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第7部 蹂躙のヤヌス

#49 凌辱団地①

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「い、いやです」
 杏里はかぶりを振った。
 腰に大理石の洗面台の端が当たっていて、もうこれ以上後ろに下がれない。
 緊張と恐怖で、尿意が限界に達しようとしているのがわかった。
 太腿をすぼめて内股になり、懸命に下腹に力を入れる。
「だって、ナイフや危ない薬、持ってるかも知れないだろ? あたしゃただの掃除婦だけどね、管理会社から、一応この団地の監視役も任されてるのさ。少しでも怪しい出来事があったら、逐一報告するようにってね」
 女が言った。
 白髪の混じったざんばら髪を後ろにひっつめたそのやつれた顔は、人相の悪い髑髏のようだった。
 半開きの薄い唇の間からのぞく乱杭歯が、余計にその印象を強めている。
 年の頃は40代から50代。
 やせすぎているので、作業服がぶかぶかに見える。
「だから、怪しい者じゃありません。私は本当にトイレを借りに、ちょっと寄ってみただけなんです」
 膀胱のあたりを手のひらで押さえながら、懸命に杏里は言った。
 モップの柄で突かれた鈍い痛みが、まだ下腹に残っていた。
 今度同じことをされたら、私、もう…。
 そう考えると、目の前が暗くなる。
「じゃあ、証拠を見せなさいよ。証拠を」
 女が噛みつくような口調で言った。
「あんたが、本当にトイレを借りに来たっていう証拠をね」
「え?」
 杏里は途方に暮れた。
 トイレを借りに来た証拠を、見せる?
 この人、何を言ってるんだろう?
 そんなこと、できるわけないじゃない。
 ふとそう思ったのだ。
 しかし、逆らうのは得策ではなさそうだ。
「証拠って…どうすれば、いいんですか?」
 おそるおそる、たずねてみた。
「もし本当に催してるなら」
 にたりと笑って、女が答えた。
「ここでもできるはずだろう?」
 モップの柄で指し示したのは、流し台の上である。
「な、何を言ってるんですか? い、意味が、わかんないんですけど」
 言いながら、杏里は顔から血の気が引くのを感じていた。
 嫌な予感がした。
 たまらなく嫌な予感である。
「放尿だよ」
 うすうす感づいていた通りの台詞を、女が吐いた。
「この流し台でおしっこするのさ。私に見られながらね」
「そ、そんな」
 開いた口がふさがらないとはこのことだ。
 この女、正気だろうか?
 頭がおかしいんじゃないだろうか?
「嫌ならとっ捕まえて、警察に引き渡すだけさ」
 ふんと鼻で笑って女が言った。
「その前に、自治会裁判にかける必要があるけどね」
 自治会裁判?
 そんなものが、ここにはあるというのだろうか。
 だとすれば、それはある意味警察につき出されるよりまずいかもしれない。
 下見に来たことを、美里に知られてしまうからだ。
「さ、どうする?」
 にたにた笑いながら、女が催促した。
 杏里は小刻みに震えていた。
 尿意が我慢できないほど、強まってきていた。
 あと1分も持たない。
 このままでは…。
 私、漏らしちゃう…。
「わかりました」
 女から顔を背け、思い切ってショートパンツのファスナーに手をかけた。
 震える指で下まで降ろすと、まず右足を抜く。
 ついで左足を抜くと、下半身はパンティ一枚の姿になった。
 ほとんどシースルーに近い、ビキニパンティである。
 太腿と太腿との間の膨らみは、肉芽の突起から中央部の割れ目まで、二枚貝に似た杏里の性器の形をそのままトレースしている。
「ここで、すればいいんですよね」
 苦労して洗面台によじ登ると、パンティを膝まで降ろして、すり鉢型の流しのひとつの上にしゃがみこむ。
「鏡のほうを向いてするんだよ。そうすれば、本当にしてるかどうか、あたしにもわかるから」
 言われた通りに身体の位置をずらす。
 壁一面の鏡に、はしたない己の全身が映った。
「おお、かわいいお尻、してるじゃないか」
 女の声がする。
「ぷるぷるしてて、まるでプリンか桃みたいだねえ」
 相変わらず、変態じみたことを口走っている。
 が、杏里はもはやそれどころではなかった。
 しゃがんだ拍子に下腹が圧迫され、キーンと後頭部に痛みが走った。
「こ、これで、いいですか?」
 口にしたとたん、我慢しきれず、杏里は黄金色の液体を股間から吹き出した。
 ダムが決壊したかのような勢いだった。
 どぼどぼと重い音を立てて、もうもうと湯気を吹き上げながら、飴色の液体が流しにたまっていく。
 アンモニアの鋭い臭気が鼻を突いた。
 すさまじい解放感に、杏里は陶然となった。
 ふう。
 間に合った。
 体中から力が抜けていく。
 と、その時。
「おうおうおう」
 女が歓声を上げた。
「いい眺めだねえ。小娘のくせに、ずいぶんとまた、そそるじゃないか」
 鏡の中の女の眼が、じっと杏里の股間を凝視している。
 杏里は恥ずかしさで耳の付け根まで赤くなった。
「や、やめて…。見ないで」
 が、止めようにも、溜まりに溜まった尿の放出はいっこうに止もうとしない。
 鏡に映る自分のあられもない姿が、嫌でも視界に入ってきた。
 下半身を丸出しにして、つるりとした陰部から滝のように熱い尿をほとばしらせる少女…。
 永遠にも思われる時間が過ぎ…。
 長い放尿が終わると、舌なめずりするような調子で、女が言った。
「さ、こっちを向いてごらん。あたしが綺麗にしてあげるから、あんたのすべすべおまんこを、このあたしの舌で、ペロペロして、あ、げ、る」

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