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第8部 妄執のハーデス
#124 逆襲③
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「遅いよ!」
杏里はつい、声に出して叫んでいた。
「今まで何やってたの? テレパシーで、この化け物をどうにかできなかったの? このままじゃ、由羅が…」
-わかってるよ。こっちにも色々あったんだよ。サイコジェニーの監視を抜けられなかったんだ。それより、杏里、その由羅から伝言だ。由羅はこう言ってる。『杏里、今のうちに、逃げろ』ってー
「逃げるなんて、できるわけないじゃない! こんなになった由羅を置いて、どうして私だけ!」
-馬鹿だな。そのままじゃ、ふたりとも死んじゃうだろ? せめて君だけでも助けたいって、必死で頑張ってる由羅の気持ちがわからないのかい?-
わかってる。
杏里は激しくかぶりを振った。
わかっているからこそ、逃げるなんてことはできないのだ。
「もういい! あんたは引っ込んでて! せめて、サイコジェニーにお願いして、救急隊員をここに送ってもらってよ!」
-わ、わかった。やってみるー
杏里の気迫に押されて、重人の気配が遠ざかっていく。
杏里は気を取り直し、改めて零の右手にしがみついた。
零はそんな杏里のほうを、振り返ろうともしない。
腕のちぎれた左肩からの出血は、すでに止まっているようだ。
零が杏里と同レベルの回復力を持っている証拠である。
その零は、今、右足首に噛みついた由羅を踏みつけようと、大きく左足を上げたところだった。
「やめて!」
耳元で絶叫する杏里を、零がうるさそうに振り払った。
軽い右腕のひと振りで、あっけなく杏里は吹っ飛んだ。
己の愛液で濡れた床を、体を斜めにしたまま滑っていき、壁に思いっきり後頭部を打ちつけた。
かすんだ視界の中で、零が獣のようなうなり声を上げ、由羅の側頭部を踏みつけ始めた。
すさまじい音が響き渡り、零の足が上下するたびに由羅の頭部の形が歪んでいく。
耳がちぎれ、肉片となって床にちらばった。
頭蓋が陥没し始めた衝撃で、眼窩から眼球がだんだんとせり出してくる。
それでも由羅は口を放さない。
零の左足首はすでに血まみれだ。
由羅の歯が骨まで届いているのか、皮膚が破れ、大量の鮮血が床に流れ落ちている。
「由羅! ゆらあ!」
何度も無様に滑っては転び、懸命に起き上がる杏里。
ほとんど四つん這いになりながら零の足元に駆け寄ると、由羅の頭をかばうようにその上に身を投げ出した。
身体を丸めて、砕けた由羅の頭部を胸に抱え込む。
耳たぶを失った由羅の耳の穴からあふれ出る血が、ふくよかな杏里の乳房を濡らしていく。
胸に抱いた由羅の頭部の感触は、明らかに異様だった。
崩れかけた豆腐のように、妙に柔らかいのだ。
もはや顎の力も限界に達したのか、零の足首を離して、杏里の腕の中で由羅ががくりとうなだれた。
「由羅、死んじゃだめ! 死なないで!」
零から守るように、杏里は由羅の全身を体で覆った。
手足をもがれ、芋虫と化したその哀れな裸体を、全身で抱きしめた。
そうして、由羅の頬に自分の頬をすりつけ、泣きじゃくりながら思った。
もうすぐ零の一撃が、私の首の骨を折るだろう。
でも、それなら、それでいい。
私も、由羅と一緒に、死ねるのだから…。
ごめんね…由羅。
こんな私のために、命を張ってくれて…。
本当に…本当に、ありがとう…。
杏里はつい、声に出して叫んでいた。
「今まで何やってたの? テレパシーで、この化け物をどうにかできなかったの? このままじゃ、由羅が…」
-わかってるよ。こっちにも色々あったんだよ。サイコジェニーの監視を抜けられなかったんだ。それより、杏里、その由羅から伝言だ。由羅はこう言ってる。『杏里、今のうちに、逃げろ』ってー
「逃げるなんて、できるわけないじゃない! こんなになった由羅を置いて、どうして私だけ!」
-馬鹿だな。そのままじゃ、ふたりとも死んじゃうだろ? せめて君だけでも助けたいって、必死で頑張ってる由羅の気持ちがわからないのかい?-
わかってる。
杏里は激しくかぶりを振った。
わかっているからこそ、逃げるなんてことはできないのだ。
「もういい! あんたは引っ込んでて! せめて、サイコジェニーにお願いして、救急隊員をここに送ってもらってよ!」
-わ、わかった。やってみるー
杏里の気迫に押されて、重人の気配が遠ざかっていく。
杏里は気を取り直し、改めて零の右手にしがみついた。
零はそんな杏里のほうを、振り返ろうともしない。
腕のちぎれた左肩からの出血は、すでに止まっているようだ。
零が杏里と同レベルの回復力を持っている証拠である。
その零は、今、右足首に噛みついた由羅を踏みつけようと、大きく左足を上げたところだった。
「やめて!」
耳元で絶叫する杏里を、零がうるさそうに振り払った。
軽い右腕のひと振りで、あっけなく杏里は吹っ飛んだ。
己の愛液で濡れた床を、体を斜めにしたまま滑っていき、壁に思いっきり後頭部を打ちつけた。
かすんだ視界の中で、零が獣のようなうなり声を上げ、由羅の側頭部を踏みつけ始めた。
すさまじい音が響き渡り、零の足が上下するたびに由羅の頭部の形が歪んでいく。
耳がちぎれ、肉片となって床にちらばった。
頭蓋が陥没し始めた衝撃で、眼窩から眼球がだんだんとせり出してくる。
それでも由羅は口を放さない。
零の左足首はすでに血まみれだ。
由羅の歯が骨まで届いているのか、皮膚が破れ、大量の鮮血が床に流れ落ちている。
「由羅! ゆらあ!」
何度も無様に滑っては転び、懸命に起き上がる杏里。
ほとんど四つん這いになりながら零の足元に駆け寄ると、由羅の頭をかばうようにその上に身を投げ出した。
身体を丸めて、砕けた由羅の頭部を胸に抱え込む。
耳たぶを失った由羅の耳の穴からあふれ出る血が、ふくよかな杏里の乳房を濡らしていく。
胸に抱いた由羅の頭部の感触は、明らかに異様だった。
崩れかけた豆腐のように、妙に柔らかいのだ。
もはや顎の力も限界に達したのか、零の足首を離して、杏里の腕の中で由羅ががくりとうなだれた。
「由羅、死んじゃだめ! 死なないで!」
零から守るように、杏里は由羅の全身を体で覆った。
手足をもがれ、芋虫と化したその哀れな裸体を、全身で抱きしめた。
そうして、由羅の頬に自分の頬をすりつけ、泣きじゃくりながら思った。
もうすぐ零の一撃が、私の首の骨を折るだろう。
でも、それなら、それでいい。
私も、由羅と一緒に、死ねるのだから…。
ごめんね…由羅。
こんな私のために、命を張ってくれて…。
本当に…本当に、ありがとう…。
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