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第8部 妄執のハーデス
#61 バトルロイヤル⑮
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「もしそうだとしても、俺はみすみすやられるつもりはないがな」
柚木が言って、自分を注視する全員を見渡した。
「ちょうどいい。みんなそろったところで、お互い、自己紹介しないか? 名前も知られないまま死んでいくなんて、君らもいくらなんでも寂しすぎるだろう? もちろん、個々の能力など、言いたくないことは言わなくてもいい」
抗し切れない好奇心に突き動かされたのか、その提案に、何人かがうなずいた。
食堂に場所を変え、長テーブルをはさむ形で15人が席に着く。
そこにウェイトレスの少女がやってきて、ごく普通のレストランのように、オーダーを取っていった。
全員分の飲み物と料理が運ばれてくるのを待ち、柚木が再びその場を仕切り始める。
「じゃあ、始めようか。アルファベッド順でいいだろう。だから、チームAのマコト、おまえからだ」
「おっけー」
ニタニタ笑って、マコトが左手でフォークを振りかざす。
「おれっちはマコト。こっちはユウ。縄張りは東京23区。見ての通り、世にも珍しい男同士のカップルさ。へっ、だからって、ホモって意味じゃねーから、勘違いすんなよ。おれっちの趣味はタナトス殺し。特に可愛くてセクシーなタナトスには目がなくてねえ。特技は、へへ、そんなん教えてたまるかってんだ」
杏里は上目遣いに、ピエロのようなマコトの顔をにらみつけた。
タナトス殺し。
平気でそんな言葉を口にするこの男は、明らかに狂っている。
俗にいうサイコパスなのかもしれない。
でも、と思う。
あの右手が、気になる。
どうしてずっとコートの中に隠してるの?
やっぱり、武器なの?
ナイフか、ピストルか…。
その横のユウは、気弱そうで、とっても可愛らしい少年なんだけど…。
「Bは入り口で死んでたあのふたりだろう。てことは、次はチームC]
「榊由羅と笹原杏里。担当は隣県の若葉台市。ふたりとも特技は何もない。ごく標準的なユニットさ」
平然とパスタを口に運びながら、早口で由羅が言った。
「ここに召喚されたからには、何かあるはずだが…。それに、そっちのタナトスの女の子、いくらなんでもセクシーすぎるだろう?」
みんなの視線が一斉に杏里に集まった。
両腕で胸を隠し、うつむく杏里。
「榊由羅、笹原杏里か…。どこかで聞いたような気もするな」
一瞬、疑わしげに眉をひそめた柚木だったが、
「まあ、いい。次は、チームD」
「ビアンカとチャン」
唐突にその少女の姿が斜め前の席に浮かび上がり、杏里は危うく声をあげそうになった。
こんな子、いたんだ。
しかも、外国人。
口を開いたのは、チョコレート色の肌をした、眼のくりくりした娘である。
白いTシャツとダメージ・ジーンズという、きわめてラフな格好をしている。
Tシャツの胸には、白黒のジョン・レノンの顔。
隣に座っているのは、中国か韓国系の丸顔の少女だ。
服装はおそろいで、こちらのTシャツのデザインは、なぜかブルース・リーである。
「テリトリーはオオサカ。特技は、これ」
黒人少女がにっと笑ったとたん、すうっと身体が見えなくなった。
「だは、透明人間かよ」
マコトが大げさにのけぞってみせる。
「ううん、これは気功術。ビアンカは、”気”を分散させて、気配を消すの」
アジア系少女の説明の途中、ビアンカが戻ってきた。
「どう? ビックリした?」
丸い目をくるくる動かして、茶目っ気たっぷりに言う。
人種の違いなのか、自分の能力を隠す気など、まるでないらしい。
さっき、人数を数えた時には、杏里と由羅を除き、13人、ちゃんといた。
自由気ままに、己の気配を消し去ることができるなんて…。
杏里は、内心恐怖を覚えた。
この子も、敵に回したら怖いタイプだな…。
そう思ったのだ。
「ああ、驚いたよ。それに、正々堂々としてて、なかなか好感が持てる。じゃ、次、チームE」
柚木が苦笑いしながら、司会を進行させる。
「じゃじゃじゃーん!」
自分で言って、ケラケラ笑い出したのは、あの3人組の真ん中の少女である。
「あたしたち、リサ、リナ、リタ。出身は沖縄。地元アイドルとしても活躍中だよん!」
タータン・チェックのベストとフレアミニをそろえた3人は、いかにもアイドル然とした雰囲気だ。
前髪につけた赤、青、黄のリボンも、あざといくらいサマになっている。
「なぜ3人なんだ? そんなユニット、初めて見るが」
いぶかしげに柚木がたずねた。
「だってあたしたち三つ子なんだもん。ひとりがタナトスで、ふたりがパトス。さ、誰がどれだかわかるかな?」
柚木が言って、自分を注視する全員を見渡した。
「ちょうどいい。みんなそろったところで、お互い、自己紹介しないか? 名前も知られないまま死んでいくなんて、君らもいくらなんでも寂しすぎるだろう? もちろん、個々の能力など、言いたくないことは言わなくてもいい」
抗し切れない好奇心に突き動かされたのか、その提案に、何人かがうなずいた。
食堂に場所を変え、長テーブルをはさむ形で15人が席に着く。
そこにウェイトレスの少女がやってきて、ごく普通のレストランのように、オーダーを取っていった。
全員分の飲み物と料理が運ばれてくるのを待ち、柚木が再びその場を仕切り始める。
「じゃあ、始めようか。アルファベッド順でいいだろう。だから、チームAのマコト、おまえからだ」
「おっけー」
ニタニタ笑って、マコトが左手でフォークを振りかざす。
「おれっちはマコト。こっちはユウ。縄張りは東京23区。見ての通り、世にも珍しい男同士のカップルさ。へっ、だからって、ホモって意味じゃねーから、勘違いすんなよ。おれっちの趣味はタナトス殺し。特に可愛くてセクシーなタナトスには目がなくてねえ。特技は、へへ、そんなん教えてたまるかってんだ」
杏里は上目遣いに、ピエロのようなマコトの顔をにらみつけた。
タナトス殺し。
平気でそんな言葉を口にするこの男は、明らかに狂っている。
俗にいうサイコパスなのかもしれない。
でも、と思う。
あの右手が、気になる。
どうしてずっとコートの中に隠してるの?
やっぱり、武器なの?
ナイフか、ピストルか…。
その横のユウは、気弱そうで、とっても可愛らしい少年なんだけど…。
「Bは入り口で死んでたあのふたりだろう。てことは、次はチームC]
「榊由羅と笹原杏里。担当は隣県の若葉台市。ふたりとも特技は何もない。ごく標準的なユニットさ」
平然とパスタを口に運びながら、早口で由羅が言った。
「ここに召喚されたからには、何かあるはずだが…。それに、そっちのタナトスの女の子、いくらなんでもセクシーすぎるだろう?」
みんなの視線が一斉に杏里に集まった。
両腕で胸を隠し、うつむく杏里。
「榊由羅、笹原杏里か…。どこかで聞いたような気もするな」
一瞬、疑わしげに眉をひそめた柚木だったが、
「まあ、いい。次は、チームD」
「ビアンカとチャン」
唐突にその少女の姿が斜め前の席に浮かび上がり、杏里は危うく声をあげそうになった。
こんな子、いたんだ。
しかも、外国人。
口を開いたのは、チョコレート色の肌をした、眼のくりくりした娘である。
白いTシャツとダメージ・ジーンズという、きわめてラフな格好をしている。
Tシャツの胸には、白黒のジョン・レノンの顔。
隣に座っているのは、中国か韓国系の丸顔の少女だ。
服装はおそろいで、こちらのTシャツのデザインは、なぜかブルース・リーである。
「テリトリーはオオサカ。特技は、これ」
黒人少女がにっと笑ったとたん、すうっと身体が見えなくなった。
「だは、透明人間かよ」
マコトが大げさにのけぞってみせる。
「ううん、これは気功術。ビアンカは、”気”を分散させて、気配を消すの」
アジア系少女の説明の途中、ビアンカが戻ってきた。
「どう? ビックリした?」
丸い目をくるくる動かして、茶目っ気たっぷりに言う。
人種の違いなのか、自分の能力を隠す気など、まるでないらしい。
さっき、人数を数えた時には、杏里と由羅を除き、13人、ちゃんといた。
自由気ままに、己の気配を消し去ることができるなんて…。
杏里は、内心恐怖を覚えた。
この子も、敵に回したら怖いタイプだな…。
そう思ったのだ。
「ああ、驚いたよ。それに、正々堂々としてて、なかなか好感が持てる。じゃ、次、チームE」
柚木が苦笑いしながら、司会を進行させる。
「じゃじゃじゃーん!」
自分で言って、ケラケラ笑い出したのは、あの3人組の真ん中の少女である。
「あたしたち、リサ、リナ、リタ。出身は沖縄。地元アイドルとしても活躍中だよん!」
タータン・チェックのベストとフレアミニをそろえた3人は、いかにもアイドル然とした雰囲気だ。
前髪につけた赤、青、黄のリボンも、あざといくらいサマになっている。
「なぜ3人なんだ? そんなユニット、初めて見るが」
いぶかしげに柚木がたずねた。
「だってあたしたち三つ子なんだもん。ひとりがタナトスで、ふたりがパトス。さ、誰がどれだかわかるかな?」
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