279 / 288
第8部 妄執のハーデス
#128 人形少女②
「そこに着るものを用意しておいたわ。急いで着替えて。”会見”が終わり次第、帰るのよ。明日から、学校でしょ」
冬美が指差したのは、椅子にかけられたギンガムチェックのワンピースと、真新しい下着だった。
これには素直に感謝した。
杏里の着ていた下着や制服は、血と淫汁で見る影もないはずである。
どんな服でもいい。
とりあえず、清潔なものを着られれば。
冬美が衝立の向こうに戻ったのを確かめると、杏里はベッドを降り、病衣を脱いだ。
裸になって、洗面台の鏡の前に立つ。
鏡の中からこちらを見つめているのは、愁いを帯びたまなざしの、少し大人びた雰囲気の美少女だ。
まだあどけなさの残る顔は以前よりいくらかやつれ、そのせいで鋭さを増している。
我ながら驚いたのは、躰に傷痕ひとつ残っていないことだった。
つんと上を向いた乳房は左右同じ大きさに戻り、シンメトリを回復している。
黄金比を具現したかのような身体のラインには、少しのゆがみもない。
顔もそうだった。
零に食いちぎられたはずの唇は、何事もなかったようにすっかり元の形に戻っていた。
口を開いてみると、ちゃんと舌もある。
それを確かめると、ほんの少しだけ、気分が明るくなった。
冬美が用意した下着もワンピースもかなりサイズが窮屈だったが、なんとか無理やり身体を押し込んだ。
本当は大人しいデザインのはずなのに、杏里が身に着けると、セクシーなボディコンシャスのミニワンピと化してしまう。
同じ感想を冬美も抱いたらしく、
「杏里ちゃん。あなたって、結局、何を着てもそうなってしまうのね」
衝立の陰から現れた杏里を見るなり、呆れたようにため息をついた。
部屋から出ると、そこは不思議な空間だった。
真円形のフロアは、中央を太いシャフトが貫いており、円周に沿ってずらりと部屋のドアが並んでいる。
シャフトの周りの天井は透明になっていて、そこから真っ青な秋空をのぞむことができた。
杏里は今、本部の上階にいるのだった。
このどこまでも明るく近未来的な雰囲気は、さっきまで閉じ込められていた地下フロアとは雲泥の差だ。
「ここの最上階が、”彼女”のお城。サイコジェニーは、いわば委員会専属の占い師みたいなものなの。史上最強のヒュプノスだから、誰も逆らえないしね」
中央のシャフトに向かって歩きながら、訊きもしないのに、冬美が言った。
「私は、あの黒野零の投入には反対したのだけれど、ジェニーがどうしてもって、言い張るものだから…」
「サイコジェニーが、零を…?」
それは初耳だった。
彼女は、そんなことは一言も言わなかったのだ。
「ええ、そうよ。不確定要素が多すぎるし、危険過ぎるからダメだって言ったのに…そしたら、案の定…」
「それで、零は? 零は捕まったの?」
杏里の問いに、冬美が歩きながらかすかに肩をすくめてみせた。
「逃げたわ。警備員を10人以上殺して、役員用の小型機をハイジャックしてね。今頃、どこかの河原か海辺にでも不時着してるんじゃないかしら。あの様子じゃ、どうやら、由羅が彼女に注入した神経毒は、大した量ではなかったみたい。毒のほとんどは、由羅のほうに吸収されたようね。返す返すも、可哀相な由羅…」
胸の奥底からふいに苦い思いがつき上げてきて、杏里は黙り込んだ。
由羅の捨て身の一撃も、零にとどめを刺すまでには至らなかった…。
「さ、乗って」
シャフトはエレベーターになっていた。
そのドアがスライドすると、杏里を中に促して、冬美が言った。
「ジェニーが何を考えているのか、正直なところ、私たち人間にはわからない。でも、もしかして、同類のあなたなら、って思わないでもないの。よかったら、後で私に教えてくれないかしら。彼女があなたに何を話したのか」
冬美が指差したのは、椅子にかけられたギンガムチェックのワンピースと、真新しい下着だった。
これには素直に感謝した。
杏里の着ていた下着や制服は、血と淫汁で見る影もないはずである。
どんな服でもいい。
とりあえず、清潔なものを着られれば。
冬美が衝立の向こうに戻ったのを確かめると、杏里はベッドを降り、病衣を脱いだ。
裸になって、洗面台の鏡の前に立つ。
鏡の中からこちらを見つめているのは、愁いを帯びたまなざしの、少し大人びた雰囲気の美少女だ。
まだあどけなさの残る顔は以前よりいくらかやつれ、そのせいで鋭さを増している。
我ながら驚いたのは、躰に傷痕ひとつ残っていないことだった。
つんと上を向いた乳房は左右同じ大きさに戻り、シンメトリを回復している。
黄金比を具現したかのような身体のラインには、少しのゆがみもない。
顔もそうだった。
零に食いちぎられたはずの唇は、何事もなかったようにすっかり元の形に戻っていた。
口を開いてみると、ちゃんと舌もある。
それを確かめると、ほんの少しだけ、気分が明るくなった。
冬美が用意した下着もワンピースもかなりサイズが窮屈だったが、なんとか無理やり身体を押し込んだ。
本当は大人しいデザインのはずなのに、杏里が身に着けると、セクシーなボディコンシャスのミニワンピと化してしまう。
同じ感想を冬美も抱いたらしく、
「杏里ちゃん。あなたって、結局、何を着てもそうなってしまうのね」
衝立の陰から現れた杏里を見るなり、呆れたようにため息をついた。
部屋から出ると、そこは不思議な空間だった。
真円形のフロアは、中央を太いシャフトが貫いており、円周に沿ってずらりと部屋のドアが並んでいる。
シャフトの周りの天井は透明になっていて、そこから真っ青な秋空をのぞむことができた。
杏里は今、本部の上階にいるのだった。
このどこまでも明るく近未来的な雰囲気は、さっきまで閉じ込められていた地下フロアとは雲泥の差だ。
「ここの最上階が、”彼女”のお城。サイコジェニーは、いわば委員会専属の占い師みたいなものなの。史上最強のヒュプノスだから、誰も逆らえないしね」
中央のシャフトに向かって歩きながら、訊きもしないのに、冬美が言った。
「私は、あの黒野零の投入には反対したのだけれど、ジェニーがどうしてもって、言い張るものだから…」
「サイコジェニーが、零を…?」
それは初耳だった。
彼女は、そんなことは一言も言わなかったのだ。
「ええ、そうよ。不確定要素が多すぎるし、危険過ぎるからダメだって言ったのに…そしたら、案の定…」
「それで、零は? 零は捕まったの?」
杏里の問いに、冬美が歩きながらかすかに肩をすくめてみせた。
「逃げたわ。警備員を10人以上殺して、役員用の小型機をハイジャックしてね。今頃、どこかの河原か海辺にでも不時着してるんじゃないかしら。あの様子じゃ、どうやら、由羅が彼女に注入した神経毒は、大した量ではなかったみたい。毒のほとんどは、由羅のほうに吸収されたようね。返す返すも、可哀相な由羅…」
胸の奥底からふいに苦い思いがつき上げてきて、杏里は黙り込んだ。
由羅の捨て身の一撃も、零にとどめを刺すまでには至らなかった…。
「さ、乗って」
シャフトはエレベーターになっていた。
そのドアがスライドすると、杏里を中に促して、冬美が言った。
「ジェニーが何を考えているのか、正直なところ、私たち人間にはわからない。でも、もしかして、同類のあなたなら、って思わないでもないの。よかったら、後で私に教えてくれないかしら。彼女があなたに何を話したのか」
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。