁がベージュ色の建物である。
両開きの扉は開いたままだった。
靴箱で靴を脱ぎ、靴下だけになると、杏里は美里に続いて一歩中に足を踏み入れた。
吹き抜けの広い空間に整然と並んだ生徒たちの列。
その数は、ざっと見渡しただけでも300人は超えていそうだ。
ステージの下には、20人ほどの教師たちが、こちらもお行儀よく横並びに並んでいる。
「ここが、2-E。転校生は、最前列よ」
生徒の列に大股に近づいていきながら、美里が言った。
その声に、生徒たちが一斉に振り返る。
視線の先は、美里だった。
学年に関係なく、全員が美里を注視しているようなのだ。
杏里は、またぞろ先ほど覚えた違和感が頭をもたげるのを感じていた。
どうして誰も、私を見てくれないの?
張り切って、ここまでセクシーに装ってきたのに。
苦い思いがこみ上げてくる。
歩くだけで下着が見えるように、股下ギリギリの丈に加工したマイクロミニ。
スカートの下にはスパッツなどではなく、極小サイズの白のパンティを穿いている。
ブラも、白いブラウスから透けて見えるように、わざと濃いピンクのものを選んできた。
形もかろうじて乳首を隠すだけのハーフカップである。
パンティもブラも、わざわざもっくんのアダルトショップまで行って購入してきた、自慢の一品である。
ブラウスは、第2ボタンまではずしてあるので、その間から盛り上がった胸の谷間が丸見えだ。
その効果はすでにバスの中では実証済みなのに、ここでは誰ひとりとして杏里のほうを見ようとしないのだ。
杏里は足元が揺らぐような感覚に襲われていた。
タナトスがこれではいけない。
性的魅力で周囲を魅了できなければ、それはすでにタナトスではない…。
負けている。
その思いが強かった。
全校生徒と教師たちの関心を一手に引き受けているのは、セクシーな衣装に身を包んだ杏里ではなく、露出度のきわめて少ない地味なスーツ姿の美里のほうなのである。
その証拠に、生徒たちの間を美里が歩くと、四方から手が伸びてきた。
美里の身体に触ろうとして、周囲の生徒たちが手を伸ばしているのだった。
尻や腰、胸をしきりに触られながらも、美里は平然と歩を進めていく。
しかも、美里に触れようとする生徒は男子とは限らない。
頬を紅潮させ、熱に浮かされたような顔で、女生徒たちすらもがめいめい手を伸ばして、しきりに美里の尻を撫でさする。
恐るべき影響力だった。
杏里のフェロモンがかき消されてしまうような、濃厚な何かを美里は全身から発散しているようなのだ。
杏里は完全に気分を害していた。
誰も私には触ろうとしない。
こんなことが、今まであっただろうか?
どの学校でも、どんな乗り物の中でも、いつも私が周りの関心を独占していたものなのに…。
「ここよ」
最前列まで行くと、美里が振り向いた。
ぎこちなく礼を返して、杏里は背の低い男子生徒の前に並んだ。
尻を振りながら、美里が教師たちの列の中に入っていく。
露出こそ極端に少ないものの、豊満な肉体にスーツとスカートがぴったりフィットしていて、起伏の豊かなラインを逆に強調している。
「全員そろったかな」
ステージの上にいた教頭が、美里にたずねた。
「あとひとり、3年の男子が外に居ましたが、無視してかまわないかと思います」
事務的な口調で美里が答えた。
男子というのは、靴箱のところで性器を美里に蹂躙され、床におびただしい精液をぶちまけたあのイケメン少年のことだろう。
「本日は、校長先生が会議で出張のため…」
マイクに向かい、ぼそぼそと教頭が話し始めた。
まだ始まったばかりなのに顔じゅうに汗の粒を光らせ、しきりにハンカチで禿げ上がった額を拭っている。
長くなりそうだ。
うんざりしてこっそりため息をついた時、杏里は強い視線を感じて反射的に顔を上げた。
美里がじっとこちらを見つめていた。
その眼鏡の奥の表情のない目を、杏里はキッと睨み返した。
そして、思った。
私、負けないから。
あんたみたいなおばさんに、この私が負けるはず、ないんだから。
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