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第8部 妄執のハーデス
#123 逆襲③
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杏里の左肩を噛みちぎる寸前で、サメのような零の口が閉じた。
上下の牙が噛み合わさる音に、杏里は無意識に閉じていた目を開けた。
零がゆっくりと、後ろを振り向こうとしているところだった。
その視線を追った杏里は、零の足元を一瞥するなり、はっと息を呑んだ。
そ、そんな…。
零の右足首に、由羅が噛みついていた。
零の猛攻にさらされ、衣服を引きむしられた由羅は、ほとんど裸同然だ。
それだけに、その両手両足を失った姿は、正視に堪えぬほど痛々しかった。
肩のつけ根と太腿のつけ根にぽっかりと開いた穴。
血みどろに肉が弾け、折れた骨だけがその中心から突き出している。
そんな芋虫のようになった身体で、床をはいずってきたのだろう。
由羅の後ろには、赤ペンキで描いたような、太い血の轍ができている。
零の足首を強靭な顎でがっしりとくわえたまま、由羅が杏里のほうに顔を向けた。
かろうじて残っている左目が、じっと杏里を見つめている。
「由羅…やめて」
杏里は身を振りしぼるように、哀願した。
「もう、いいの。だから、それ以上、無理はしないで」
今ならまだ、助かるかもしれないのに。
でも、これ以上零を怒らせたら…今度こそ、本当に命の保障はないだろう。
由羅の瞳は、杏里に何かを必死で訴えかけているようだった。
「由羅にかまわないで」
杏里は零の背中にしがみついた。
が、零は凍りついたように身じろぎもしない。
己の足に噛みついている、巨大な芋虫と化した由羅を血走った目で睨みつけているだけだ。
「お願い、零、私を見て」
たまりかねて、杏里が零の身体をゆすぶった時だった。
ふいに、杏里の脳裏で、聞き覚えのある”声”がこだました。
-杏里、よく聞いてー
ヒュプノス、栗栖重人の”声”だった。
上下の牙が噛み合わさる音に、杏里は無意識に閉じていた目を開けた。
零がゆっくりと、後ろを振り向こうとしているところだった。
その視線を追った杏里は、零の足元を一瞥するなり、はっと息を呑んだ。
そ、そんな…。
零の右足首に、由羅が噛みついていた。
零の猛攻にさらされ、衣服を引きむしられた由羅は、ほとんど裸同然だ。
それだけに、その両手両足を失った姿は、正視に堪えぬほど痛々しかった。
肩のつけ根と太腿のつけ根にぽっかりと開いた穴。
血みどろに肉が弾け、折れた骨だけがその中心から突き出している。
そんな芋虫のようになった身体で、床をはいずってきたのだろう。
由羅の後ろには、赤ペンキで描いたような、太い血の轍ができている。
零の足首を強靭な顎でがっしりとくわえたまま、由羅が杏里のほうに顔を向けた。
かろうじて残っている左目が、じっと杏里を見つめている。
「由羅…やめて」
杏里は身を振りしぼるように、哀願した。
「もう、いいの。だから、それ以上、無理はしないで」
今ならまだ、助かるかもしれないのに。
でも、これ以上零を怒らせたら…今度こそ、本当に命の保障はないだろう。
由羅の瞳は、杏里に何かを必死で訴えかけているようだった。
「由羅にかまわないで」
杏里は零の背中にしがみついた。
が、零は凍りついたように身じろぎもしない。
己の足に噛みついている、巨大な芋虫と化した由羅を血走った目で睨みつけているだけだ。
「お願い、零、私を見て」
たまりかねて、杏里が零の身体をゆすぶった時だった。
ふいに、杏里の脳裏で、聞き覚えのある”声”がこだました。
-杏里、よく聞いてー
ヒュプノス、栗栖重人の”声”だった。
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