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#11 蓮月という女
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「あ、こちらがさっき話した福士レンゲツちゃん。後で、私と一緒に颯太君のお身体を拭きに来ます」
頭ひとつは優に高い傍らの同僚を見上げて、乙都が言う。
「初めまして。レンゲツじゃなくて、レンゲです。んもう、何度言ったらわかるんだよ」
前半は僕に、後半は乙都に向けて、大女が言った。
福士蓮月は、身長180センチ以上ありそうな、見るからに大柄な女性だった。
乙都と同じ青い見習い看護師の制服を着ているけど、はちきれそうなほどぱつんぱつんである。
特に下半身がそうで、むっちりした太腿と大きなヒップがぱんぱんのズボンに詰め込まれて苦しそうだ。
「ごめんごめん。そういえばそうだったね」
乙都が苦笑する。
蓮月の横に並ぶと、小柄な乙都はまるで小学生か中学生のようだ。
「でも、楽しみだね」
僕をじろじろ眺めながら、蓮月が言った。
「循環器内科ってさあ、お年寄りばかりだからあ、こんな若い子、超珍しいよねー。いいなあ、乙都がうらやましいよ。だって、私なんかあれだよ。近藤さん、80歳近いおじいちゃんだし。いや、そもそもアレ、人間かどうかも疑問だったり」
「何言ってんの。変なこと言わないでよ。第一、近藤さんに失礼だよ」
乙都が少しばかりうろたえて、頬を紅潮させた時である。
僕はふと、誰かに見られているよな気がして、ふたりの間から見えている向かい側のカーテンに視線を向けた。
え?
ぞっとした。
背筋に氷柱でも落とし込まれた気分だった。
カーテンと床の間にある、10センチほどの隙間。
そこから、眼が覗いている。
血走った気味の悪いふたつの眼が、僕のほうを睨みつけているのだ。
にわかには信じられなかった。
いったい、どういう姿勢を取れば、あんな床すれすれから目だけを出すことができるのだろう?
床に這いつくばっているわけではなさそうだった。
躰の他の部分は見えないし、何より目の向きが、上下逆だからである。
しかも、ふたつある眼と眼の間が、異様に離れているー。
僕はすっかり蒼ざめてしまっていたようだ。
「どうしたの?」
その表情に気づいたのか、蓮月のほうが声をかけてきた。
「うちの近藤さんが、どうかした?」
どうやら僕が向かい側のカーテンを凝視していることにも気づいたようである。
が、彼女が振り返った時には、すでに眼は消えていた。
「な、なんでもない、です」
僕は弱々しくかぶりを振った。
まったく、あの隣人、気持ち悪すぎる。
これから退院するまでの間、僕はずっと彼と同居しなければならないのだろうか…?
そう考えると、気分が重くてならなかった。
頭ひとつは優に高い傍らの同僚を見上げて、乙都が言う。
「初めまして。レンゲツじゃなくて、レンゲです。んもう、何度言ったらわかるんだよ」
前半は僕に、後半は乙都に向けて、大女が言った。
福士蓮月は、身長180センチ以上ありそうな、見るからに大柄な女性だった。
乙都と同じ青い見習い看護師の制服を着ているけど、はちきれそうなほどぱつんぱつんである。
特に下半身がそうで、むっちりした太腿と大きなヒップがぱんぱんのズボンに詰め込まれて苦しそうだ。
「ごめんごめん。そういえばそうだったね」
乙都が苦笑する。
蓮月の横に並ぶと、小柄な乙都はまるで小学生か中学生のようだ。
「でも、楽しみだね」
僕をじろじろ眺めながら、蓮月が言った。
「循環器内科ってさあ、お年寄りばかりだからあ、こんな若い子、超珍しいよねー。いいなあ、乙都がうらやましいよ。だって、私なんかあれだよ。近藤さん、80歳近いおじいちゃんだし。いや、そもそもアレ、人間かどうかも疑問だったり」
「何言ってんの。変なこと言わないでよ。第一、近藤さんに失礼だよ」
乙都が少しばかりうろたえて、頬を紅潮させた時である。
僕はふと、誰かに見られているよな気がして、ふたりの間から見えている向かい側のカーテンに視線を向けた。
え?
ぞっとした。
背筋に氷柱でも落とし込まれた気分だった。
カーテンと床の間にある、10センチほどの隙間。
そこから、眼が覗いている。
血走った気味の悪いふたつの眼が、僕のほうを睨みつけているのだ。
にわかには信じられなかった。
いったい、どういう姿勢を取れば、あんな床すれすれから目だけを出すことができるのだろう?
床に這いつくばっているわけではなさそうだった。
躰の他の部分は見えないし、何より目の向きが、上下逆だからである。
しかも、ふたつある眼と眼の間が、異様に離れているー。
僕はすっかり蒼ざめてしまっていたようだ。
「どうしたの?」
その表情に気づいたのか、蓮月のほうが声をかけてきた。
「うちの近藤さんが、どうかした?」
どうやら僕が向かい側のカーテンを凝視していることにも気づいたようである。
が、彼女が振り返った時には、すでに眼は消えていた。
「な、なんでもない、です」
僕は弱々しくかぶりを振った。
まったく、あの隣人、気持ち悪すぎる。
これから退院するまでの間、僕はずっと彼と同居しなければならないのだろうか…?
そう考えると、気分が重くてならなかった。
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