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#50 エレベーターホールの死闘②
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天井を影が走る。
それもひとつではない。
人間の手首から先、五本の指を広げた手のひらみたいな形のものが、何匹も天井から壁を這い回る。
周辺からは気味の悪いうめき声や叫び声が絶えず聞こえ、時折ケタケタという甲高い笑い声が爆発して布団から目だけ出した僕をびくつかせた。
「えい! やあ! これでもくらえ!」
天井に注射器を向け、乙都が走りくる影に柚子入りの聖水とやらを吹きかけている。
何か人の形をしたものがベッドにつかみかかろうと手を伸ばすのを、先生が鞭でしばき倒す音が響いてくる。
その間にもふたりはエレベーターに向かってガラガラと僕の乗ったベッドを押していく。
「箱はまだ来ないのか?」
ホールを突っ切って閉まった扉の前でキャスター付きのベッドを止めると、点滴スタンドを構えて立つ蓮月に、いらついた口調で先生がたずねた。
「1階まで下りていましたから、あるいは中に…」
扉の上の表示を見ると、今、エレベーターは3階を通過したところだ。
「1階といえばコンビニとカフェか。残飯を食いつくしたシビトツキが餌を求めて乗ってくる可能性があるな」
「先生はベッドと一緒に少し下がっていてください。ドアが開いたらうちとレンゲで」
「そうだね。両サイドに別れよう」
巨大注射器をかまえた乙都が向かって右側、鋼鉄製の点滴スタンドを頭上に振り上げた蓮月が左側に陣取った。
先生は、背後から迫ってくる”ナニカ”に、時々鋭く鞭をふるっているようだ。
乙都たちの活躍で一時鎮まっていたエレベーターホールに、新たなざわめきが潮のように満ち始めている。
先生の言っていた第二陣とやらが、到着したのかもしれない。
なにがなんだかわからない。
ただ、これがのっぴきならない事態だということだけは、ひしひしと肌で感じることができた。
夜になって、病棟が丸ごとお化け屋敷にでも変わってしまったような騒ぎだった。
「来るよ」
と、ふいに乙都が低く押し殺した声で言った。
「あいさ」
蓮月が目顔でうなずいた。
エレベーターの階数表示が、いつのまにか「5」になっている。
5階というのは、もちろん、この階だ。
来るって、何が…?
思わず身を起こしかけると、その時、チン、という澄んだ音がしてー。
それもひとつではない。
人間の手首から先、五本の指を広げた手のひらみたいな形のものが、何匹も天井から壁を這い回る。
周辺からは気味の悪いうめき声や叫び声が絶えず聞こえ、時折ケタケタという甲高い笑い声が爆発して布団から目だけ出した僕をびくつかせた。
「えい! やあ! これでもくらえ!」
天井に注射器を向け、乙都が走りくる影に柚子入りの聖水とやらを吹きかけている。
何か人の形をしたものがベッドにつかみかかろうと手を伸ばすのを、先生が鞭でしばき倒す音が響いてくる。
その間にもふたりはエレベーターに向かってガラガラと僕の乗ったベッドを押していく。
「箱はまだ来ないのか?」
ホールを突っ切って閉まった扉の前でキャスター付きのベッドを止めると、点滴スタンドを構えて立つ蓮月に、いらついた口調で先生がたずねた。
「1階まで下りていましたから、あるいは中に…」
扉の上の表示を見ると、今、エレベーターは3階を通過したところだ。
「1階といえばコンビニとカフェか。残飯を食いつくしたシビトツキが餌を求めて乗ってくる可能性があるな」
「先生はベッドと一緒に少し下がっていてください。ドアが開いたらうちとレンゲで」
「そうだね。両サイドに別れよう」
巨大注射器をかまえた乙都が向かって右側、鋼鉄製の点滴スタンドを頭上に振り上げた蓮月が左側に陣取った。
先生は、背後から迫ってくる”ナニカ”に、時々鋭く鞭をふるっているようだ。
乙都たちの活躍で一時鎮まっていたエレベーターホールに、新たなざわめきが潮のように満ち始めている。
先生の言っていた第二陣とやらが、到着したのかもしれない。
なにがなんだかわからない。
ただ、これがのっぴきならない事態だということだけは、ひしひしと肌で感じることができた。
夜になって、病棟が丸ごとお化け屋敷にでも変わってしまったような騒ぎだった。
「来るよ」
と、ふいに乙都が低く押し殺した声で言った。
「あいさ」
蓮月が目顔でうなずいた。
エレベーターの階数表示が、いつのまにか「5」になっている。
5階というのは、もちろん、この階だ。
来るって、何が…?
思わず身を起こしかけると、その時、チン、という澄んだ音がしてー。
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