異世界病棟

戸影絵麻

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#1 目覚め

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 ずいぶんと長い間、悪夢にうなされていたようだ。
「ユイさん、ユイ、ソウタさ~ん」
 名前を呼ぶ声に、僕はゆっくりと目を開けた。
 足元と左側を、壁の代わりにカーテンで仕切られた狭い空間に、シングル・ベッドが一つ。
 僕はその上に寝ている。
 鼻の穴には酸素吸入器、両腕には細いチューブ、躰にも線が色々巻きついていて、ろくに身体を動かせない。
 右手には細長いテーブルがあり、その向こうの壁際には木製のチェストとテレビ、そして冷蔵庫。
 左手には点滴スタンドと3列に数字を表示したモニターがあり、頭のほうが壁になっている。
 デジタル画面のモニターは、医療ドラマなどでよくみかけるやつだ。
 僕は口の中で何か返事らしきものをしたらしい。
「入りますね~」
 カーテンの向こうで影が動いて、青い服の小柄な看護師と、背の高い白衣の女性が入ってきた。
「目が覚めたようね」
 僕を見下ろし、白衣のポケットに手を突っ込んで、女性が言った。
 丸眼鏡にひっつめ髪。
 すっぴんだが、そのアーモンド形の顔は見事に整っている。
 痩せているように見えるけど、白衣を押し上げる胸のボリュームはそれ相応に威圧的だった。
「自分の名前と生年月日、言ってごらん」
 丸眼鏡を光らせ、いきなり居丈高な口調で命令してきた。
 その脇で、童顔の看護師が心配そうに目を見開いている。
「由井・・・颯太、17歳、星辰高校の・・・一年生。生年月日、は・・・」
 すらすらと口をついて出た。
 別に頭はなんともないらしいとわかって、少しほっとする。
「よろしい」
 女医がうなずいた。
「私はあんたの担当医で、泰良瑞季。こっちが、研修生の伊能乙都。この循環器内科は、今、人手不足でね。キミの世話は、この研修生が担当することになるから、そのつもりで」
「よ、よろしくおねがいします」
 女医に押され、看護師の卵が前に出て、ぴょこんと頭を下げた。
 大きなマスクで顔の下半分を覆っている。
 でも、きれいで大きな目をした、可愛らしい雰囲気の女の子だった。
 特筆すべきは、半袖のナース服から伸びた二の腕だ。
 肌理の細かい白い肌は、いかにも柔らかそうで吸いつきもよさそうだ。
 「ひとつ言っておく。キミは心不全で死ぬ一歩手前だったんだ。だからしばらくはベッドの上で生活してもらう。死にたくなければ、絶対にそこから下りちゃいけないし、何かあったら、すぐこの子を呼べ。排便も含めてすべてだぞ。いいな」
 嗤ったのか、唇の端をかすかに吊り上げ、傍らの少女の肩を叩く。
「排便って・・・」
 僕はあんぐりと口を開けた。
「大も小もどっちも看護師が処理する。トイレに行くなど持ってほか。まあ、死にたいなら止めはしないが」
 女医はそっけない。ケンもホロロとはこのことだ。
 マジかよ・・・。
 僕は女医の冷笑を浮かべたようなその顔から、看護師見習いに視線を移した。
 この子に、下の世話を、全部頼めと・・・そういうわけか?
 と、大きな目でにっこり笑って、女の子が言った。
「ナースコール、手の届くところに置いておきます。用があったら、遠慮なく押してくださいね」

 


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