異世界病棟

戸影絵麻

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#9 あいまいな記憶

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 顏から血の気が引くのが分かった。
 覚えていない。
 名前と年齢、そして通っていた学校名・・・。
 それ以外の記憶が、出て来ないのだ。
 住んでいたマンションがどんなところで、部屋も間取りがどうで、どこにあったのかー。
 学校だって、星辰高校って名前は覚えてるけど、そこは私立なのか公立なのか、男子校か共学校なのかー。
 ICUで生死の境をさまよっていた時には、もっと色々覚えていた気がする。
 それが時が経つうちにどんどん記憶が抜け落ちて行ってしまって・・・。
 その上に、誰かがいい加減な記憶を貼りつけたみたいな感じだった。
 乙都は、そんな僕の混乱に気づいたらしかった。
「覚えてないんですね?」
 年下の僕に、丁寧語を使って、言った。
「発作を起こした時のことだけじゃなく、他のことも・・・?」
 僕はうなずいた。
「うん…自分の名前と年齢、それから学校名・・・それ以外は、全部・・・」
「全部? まあ、突然の発作だったから、仕方ないとは思うけど…」
 乙都の瞳に、気の毒そうな表情が浮かんだ。
 でも、と思う。
 瑞季女医は、僕のことを、心筋梗塞で運ばれたとか言っていたはずだ。
 心筋梗塞って、確か心臓に行く血管が詰まる病気だったはず。
 その心筋梗塞で、はたして記憶障害なんて、起こるものだろうか…。
「いいですよ。諸手続きは退院の日にしたっていいわけだし、入院費の支払いも。着替えも当分はその紙オムツと病衣で間に合いますから」
 乙都の言葉で、僕はようやく気づいた。
 僕が下半身に穿いているのは、パンツではなかった。
 カッコ悪いことに、なんと、紙オムツなのだ。
「入院の時に着てた服は、私が洗濯しておきましたから、よくなったらそれを着ればいいです。症状が落ち着けば、記憶が戻るってことも十分考えられますから」
「そ、そうだね」
 僕は気弱な笑みを口元に浮かべた。
「マジでさ、そうであってほしいよね」
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