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#40 検査の結果⑦
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真っ暗な中での苦行のような時間が続いた。
どういう仕組みになっているのか、僕を収納した鋼鉄の棺桶は、宇宙飛行士の訓練シミュレーターみたいに、複雑な動きを繰り返した。
おかげで僕は上下左右に激しく振り回され、吐きそうになった挙句、眼を回して昏倒した。
気づいたのは、ベッドの上である。
自分の病室ではなく、検査室の隣の部屋のようだった。
目を開けると、見覚えのある顔が僕を見下ろしていた。
顎の尖ったその美貌は、あの泰良瑞季医師である。
かぶった帽子の陰から、癖のある茶髪がのぞいている。
「気がついたか」
少しハスキーな声で、女医が言った。
「大変だったろうが、まあ、悪く思うな」
男みたいな口調である。
女医の後ろには乙都が控えめに佇んでいて、心配そうな表情で僕を見ている。
彼女はいつものように顔の下半分を大きなマスクで覆っているが、泰良医師はマスクをしていない。
きちんと化粧をしているようだから、メイクが剥げるのが嫌なのだろうか。
「単刀直入に言うが、予想よりかなり悪い」
女医が傍らのノートパソコンを指差して、言った。
パソコンの画面には、白黒の動画が映っている。
こぶしみたいな形のそれは、どうやら拍動する心臓のようだ。
「見ろ。ここが発作を起こした時に詰まった冠動脈だ。それ以外にこことここ。こんなに細くなっているだろう。まさにいつ詰まってもおかしくはないヤバさだよ」
「どうして・・・そんな・・・」
僕はうめき声を上げた。
血管の病むなんて、高齢者だけだと思っていた。
僕はタバコも吸わないし、お酒も飲まないのだ。
なのに、どうして・・・。
思い当たる理由がなかった。
「原因に心当たりがないことはないが・・・。発見時のキミの恰好から推測してもね。でもまあ、今はそれどころじゃない。今日中に血管拡張施術を施さないと、君は一両日中に心臓発作で死ぬ。確率は、そうだな、80%といったところだろう」
「は、80%・・・」
目の前が暗くなった。
そんなの、死刑宣告と同じじゃないか。
「それも、この状況では、普通のステントによる拡張じゃ間に合わない。開胸手術で人工血管のバイパスを作るか、あるいは動脈からの生体自生血管の移植しかなさそうだ」
しかつめらしい表情で、泰良女医が言う。
マジかよ・・・。
僕は絶句し、枕に頭を落とした。
よくわからないが、最悪の気分だった。
開胸手術?
血管の移植?
医療もののドラマの患者になった気がする。
「どうだ、ICUの空き状況は?」
女医が乙都を振り返る。
別のパソコンを操作していた乙都が顔を上げると、そこには苦渋の表情が宿っていた。
「それが・・・夕方までは、予約がいっぱいで・・・空きがあるとしたら、夜しかありません」
「夜か」
女医が天を仰ぐように、天井を見た。
「うーん、それだけはできれば避けたかったんだが・・・」
クールなこの人には珍しく、その横顔には明らかな苦悶の表情が刻まれていた・・・。
どういう仕組みになっているのか、僕を収納した鋼鉄の棺桶は、宇宙飛行士の訓練シミュレーターみたいに、複雑な動きを繰り返した。
おかげで僕は上下左右に激しく振り回され、吐きそうになった挙句、眼を回して昏倒した。
気づいたのは、ベッドの上である。
自分の病室ではなく、検査室の隣の部屋のようだった。
目を開けると、見覚えのある顔が僕を見下ろしていた。
顎の尖ったその美貌は、あの泰良瑞季医師である。
かぶった帽子の陰から、癖のある茶髪がのぞいている。
「気がついたか」
少しハスキーな声で、女医が言った。
「大変だったろうが、まあ、悪く思うな」
男みたいな口調である。
女医の後ろには乙都が控えめに佇んでいて、心配そうな表情で僕を見ている。
彼女はいつものように顔の下半分を大きなマスクで覆っているが、泰良医師はマスクをしていない。
きちんと化粧をしているようだから、メイクが剥げるのが嫌なのだろうか。
「単刀直入に言うが、予想よりかなり悪い」
女医が傍らのノートパソコンを指差して、言った。
パソコンの画面には、白黒の動画が映っている。
こぶしみたいな形のそれは、どうやら拍動する心臓のようだ。
「見ろ。ここが発作を起こした時に詰まった冠動脈だ。それ以外にこことここ。こんなに細くなっているだろう。まさにいつ詰まってもおかしくはないヤバさだよ」
「どうして・・・そんな・・・」
僕はうめき声を上げた。
血管の病むなんて、高齢者だけだと思っていた。
僕はタバコも吸わないし、お酒も飲まないのだ。
なのに、どうして・・・。
思い当たる理由がなかった。
「原因に心当たりがないことはないが・・・。発見時のキミの恰好から推測してもね。でもまあ、今はそれどころじゃない。今日中に血管拡張施術を施さないと、君は一両日中に心臓発作で死ぬ。確率は、そうだな、80%といったところだろう」
「は、80%・・・」
目の前が暗くなった。
そんなの、死刑宣告と同じじゃないか。
「それも、この状況では、普通のステントによる拡張じゃ間に合わない。開胸手術で人工血管のバイパスを作るか、あるいは動脈からの生体自生血管の移植しかなさそうだ」
しかつめらしい表情で、泰良女医が言う。
マジかよ・・・。
僕は絶句し、枕に頭を落とした。
よくわからないが、最悪の気分だった。
開胸手術?
血管の移植?
医療もののドラマの患者になった気がする。
「どうだ、ICUの空き状況は?」
女医が乙都を振り返る。
別のパソコンを操作していた乙都が顔を上げると、そこには苦渋の表情が宿っていた。
「それが・・・夕方までは、予約がいっぱいで・・・空きがあるとしたら、夜しかありません」
「夜か」
女医が天を仰ぐように、天井を見た。
「うーん、それだけはできれば避けたかったんだが・・・」
クールなこの人には珍しく、その横顔には明らかな苦悶の表情が刻まれていた・・・。
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