激甚のタナトス ~世界でおまえが生きる意味について~【官能編】

戸影絵麻

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第8部 妄執のハーデス

#63 バトルロイヤル⑰

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 ガラスの破片に埋もれるようにして長テーブルの上に乗っているのは、先の尖った金属の棒だった。

 途中でへし折られているようだが、それでもかなりの長さである。

 数メートルはありそうな新たに出現した凶器を、由羅は忌まわしいものでも見るように凝視している。

「ねえ、由羅ったら、どうしたの? ありえないって、何が?」

 腕をゆすぶって訊いてみても、由羅はいっこうに答えようとしない。

「避雷針だって? この建物の屋上から引っこ抜いてきたのか? ムチャするやつもいるもんだな」

 マコトが呆れたように言う。

「でも、だとしたら、そいつ、ただ者じゃないね。相当な腕力がなきゃ、そんなのできないよ」

 防御専門と自称する巨漢の久美子が、気味悪そうに顔をしかめ、マコトの言葉にコメントを返す。

「柚木君だったっけ? あんたも、気をつけたほうがいいんじゃない? 最初にXと戦うの、あんたたちなんだろ? いくらバイロキネシスがあるっていっても、こいつ、ガチで手ごわそうだ」

 久美子に向かって柚木が何か言いかけた時、それを遮るように、館内放送のアナウンスが入った。

 ーあと30分で、一回戦を開始する。場所はB3の体育館。A-C、G-X、D-H、E-Fの順で、対戦してもらう。まずはAチームとCチームの4人、準備を済ませたら、5分前に体育館に集合せよ。遅刻は許さない。不審な行動が見受けられた場合は、即座に腕輪の毒物を解放する。Bチームのふたりのようになりたくなかったら、大人しく指示に従うことだ。また、自分たちの番が来るまでは、他のチームは部屋で待機とする。順番が来たらコールするから、大人しく待っていろ」

 北条の声だった。

 杏里は由羅に身体を寄せた。

 来た。

 ついに来てしまった。

 運命の時が。

「うひひひひ、いよいよだねえ」

 テーブルの向こうで、マコトが奇声を発した。

「おまえ、笹原杏里だったっけ? 楽しみにしてろよ。そのムチムチの身体、俺っちが裸に剥いて、ずたずたに引き裂いてやっからよ」

「マコト、やめなよ、やめなったら」

 そのコートの袖に、美少年のユウがしがみついている。

「行こう。いったん、部屋に戻るんだ」

 他のメンバーたちの視線を浴びながら、由羅が杏里をかばうようにして、すたすた歩き出した。

「おい。逃げるのかよ、このチビ。本番前にして、おじけづきやがったか」

 後ろからマコトの罵声が飛んでくる。

「由羅…こわいよ」

 由羅の腕に顔を埋める杏里。

「私たち、殺されちゃうよ」

「だとしても、今じゃない」
 
 ぶっきらぼうな口調で、由羅が言った。

「雑魚にはかまうな。うちらが恐れなきゃならない敵は、あいつらじゃない」

「…え?」

 ドアを乱暴に蹴り開けると、由羅は杏里をベッドに座らせた。

「時間まで、こうしててやる。だから落ち着け。心配するな。杏里、おまえは最強のタナトスなんだから」

 由羅の腕が、杏里をそっと抱き寄せた。

 その胸に頬をうずめ、身体の力を抜いて、杏里は由羅に全身をゆだねた。

 由羅の体温が伝わってくるにつれ、次第に気持ちが落ちついてくるのがわかった。

「チームAの、あのマコトはともかくとして、他はみんな、いい子たちばかりだったよね」

 頬をすり寄せ、甘えるように言う。

「なのに、私たち、殺し合わなきゃならないの? そんなこと、私できないし、由羅にも、してほしくない…」

「仕方ないだろ」

 由羅の手のひらが、杏里の柔らかい髪を撫でる。

「みんな、必死で向かってくるんだ。殺らなきゃ、殺られる。それに」

「それに? まだ、何かあるの?」

 由杏里を抱く、羅の腕に力がこもる。

 そして、顔をそむけたまま、冷ややかな口調でこう言った。

「うちらが殺らなくても、いずれみんな、あのXに殺される」

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