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#2 記憶喪失
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タイラミズキと名乗った女医の話によると、僕は丸二日、ICUで治療を受けていたのだという。
「キミがなぜ発作を起こしたのか、キミの名誉のためにも、あえて聞かないことにするよ。特にこの、乙都みたいな、いたいけな娘の前ではね。まあ、ICUで尿道にカテーテルを挿入する時、なんとなく気づいたが」
泰良瑞季女医の丸眼鏡が、意地悪くきらりと光る。
「は、はあ」
そんなこと、いきなり言われても・・・。
なんのことか、さっぱりだった。
僕自身、覚えていないのだ。
発作を起こした夜のことを。
それよりー。
尿道にカテーテルだって?
そういえば、下半身の様子がおかしいと思ったら、パンツの中に管が差し込まれて、その管がベッドの下まで垂れている。
その先はきっと、尿を溜める袋につながっているのだろう。
顔が熱くなるのがわかった。
ICUでの出来事もほとんど覚えていないけど、気を失っているのをいいことに、この女医は僕の大事な・・・。
でも、そこで何に気づいたというのだろう。
何のことか、さっぱりわからない。
僕は高校入学とともに家を出て、格安ワンルームマンションで独り暮らしをしている。
それは確かだ。
だから、記憶にはないけど、発作を起こした時、僕自身が119番したのだろう。
「とにかく、発作がひどかったせいで、キミの心臓の左心室の壁は一部壊死している。負担がかかり過ぎて、壁がペラペラに薄くなり、いつ心臓麻痺が起きてもおかしくない状況だ。せいぜいこの研修生の言うことをよく聞いて、養生して過ごすんだな。オトは看護学校でも決して出来のいいほうではないが、赤の他人のために一生懸命になれるという、個人主義者の多いイマドキの若者には珍しい美徳を持っている。ああ、それからもうひとつ言っておくが、いくら溜まってきたからといって、よこしまなことを考えるんじゃないぞ。今興奮したら、君の心臓は爆発する。それは私が保証する」
女医の無慈悲な台詞に、伊能乙都と名乗った看護師見習いが僕を見て、親分に見つからないよう、丸い肩をそっとすくめてみせた。
「キミがなぜ発作を起こしたのか、キミの名誉のためにも、あえて聞かないことにするよ。特にこの、乙都みたいな、いたいけな娘の前ではね。まあ、ICUで尿道にカテーテルを挿入する時、なんとなく気づいたが」
泰良瑞季女医の丸眼鏡が、意地悪くきらりと光る。
「は、はあ」
そんなこと、いきなり言われても・・・。
なんのことか、さっぱりだった。
僕自身、覚えていないのだ。
発作を起こした夜のことを。
それよりー。
尿道にカテーテルだって?
そういえば、下半身の様子がおかしいと思ったら、パンツの中に管が差し込まれて、その管がベッドの下まで垂れている。
その先はきっと、尿を溜める袋につながっているのだろう。
顔が熱くなるのがわかった。
ICUでの出来事もほとんど覚えていないけど、気を失っているのをいいことに、この女医は僕の大事な・・・。
でも、そこで何に気づいたというのだろう。
何のことか、さっぱりわからない。
僕は高校入学とともに家を出て、格安ワンルームマンションで独り暮らしをしている。
それは確かだ。
だから、記憶にはないけど、発作を起こした時、僕自身が119番したのだろう。
「とにかく、発作がひどかったせいで、キミの心臓の左心室の壁は一部壊死している。負担がかかり過ぎて、壁がペラペラに薄くなり、いつ心臓麻痺が起きてもおかしくない状況だ。せいぜいこの研修生の言うことをよく聞いて、養生して過ごすんだな。オトは看護学校でも決して出来のいいほうではないが、赤の他人のために一生懸命になれるという、個人主義者の多いイマドキの若者には珍しい美徳を持っている。ああ、それからもうひとつ言っておくが、いくら溜まってきたからといって、よこしまなことを考えるんじゃないぞ。今興奮したら、君の心臓は爆発する。それは私が保証する」
女医の無慈悲な台詞に、伊能乙都と名乗った看護師見習いが僕を見て、親分に見つからないよう、丸い肩をそっとすくめてみせた。
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