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#46 異形たち
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泥だらけの生き物の一匹が、意外な敏捷さをみせて、いきなり芸人の足に飛びかかった。
開いた口にずらりと植わったナイフのような歯が、ぎらりと光った。
「いてっ! なんだこいつはあ!」
芸人が絶叫して、仔猫ほどもあるその生き物を蹴り飛ばす。
「下がって、みんな下がって!」
スタッフと思しき男たちが池の底に駆け下りると、蜘蛛の子を散らすように子どもたちが逃げ出した。
おぎゃあ、おぎゃあ。
その間にも、真っ黒な異形の生き物たちは、次々にタール状の泥の山の中から這い出てくる。
短い四肢を懸命に動かしてのたうちまわりながら前進するその生き物たちは、形こそ人間の赤ん坊に似ているが、口の中には鋭い歯が生えそろい、しかもその性質はひどく凶暴なようだ。
「殺せ! 殺せ!」
ジーンズの右太腿あたりから血を流した芸人が、金切り声で喚き立て、近づく生き物を踏み潰す。
その狂気が感染したのか、テレビ局のスタッフたちも、這い寄る生き物たちに向けて足を振り上げる。
曇天の下、突如として起こった大惨事を、橋の上から野次馬たちがスマホで撮影し始めた。
こ、これは、いったい・・・?
血なまぐさい匂いが鼻をつく。
潰される生き物たちの悲鳴が空気をつんざいた。
僕はその中に居て、ただ眼前に展開される修羅場を見守るしかない。
と、すぐ後ろに人が立つ気配がした。
「あなた、何も感じないの?」
耳元に息を吹きかけるように、その誰かがささやいた。
ぎくりとした。
どこかで聞いたことのある声だった。
振り向くな。
頭の隅で、もうひとりの僕が叫んだ。
なにがあっても、振り向くんじゃないー。
「だってあれは・・・でしょ?」
無視する僕にかまわず、声が続けた。
池の底から湧き上がる男たちの怒声と生き物たちの潰れる音で、一部声がかき消される。
「しらばっくれたってだめ。私、ずっと見てたんだから」
「やめろ!」
非難するような声に耐えきれず、いつしか僕は大声で怒鳴り返していた。
「おまえなんかに関係ない! それ以上言うな! やめろって言ってるんだ!」
開いた口にずらりと植わったナイフのような歯が、ぎらりと光った。
「いてっ! なんだこいつはあ!」
芸人が絶叫して、仔猫ほどもあるその生き物を蹴り飛ばす。
「下がって、みんな下がって!」
スタッフと思しき男たちが池の底に駆け下りると、蜘蛛の子を散らすように子どもたちが逃げ出した。
おぎゃあ、おぎゃあ。
その間にも、真っ黒な異形の生き物たちは、次々にタール状の泥の山の中から這い出てくる。
短い四肢を懸命に動かしてのたうちまわりながら前進するその生き物たちは、形こそ人間の赤ん坊に似ているが、口の中には鋭い歯が生えそろい、しかもその性質はひどく凶暴なようだ。
「殺せ! 殺せ!」
ジーンズの右太腿あたりから血を流した芸人が、金切り声で喚き立て、近づく生き物を踏み潰す。
その狂気が感染したのか、テレビ局のスタッフたちも、這い寄る生き物たちに向けて足を振り上げる。
曇天の下、突如として起こった大惨事を、橋の上から野次馬たちがスマホで撮影し始めた。
こ、これは、いったい・・・?
血なまぐさい匂いが鼻をつく。
潰される生き物たちの悲鳴が空気をつんざいた。
僕はその中に居て、ただ眼前に展開される修羅場を見守るしかない。
と、すぐ後ろに人が立つ気配がした。
「あなた、何も感じないの?」
耳元に息を吹きかけるように、その誰かがささやいた。
ぎくりとした。
どこかで聞いたことのある声だった。
振り向くな。
頭の隅で、もうひとりの僕が叫んだ。
なにがあっても、振り向くんじゃないー。
「だってあれは・・・でしょ?」
無視する僕にかまわず、声が続けた。
池の底から湧き上がる男たちの怒声と生き物たちの潰れる音で、一部声がかき消される。
「しらばっくれたってだめ。私、ずっと見てたんだから」
「やめろ!」
非難するような声に耐えきれず、いつしか僕は大声で怒鳴り返していた。
「おまえなんかに関係ない! それ以上言うな! やめろって言ってるんだ!」
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