45 / 88
#44 応急措置
しおりを挟む
「やれやれ、さっき検査したばかりだっていうのに、いったい全体今度は何の騒ぎだ」
仏頂面で引き返してきた泰良瑞季女史が、細い腰に手を当て、呆れたような顏で僕を見下ろした。
「そ、それが、モニター画面に変な紙人形みたいなものが貼りつけてあって、それを見たとたん颯太さんが・・・」
乙都がうなだれて、おどおどした口調で説明する。
「紙人形? なんだそれは? そんなもの、どこにある?」
女医が丸眼鏡に手をやって、部屋の中を見回した。
「わ、わかりません。私がはぎ取って、床に捨てたはずなんですけど・・・」
いや、床じゃない。
あれは天井に貼りついていたのだ。
あたかも苦しむ僕を見下ろすように・・・。
「まあ、いい。そろそろ匂いを嗅ぎつけるやつが出てきても不思議じゃない。東棟の差し金という可能性もある。だが、この検体は心臓外科のやつらに渡すわけにはいかないんだ」
女医の言葉は半分が意味不明だ。
検体というのはおそらく僕のことだろうが、なぜそこに東棟だの心臓外科だのが出てくるのか。
病棟内に、派閥争いでもあるみたいな口ぶりだ。
「とりあえず、ニトロを舐めておけ。正式な施術は夜中になるから、それまでの応急措置だ」
女医が僕の口をこじ開け、舌の下に錠剤を放り込んだ。
このニトロというのは、例の溶かして服用する頓服薬である。
苦い薬を飲みこむと、まだしつこく残っていた胸苦しさが、すーっと嘘のように引いていった。
「点滴に睡眠薬を投与しろ。どうせ夕食も抜きだから、少年はそのまま深夜まで寝かせておけ。あと、これをカーテンの外側に吹きつけておくといい」
女医が乙都に、白衣のポケットから取り出したスプレー式の消毒薬みたいなものを渡した。
「これは?」
「虫除けだよ。これを散布すれば、一時的に結界が張れる。元はと言えば、保管庫の護符替わりに使っているものだが」
特別な消毒液・・・。
そういえば、失踪する前に、藤田氏がそんなようなことを話していた気がする。
ある特殊な消毒液のある場所に行けば、”やつら”も寄ってこないとかなんとか・・・。
”やつら”というのが何なのかわからないけど、特殊な消毒液って、これのことじゃなかろうか・・・。
「わかりました」
乙都が有り難そうにスプレーを受け取り、豊かな胸に抱いた。
「つまり、感染予防ってわけですね。こうなったら、隅から隅までしっかり散布しておきます」
「まあな。強いて言うなら、悪夢からの感染を予防するってことになるだろうが・・・。レンゲの担当患者といい、どうも最近、この昼世界に対する汚染が目立つようだ」
「あれ、そういえば、レンゲちゃんは?」
乙都がキョロキョロ周囲を見回すと、カーテンの向こうから、蓮月のひそひそ声が漏れ聞こえてきた。
「ああん、そんなに強く吸っちゃダメ。隣に先生が来てんのよ。ばれたらどうすんの?」
やれやれ、というふうに両手を広げる泰良女医。
乙都が大きな瞳を伏せ、ぽっと目の下を赤らめた。
どうやら蓮月のやつ、先生を呼びに行ったついでに、いつのまにかまたコンドウサンの所に戻っていたらしい。
「それはそうと、少年」
女医が掛布団をめくって、僕のカテーテルを手に取り、ためつすがめつ眺め始めた。
「きょうも、もうすでに精通があったそうだが、その時は心臓の具合はどうだった?」
「え、えと」
今度は僕が赤くなる番だった。
「平気でした。きょうは乙都ひとりだったし、やり方が優しかったから・・・」
「そうか」
女医が、クールな視線を首から上を赤く染めてもじもじしている乙都に向けた。
「そういうことなら、今後のエキス採取係は乙都で決まりだな」
仏頂面で引き返してきた泰良瑞季女史が、細い腰に手を当て、呆れたような顏で僕を見下ろした。
「そ、それが、モニター画面に変な紙人形みたいなものが貼りつけてあって、それを見たとたん颯太さんが・・・」
乙都がうなだれて、おどおどした口調で説明する。
「紙人形? なんだそれは? そんなもの、どこにある?」
女医が丸眼鏡に手をやって、部屋の中を見回した。
「わ、わかりません。私がはぎ取って、床に捨てたはずなんですけど・・・」
いや、床じゃない。
あれは天井に貼りついていたのだ。
あたかも苦しむ僕を見下ろすように・・・。
「まあ、いい。そろそろ匂いを嗅ぎつけるやつが出てきても不思議じゃない。東棟の差し金という可能性もある。だが、この検体は心臓外科のやつらに渡すわけにはいかないんだ」
女医の言葉は半分が意味不明だ。
検体というのはおそらく僕のことだろうが、なぜそこに東棟だの心臓外科だのが出てくるのか。
病棟内に、派閥争いでもあるみたいな口ぶりだ。
「とりあえず、ニトロを舐めておけ。正式な施術は夜中になるから、それまでの応急措置だ」
女医が僕の口をこじ開け、舌の下に錠剤を放り込んだ。
このニトロというのは、例の溶かして服用する頓服薬である。
苦い薬を飲みこむと、まだしつこく残っていた胸苦しさが、すーっと嘘のように引いていった。
「点滴に睡眠薬を投与しろ。どうせ夕食も抜きだから、少年はそのまま深夜まで寝かせておけ。あと、これをカーテンの外側に吹きつけておくといい」
女医が乙都に、白衣のポケットから取り出したスプレー式の消毒薬みたいなものを渡した。
「これは?」
「虫除けだよ。これを散布すれば、一時的に結界が張れる。元はと言えば、保管庫の護符替わりに使っているものだが」
特別な消毒液・・・。
そういえば、失踪する前に、藤田氏がそんなようなことを話していた気がする。
ある特殊な消毒液のある場所に行けば、”やつら”も寄ってこないとかなんとか・・・。
”やつら”というのが何なのかわからないけど、特殊な消毒液って、これのことじゃなかろうか・・・。
「わかりました」
乙都が有り難そうにスプレーを受け取り、豊かな胸に抱いた。
「つまり、感染予防ってわけですね。こうなったら、隅から隅までしっかり散布しておきます」
「まあな。強いて言うなら、悪夢からの感染を予防するってことになるだろうが・・・。レンゲの担当患者といい、どうも最近、この昼世界に対する汚染が目立つようだ」
「あれ、そういえば、レンゲちゃんは?」
乙都がキョロキョロ周囲を見回すと、カーテンの向こうから、蓮月のひそひそ声が漏れ聞こえてきた。
「ああん、そんなに強く吸っちゃダメ。隣に先生が来てんのよ。ばれたらどうすんの?」
やれやれ、というふうに両手を広げる泰良女医。
乙都が大きな瞳を伏せ、ぽっと目の下を赤らめた。
どうやら蓮月のやつ、先生を呼びに行ったついでに、いつのまにかまたコンドウサンの所に戻っていたらしい。
「それはそうと、少年」
女医が掛布団をめくって、僕のカテーテルを手に取り、ためつすがめつ眺め始めた。
「きょうも、もうすでに精通があったそうだが、その時は心臓の具合はどうだった?」
「え、えと」
今度は僕が赤くなる番だった。
「平気でした。きょうは乙都ひとりだったし、やり方が優しかったから・・・」
「そうか」
女医が、クールな視線を首から上を赤く染めてもじもじしている乙都に向けた。
「そういうことなら、今後のエキス採取係は乙都で決まりだな」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
10秒で読めるちょっと怖い話。
絢郷水沙
ホラー
ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる