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第8部 妄執のハーデス

#66 1回戦③

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 マコトが懐から出したもの。

 それは武器の類いではなかった。

 右手である。

 ただし、普通の手ではない。

 野球のグローブほどに膨れ上がった、赤紫色の巨大な手だ。

 節くれだった長い指には鋭い爪と剛毛が生え、手の甲には太った蚯蚓のような血管が盛り上がっている。

 その手が眼にも止まらぬ速さで伸び、斜め下から由羅の顔面をつかんだ。

「うぐっ!」

 顔全体を鷲掴みにされ、由羅がくぐもった声でうめく。

「かかったな」

 ニタニタ笑いながら、マコトがゆっくりと立ち上がった。

 その血だらけの顔には、狂気じみた微笑が貼りついている。

 マコトは由羅より20センチ以上、背が高い。

 たちまちのうちに宙づりにされる由羅。

 黒革の胴着がずれ上がり、スカートのベルトとの間に腹筋がのぞいた。

「よくも好き勝手、やってくれやがったなあ。さあ、今度は俺っちが楽しませてもらう番だぜ」

 女だてらに6つに割れたその腹に、マコトが左手のこぶしを叩きこむ。

 一発、二発。

「あうっ、ぐふっ」

 殴られるたびに、由羅の身体が激しく揺れた。

 息ができないのか、由羅は腹部をガードすることもなく、両手をマコトの巨大な右手にかけている。

 が、由羅の怪力をもってしても、マコトの右手はびくともしない。

 まるで片手でリンゴでも握りつぶそうとでもいうかのように、ぎり、ぎりっと、由羅の頭部を締め上げていく。

「マコトの右手は特別製なんだよ。いわば鬼神の右手とでもいったところかな。マコトはあれで、これまで何人ものタナトスを闇に葬ってきた。いくら不死身のタナトスでも、脳を潰されれば、ひとたまりもないからね」

 楽しそうに、ユウが解説する。

 人形のように美しい顔に、うっとりとした表情が浮かんでいる。

 これが、この美少年の本性なのだろう。

 杏里は己のうかつさ加減に、ほぞを噛む思いだった。

 この子も相棒同様、狂っているのだ。

 由羅の危惧は正しかった。

 見た目に惑わされた私が、馬鹿だったのだ。

 このままでは、由羅が危ない。

 助けなくては。

 由羅は、手を出すなと言ったけど、そんな言いつけを守っている場合ではない。

 今の私には、攻撃手段だってある。

 あの触手で、マコトの気を逸らすことができさえすれば…。

 だが、前に出ようにも、身体が言うことを聞かなかった。

 いつのまにかユウが寄り添ってきていて、タンクトップの上から杏里の胸を撫で回している。

 その愛撫があまりにも甘美で、杏里は知らぬ間に、立っているのもやっとの状態に陥ってしまっていた。

「な、なんなの? これは?」

 激しく喘ぎながらたずねると、固く尖った杏里の乳首を指で挟んで転がしながら、ユウが歌うように言った。

「僕にはね、相手の性感帯が見えるんだよ。どこを責めれば一番効率的か、見ただけで、隅々までわかってしまうんだ。性感帯は、ぼうっとオレンジ色の光っているからね。杏里、君はもう僕の愛撫から逃げられない。僕の手や舌で際限なく絶頂を迎えているうちに、いつかマコトに脳を潰される。ねえ、素敵な最期だと思わないかい?」

 はあ、はあ、はあ、はあ…。

 乳房から腋の下、横腹から太腿にかけて、ユウの両手が丹念に杏里の肌を撫で回していく。

 撫でられるそばから皮膚にパルスが生まれ、快楽中枢に刺激が送り込まれていく。

 杏里の子宮の中心で熱いものが膨れ上がり、蜜壺をいっぱいに満たして、少しずつ外へ漏れ始めた。

 薄い極小ショーツを己の淫汁でぐっしょり濡らしながら、杏里は艶めかしく身体をくねらせた。

「熱い…身体が…熱くて、たまんない」

 汗に濡れた髪を頬にまといつかせ、半ば開いた口の中で舌先をチロチロ動かして、杏里は切なげに喘いだ。

「脱がせてあげるよ」

 ユウの手が、杏里のタンクトップの裾にかかった。

「お願い…裸にして…」

 頭の中が真っ白になり、杏里はすでに、自分が何を言っているのかも、わからない。

「スカートも、下着も、全部脱がせて…そうして、杏里を、裸に剥いて、ほしいの…」

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