激甚のタナトス ~世界でおまえが生きる意味について~【官能編】

戸影絵麻

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第7部 蹂躙のヤヌス

#15 縛られた教室

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 始業式の後は、各教室に戻ってのホームルームだった。
 美里に連れられ、最後に教室に入った。
 が、杏里を待っていたのは、ここでもただ無関心な視線だけだった。
「転校生を紹介します。潮見が丘中学から来た、笹原杏里さん。みんな、よろしくね」
 黒板に名前を書き、美里がそう紹介しても、生徒たちの目は杏里の上をおざなりに素通りしただけだった。
 全員がひたと担任の美里を凝視しているのである。
「山田さんの隣が空いてるわね。じゃ、笹原さんはそこに座って」
 美里に促され、窓際の最後列に向かう。
 が、誰も杏里のほうを見ようとはしない。
 隣の山田と呼ばれた女生徒すら、そうだった。
 杏里が腰を下ろしても、会釈ひとつしようとしないのだ。
 なぜか食い入るように美里を見つめているのである。
 なに? この雰囲気。
 屈辱感に歯噛みする思いで、杏里は思った。
 普通なら、この子たちは、すでにタナトスである美里の”浄化”の洗礼を受けているはずである。 ならば、今頃は全員ストレスをすべて吸収されて平静な状態に戻っていてもいいはずなのに、妙にぴりぴりしているのだ。
「では、出席を取ります」
 美里が名前を呼び上げていく間も、生徒たちは落ち着かない。
 といっても、私語を交わしたり、騒いだりするわけではない。
 何かを待ち受けているかのように、貧乏ゆすりをしたり、呼吸を荒げたり、誰もがひどく興奮しているように見える。
 美里が出席を取り終えた時だった。
 杏里の隣の女生徒がふいに挙手をして、よく通る声で言った。
「美里先生、2学期も、2者面談、やっていただけるんですよね?」
 美里がゆっくりと発言者のほうに顔を向けた。
「面談は予定してるけど、あなたたちはもう、グループ面談でいいんじゃないかしら。2者は、1学期に何度もやってるでしょう?」
「そんな…困ります」
 女生徒が叫ぶように言い返す。
「夏休みの間、私たち、先生に会えなくて、どんなにつらかったことか…。それをグループ面談なんかでお茶を濁されたんじゃ、待ってた甲斐がありません!」
 そうだそうだ!
 男子生徒たちの間から次々に同調の声が上がった。
「お願いです! 1対1の2者にしてください!」
「私も!」
「うちも!」
 女生徒たちも騒ぎ出す。
 その光景に、杏里は茫然となった。
 丸尾美里は、見たところ。とても生徒に人気のありそうなタイプの教師ではない。
 美人と言えば美人だが、年も若くないし、地味すぎる。
 何より印象が暗くて、どこか投げやりなのだ。
 ほとんどつっけんどんと言ってもいいくらいだ。
 なのに、なんだろう?
 この人気絶頂ぶりは。
「しょうがないわね」
 面倒くさそうにため息をつく美里。
「あなたたちがそこまでいうのなら、明日から早速2者面談を始めることにするわ。場所はいつものように音楽室。授業後、時間差で3人ずつでどうかしら」
「わあ!」
「ありがとうございます!」
 生徒たちが歓声を上げた。
「五十音順と言いたいところだけど、今回は特別に、転校生の笹原さんからにします。明日は笹原さんひとり。みんなは明後日から、五十音順にひとり20分で」
「えー、たったの20分?」
「転校生だけ、特別扱い?」
「あの子、先生のタイプだから?」
「ちょっとかわいいからって、ひいきじゃないの?」
 教室中の視線が、初めて杏里に集まった。
 みんな、憎々しげに杏里をにらみつけている。
 ちょっと、これ、どういうことなのよ?
 杏里は憤然と30人の敵を睨み返した。
 私が何やったっていうの?
 なんで全員ににらまれなきゃなんないわけ?
「文句を言う人は、グループ面談に切り替えます。あるいは2学期は面談なしってことでもいい」
 美里の冷たい口調に、教室中が水を打ったように静まり返った。
 それにしても、と杏里は思う。
 面談って、なんだろう?
 どうしてこの子たち、そんなに2者面談とやらにこだわるの?
 わけがわからない。
 その第一号が、この私?
 あの女、いったい何を企んでるの?
 が、杏里が真に仰天したのは、次の美里の台詞だった。
 生徒たちを見回すと、淡々とした口調で、美里はとんでもないことを言い始めたのだ。
「あ、それからもうひとつ。当たり前のことだけど、2学期は、私の授業中にオナニーをしないこと。もし見つけたら、面談は取りやめ、通知表も下げるから。わかったわね?」

 
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