激甚のタナトス ~世界でおまえが生きる意味について~【官能編】

戸影絵麻

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第8部 妄執のハーデス

#55 バトルロイヤル⑨

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 扉を開けると、通路に立っていたのは、やはりあのふたり連れだった。

 小麦色の肌の長身の少女。

 そして色の白いスタイルのいい娘である。

 さっき会った時はセーラー服姿だったのに、ふたりとも同じ赤茶色のジャージの上下に着替えている。

 胸の刺繍からすると、所属する中学校のバレー部のユニフォームのようだ。

 ともにスポーツバッグを提げていた。

 本気で出て行くつもりらしい。

「やめとけよ」

 背の高いほうをじろりと睨んで、由羅が言った。

「どうなっても知らないぞ」

「私も、そう思う。本当にやるの? ヤッコ?」

 同意したのは、意外にもタナトスらしき相棒のほうだ。

 心配そうに健康優良少女の横顔を見つめている。

「平気だって。ユリってば、マジ心配性なんだから」
 
 ヤッコと呼ばれた少女は、相棒の言葉を一蹴すると、大股にエスカレーターに向かって歩いていく、

 つられるように、3人が後に続いた。

 1階まで登ると、ラウンジは来た時のままだった。

 北条は、好きな時にここで食事を摂ったり休憩してもいいと言っていた。

 ラウンジの奥はレストランになっていて、そこが杏里たち研修生の食堂というわけなのだ。

 ただ先ほどと決定的に異なるのは、ガラス張りの壁の内側に、すべて鋼鉄のシャッターが下りている点である。

 特に正面玄関は警戒厳重で、シャッターの内側に、もう一枚、頑丈な鉄格子まで下りている始末だった。

「こんなんで、このヤッコさまを足止めできると思ったら、大間違いだよ!」

 その鉄格子の障壁の前に立つと、そううそぶいて、健康少女がけらけらと笑った。

 何事かと、警備員たちが徐々に集まってくる。

 が、ヤッコはひるむ気配さえ見せない。

「どうするつもりだ?」

 由羅がたずねた時には、ヤッコはすでに”それ”を開始していた。 

 両手を腰に当て、鉄格子を凝視している。

 と、驚くべきことに、太い鉄格子が飴のように曲がり始めた。

 手も触れていないのに、真ん中の2本がぐにゃりと上下にひん曲がって、人ひとり通れるだけの隙間をつくったのだ。

「念力か?」
 
 由羅が驚いた口調でつぶやいた。

 杏里も同感だった。

 本島に、居たんだ…。

 パトスは、由羅のように肉弾戦タイプばかりではない。

 そのことは、話には聞いて知っていた。

 だが、実際にこの目で見るのは、これが初めてだ。

 ヤッコは、サイコキネシスを使うパトスなのだ。

 まあ、考えてみれば、実際に重人のようなテレパスが存在するのだから、念動力者が実在すること自体は、さほど不思議ではないのだが…。


 Oの字型に口を開けた鉄格子を潜り抜けると、ヤッコはシャッターの前に立った。

 そして、振り返りもせず、頭上に両手を差し上げると、声も高らかに宣言した。

「さあ、今度は本気で行くよ。こいつ、思いっきりぶっ飛ばすから、みんなは遠くに下がってて」


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