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第8部 妄執のハーデス
#89 悪魔の影
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ーはあ、はあ、はあー
頭の中にももの荒い息遣いがこだまする。
そのあまりの生々しさに、杏里の迷いは吹き飛んでいた。
由羅に手を引かれながら、走る。
3人の少女が死んだ。
私と由羅が殺したのだ。
その後味の悪さは、それこそ吐き気がするほどだ。
でも、今はそれどことではない。
私たちは約束したのだから。
久美子とももを助けに行くと。
これ以上、死人を出さないためにも、Xの凶行を止めないと…。
第2体育館を出て、エスカレーターまでたどり着いた時だった。
-来る! 悪魔が来るよ! 誰か! いやあっ!ー
”悲鳴”とともに、ももの思考がぷつりと途絶えた。
ちょうど、ラジオのスイッチを、誰かがいきなりOFFにしたみたいな唐突さだった。
その後に続く空虚な静寂に、杏里はぞっとなった。
「ももが…ももちゃんが」
「急げ」
由羅が、杏里を引きずるようにして、エスカレーターを駆け上がる。
その脇腹に開いた傷口から、ぼたぼたと血が垂れている。
斜め下からナイフで心臓を狙ったのか、傷自体、かなり深いようだ。
久美子とももを救出するのも重要だが、早く治療しないと、由羅の命も危ないかもしれない。
地下3階に戻り、通路を駆けた。
前回と違い、正面扉は閉まっている。
耳を澄ませても、物音ひとつ聞えない。
戦いは、もう終わってしまったのだろうか。
だとしたら、結果は…?
由羅が肩から体当たりして、扉を開け放った。
噴き出してきたのは、むっとするほどの血の臭いだ。
「くっ」
由羅が、急ブレーキをかけるようにして、立ち止まった。
「見るな! 杏里」
身体を抱えられ、両目をふさがれたが、もう遅かった。
扉が開いた瞬間、杏里の視界に飛び込んできたもの。
それは想像を絶するほど、無残な光景だった。
あおむけになって、床に倒れた久美子。
一糸まとわぬ姿で、腹部を縦に引き裂かれている。
そして、内臓をすべて摘出されたその腹腔の中に、信じられないものが詰め込まれていた。
手足をもがれ、芋虫と化したももである。
「いやあっ!」
由羅の手を跳ね除け、杏里はふたりの死体の脇に座り込んだ。
手に触れたのは、散乱した久美子の臓物だ。
殺されて間もないせいだろう。
それは、まだ温かかった。
間に合わなかった。
悔恨に杏里は肩を震わせた。
ももちゃん、久美子さん、ごめんなさい…。
「久美子は、最後まで、ももを守ろうとしたんだ」
と、ふたりの骸を見下ろし、苦渋に満ちた声音で、由羅がつぶやいた。
「相手は柚木たちを瞬殺したXだ。よくぞここまで持ちこたえたと、誉めてやるべきだろうな」
「ひどいよ…」
杏里は泣きじゃくった。
涙が次から次へと溢れて止まらない。
「いくら殺し合いだからって、こんなやり方、ひど過ぎる…」
「まあね」
由羅が久美子の顔の上にかがみこむ、
その顔は、紫色にうっ血し、倍以上に膨れ上がって見る影もない。
「でも、うちらも同じさ」
見開いたままの久美子の目蓋を、由羅が手のひらでそっと閉じた。
「やり方なんて、関係ない。Xもうちらも、今となっては、もう、同じ殺人鬼なんだよ」
頭の中にももの荒い息遣いがこだまする。
そのあまりの生々しさに、杏里の迷いは吹き飛んでいた。
由羅に手を引かれながら、走る。
3人の少女が死んだ。
私と由羅が殺したのだ。
その後味の悪さは、それこそ吐き気がするほどだ。
でも、今はそれどことではない。
私たちは約束したのだから。
久美子とももを助けに行くと。
これ以上、死人を出さないためにも、Xの凶行を止めないと…。
第2体育館を出て、エスカレーターまでたどり着いた時だった。
-来る! 悪魔が来るよ! 誰か! いやあっ!ー
”悲鳴”とともに、ももの思考がぷつりと途絶えた。
ちょうど、ラジオのスイッチを、誰かがいきなりOFFにしたみたいな唐突さだった。
その後に続く空虚な静寂に、杏里はぞっとなった。
「ももが…ももちゃんが」
「急げ」
由羅が、杏里を引きずるようにして、エスカレーターを駆け上がる。
その脇腹に開いた傷口から、ぼたぼたと血が垂れている。
斜め下からナイフで心臓を狙ったのか、傷自体、かなり深いようだ。
久美子とももを救出するのも重要だが、早く治療しないと、由羅の命も危ないかもしれない。
地下3階に戻り、通路を駆けた。
前回と違い、正面扉は閉まっている。
耳を澄ませても、物音ひとつ聞えない。
戦いは、もう終わってしまったのだろうか。
だとしたら、結果は…?
由羅が肩から体当たりして、扉を開け放った。
噴き出してきたのは、むっとするほどの血の臭いだ。
「くっ」
由羅が、急ブレーキをかけるようにして、立ち止まった。
「見るな! 杏里」
身体を抱えられ、両目をふさがれたが、もう遅かった。
扉が開いた瞬間、杏里の視界に飛び込んできたもの。
それは想像を絶するほど、無残な光景だった。
あおむけになって、床に倒れた久美子。
一糸まとわぬ姿で、腹部を縦に引き裂かれている。
そして、内臓をすべて摘出されたその腹腔の中に、信じられないものが詰め込まれていた。
手足をもがれ、芋虫と化したももである。
「いやあっ!」
由羅の手を跳ね除け、杏里はふたりの死体の脇に座り込んだ。
手に触れたのは、散乱した久美子の臓物だ。
殺されて間もないせいだろう。
それは、まだ温かかった。
間に合わなかった。
悔恨に杏里は肩を震わせた。
ももちゃん、久美子さん、ごめんなさい…。
「久美子は、最後まで、ももを守ろうとしたんだ」
と、ふたりの骸を見下ろし、苦渋に満ちた声音で、由羅がつぶやいた。
「相手は柚木たちを瞬殺したXだ。よくぞここまで持ちこたえたと、誉めてやるべきだろうな」
「ひどいよ…」
杏里は泣きじゃくった。
涙が次から次へと溢れて止まらない。
「いくら殺し合いだからって、こんなやり方、ひど過ぎる…」
「まあね」
由羅が久美子の顔の上にかがみこむ、
その顔は、紫色にうっ血し、倍以上に膨れ上がって見る影もない。
「でも、うちらも同じさ」
見開いたままの久美子の目蓋を、由羅が手のひらでそっと閉じた。
「やり方なんて、関係ない。Xもうちらも、今となっては、もう、同じ殺人鬼なんだよ」
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