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#3 不気味な声
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瑞季女医は、「エコーをとらせてもらうね」と断り、僕の病衣の前をはだけてあちこちに聴診器みたいなものを当てると、やがて、
「あー、やっぱ、心臓の壁ペコペコだわ。まあ、機能は停止しても心筋は増殖するから、養生して壁が厚くなるの待つしかないね。それには二週間程度かかるけどさ」
そんな残酷なことを言い捨ててさっさと出て行ってしまった。
残されたのは研修生の乙都とかいう子と僕のふたりだけである。
「おっかない先生だな」
誰にともなくつぶやくと、乙都はまたちょっと丸っこい肩をすくめて、小さく舌を出した。
「でも、いい先生なんですよ。夜勤の時なんかはすっごく頼りになるし」
「ふーん、そうなんだ」
気のない返事を返して、乙都の肩越しに、足の先のカーテンのほうを見た見た時である。
妙なものが視界に入ってきて、僕はぎくりとなった。
女医が開けたまま出て行ったせいで、カーテンは半分ほど開いたままになっている。
その隙間から、向かい側のスペースを仕切ったベージュ色のカーテンが見える。
ここは個室ではなく、一般病棟の四人部屋なのだ。
だから当然、僕以外の患者も入院しているはずなのだが・・・。
僕がわが目を疑ったのは、一瞬、カーテンがふくらみ、その下の隙間から奇妙なものが見えたからだった。
え?
僕は眼を剥いた。
い、今の・・・な、なんだ?
背筋がゾクゾクした。
見間違いだろうか。
目を凝らす。
けれど、もう見えなかった。
「どうしたんですか?」
乙都が心配そうに目を上げて僕を見た。
「もしかして、胸、痛みますか?」
「い、いや、なんでもない」
僕は目をこすり、諦めてベッドにもぐりこんだ。
「よかった。じゃ、体温と血圧、測らせていただきますねー」
研修生が大きな目を柔和に綻ばせた時、正面のあのカーテンの向こうから、声が聞えてきた。
-ミ・ル・ク。ミ・ル・ク。ミ・ル・クううっ!
「あー、やっぱ、心臓の壁ペコペコだわ。まあ、機能は停止しても心筋は増殖するから、養生して壁が厚くなるの待つしかないね。それには二週間程度かかるけどさ」
そんな残酷なことを言い捨ててさっさと出て行ってしまった。
残されたのは研修生の乙都とかいう子と僕のふたりだけである。
「おっかない先生だな」
誰にともなくつぶやくと、乙都はまたちょっと丸っこい肩をすくめて、小さく舌を出した。
「でも、いい先生なんですよ。夜勤の時なんかはすっごく頼りになるし」
「ふーん、そうなんだ」
気のない返事を返して、乙都の肩越しに、足の先のカーテンのほうを見た見た時である。
妙なものが視界に入ってきて、僕はぎくりとなった。
女医が開けたまま出て行ったせいで、カーテンは半分ほど開いたままになっている。
その隙間から、向かい側のスペースを仕切ったベージュ色のカーテンが見える。
ここは個室ではなく、一般病棟の四人部屋なのだ。
だから当然、僕以外の患者も入院しているはずなのだが・・・。
僕がわが目を疑ったのは、一瞬、カーテンがふくらみ、その下の隙間から奇妙なものが見えたからだった。
え?
僕は眼を剥いた。
い、今の・・・な、なんだ?
背筋がゾクゾクした。
見間違いだろうか。
目を凝らす。
けれど、もう見えなかった。
「どうしたんですか?」
乙都が心配そうに目を上げて僕を見た。
「もしかして、胸、痛みますか?」
「い、いや、なんでもない」
僕は目をこすり、諦めてベッドにもぐりこんだ。
「よかった。じゃ、体温と血圧、測らせていただきますねー」
研修生が大きな目を柔和に綻ばせた時、正面のあのカーテンの向こうから、声が聞えてきた。
-ミ・ル・ク。ミ・ル・ク。ミ・ル・クううっ!
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